ファーストキャリア

OJTトレーナーの選定基準はどうすべき?若手育成のプロが解説

OJTトレーナーの選定基準はどうすべき?若手育成のプロが解説
新入社員の配属が決まり、「誰をOJTトレーナーにするべきか」と悩む方は多いのではないでしょうか。
現場の部門長から推薦されたハイパフォーマー社員を、そのままアサインしていいのか迷うこともあるはずです。

結論から言うと、OJTトレーナーの選定において「現場のハイパフォーマー」を無条件で選ぶのは非常に危険です。
本記事では、若手育成のプロフェッショナルであるファーストキャリアが、心理学的な根拠とリアルな失敗事例を交えながら、
自社に最適なOJTトレーナーを見極めるための「選定基準」を解説します。

OJTトレーナーの選定基準は「2つの軸」で考える

誰をOJTトレーナーに任命すべきか迷った際は、単なる業務成績ではなく、
「年次・属性」「パーソナリティ」という2つの軸で分析・選定することが重要です。

【年次・属性】:年次が近い若手を選ぶ(知識の呪いを回避する)

最初の基準は、新入社員と「年次が近い若手」を選ぶことです。
一般的に、経験豊富なベテランや熟達したプレイヤーの方が教えるのが
上手いと思われがちですが、育成においては必ずしもそうとは限りません。

ここには「知識の呪い」と呼ばれる認知バイアスが働いています。これは、自分がすでに知っていることを
「他人も当然知っているだろう」「少し説明すれば分かるだろう」と無意識に錯覚してしまう心理的メカニズムです。

一度「知っている状態」に到達すると、人間は「知らなかった頃の状態」を正確に想像することが非常に困難になります。
OJTの現場でも、熟達したプレイヤーほど、業務の前提知識や暗黙知を無意識に省略して説明してしまいがちです。

名プレイヤーが必ずしも名コーチになるとは限らないのはこのためです。年次やスキルが離れすぎていると、
トレーナー側は「なぜこんな簡単なことができないのか」と苛立ち、
新入社員側は「専門用語や抽象的な表現が多くて、何が分からないのかすら分からない」と混乱する原因となります。
だからこそ、つい最近まで初心者として同じ壁にぶつかっていた「年次が近い若手」を選ぶことで、新人のつまずきポイントに共感し、
理解度に合わせて適切な粒度で伴走することが可能になるのです。

【パーソナリティ】「評価不安」が低い人を選ぶ

2つ目の基準は、他者からの評価を過剰に気にする「評価不安」が低い人を選ぶことです。

評価不安が強い人は、「新人にどう思われるか」「嫌われたくない」という思いが先行し、耳の痛いフィードバックや適切な指導ができなくなります。
心理学の観点から見ると、他者からの評価を過剰に気にする人は「自己防衛意識」が強く働く傾向があります。
自らフィードバックすることを恐れるほか、新人の何気ない言動や態度に対して「自分のことを下に見ているのではないか」「何か文句があるのか」と
過敏に反応(敵意帰属バイアス)してしまうことも珍しくありません。
結果として、自身の能力への自信のなさや不安を覆い隠すために、新入社員に対して必要以上に厳しく接したり、
理不尽にマウントを取って自分の優位性を示そうとしたりするのです。

「嫌われたくなくて指導を避ける」一方で「自身の不安から高圧的になる」という一貫性のない態度は、
新入社員からすると「どう接すればいいか分からない」「質問しづらい」という状態を生み出し、
そんな心理的安全性が欠けた状態がオンボーディングを大きく阻害してしまいます。

新人との円滑なコミュニケーションを築き、心理的安全性のあるオンボーディングを実現するためには、
自己愛や評価不安に振り回されない、精神的に安定したパーソナリティの持ち主であることが不可欠です。

事例:ハイパフォーマーが新人を潰した事例

OJTトレーナーの選定で「現場のハイパフォーマー」を無条件でアサインしてはいけない理由は、
上記の「知識の呪い」や「パーソナリティ」の問題が顕著に表れやすいケースがあるからです。

承認欲求(マウント欲求)が新人を潰してしまう

もちろん、ハイパフォーマー社員の全員が教えるのが苦手というわけではありません。しかし、自身の能力をストイックに研鑽し、
結果を出し続けているハイパフォーマーの中には、強い承認欲求やマウント欲求を抱えているタイプが一定数存在します。

心理学的に見ると、こうした強い欲求の背景には「他者からの評価に対する過度な懸念(評価不安)」が隠れていることが少なくありません。
「常に優秀であり続けなければならない」「下から突き上げられたくない」という不安があるからこそ、
人一倍自己研鑽に励んで成果を出しているとも言えるのです。

表面上は優秀なハイパフォーマーだから指導も任せられるだろうと安易にアサインすると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。
このタイプは、新人を「自分の優秀さをアピールするための道具」として扱ったり、分からないことを質問された際に
「なぜこんなこともできないのか」と無意識にマウントを取ってしまったりする危険性があるためです。

実例:自分のやり方を押し付け、新人が適応できなくなったケース

ここでは、弊社のご支援する現場で実際に起きた失敗事例をご紹介します。

ある企業では、成績トップのハイパフォーマー社員を「この人の背中を見て学んでほしい」と新人のOJTトレーナーに任命しました。
しかし、そのハイパフォーマー社員は「自分のやり方が絶対である」と信じて疑わず、
新人の個性や理解度を無視して、初めから高度な要求を突きつけました。

新人がそのハイレベルな要求についていけない態度を見せると、ハイパフォーマー社員は指導を放棄するまではいかないものの、
「見込みがない」と態度を硬化させ、扱いを粗雑にするようになってしまったのです。
結果として、新入社員は自信を完全に喪失し、コンディションを大きく崩して業務に適応できなくなってしまいました。

このような事態を防ぐためにも、プレイヤーとしての優秀さだけで選定するのは避けるべきです。

最初の1年間は「足腰のしっかりした社員」が最適解

では、具体的にどのような社員をOJTトレーナーに選ぶべきなのでしょうか。結論として、オンボーディングの最初の1年間においては、
社会人としての「足腰」がしっかりしている社員が最適です。

新人は「優秀な先輩」を求めるが、実際は業務適応で手一杯

鼻息の荒い新入社員は、「優秀なハイパフォーマーの先輩についていきたい」「高度なスキルを早く盗みたい」と思うかもしれません。
そのため、プレイヤーとしてそこまで目立たない社員がOJTにつくと、最初は拍子抜け感を抱くこともあるでしょう。

しかし、実際に現場で仕事を始めると、新人は日々の業務に適応することだけで必死になり、
ハイパフォーマーのスタイルを真似する余裕はなくなります。
最初の1年間は、高度な専門スキルよりも、社会人としての基礎を固めることが何より重要なのです。

オンボーディングに不可欠な「足腰(基本行動・言語化能力)」とは

ここで言う「足腰がしっかりしている社員」とは、以下の要素を満たす人物を指します。

・挨拶、時間管理、報連相など、社会人としての「基本行動」が徹底されている
・困難な状況でも他責にしないなど、仕事に対する「基本スタンス」がブレていない
・自分の業務プロセスやノウハウを、感覚ではなく分かりやすく「言語化」できる

「成績が圧倒的ではない社員をトレーナーにして、新人が尊敬できるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
オンボーディングの最初の1年間における最大の目的は、「すぐにハイパフォーマーを育てること」ではなく、
「組織に馴染み、一人で基本的な業務サイクルを回せる状態(自立)にすること」です。

ハイパフォーマーやベテランの暗黙知的、「背中を見て育て」的な指導では、それに食らいつける一部の優秀な新人しか育ちません。
一方で、足腰がしっかりしている社員は、自身が業務でつまずいた経験や、それを乗り越えたプロセスを「言語化」して教えることができます。

新人が最初に身につけるべきは、神業のようなテクニックではなく、再現性のある基本行動とスタンスです。
だからこそ、それらを体現し、同じ目線で伴走できる「足腰の強い若手社員」をトレーナーに選定することが、最も確実で効果的な育成への近道となるのです。

まとめ

OJTトレーナーの選定は、新入社員の成長スピードや定着率を大きく左右する重要な意思決定です。
「現場のハイパフォーマーだから」「成績が良いから」といった安易な理由でアサインするのではなく、
「年次や共感性」「評価不安の低さ」「社会人としての足腰」といった明確な基準を持って選定しましょう。

参考文献

本記事の執筆にあたり、以下の文献・記事を参考にしています。

  • アダム・グラント、楠木 建『HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学――あなたの限界は、まだ先にある』(三笠書房)
  • 榎本博明『【新装版】かかわると面倒くさい人』(日経プレミアシリーズ)
  • 榎本博明『【新装版】薄っぺらいのに自信満々な人』(日経プレミアシリーズ)
  • 株式会社ビジネスリサーチラボ「『知識の呪い』とは:わかりやすく伝えるための心理学」(https://www.business-research-lab.com/250501/