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「BGM」が研修効果に与える影響とは?明日からできる学習環境デザインの工夫について解説

「BGM」が研修効果に与える影響とは?明日からできる学習環境デザインの工夫について解説
現代の企業研修において、人事・研修担当者が直面する課題の一つに「受講者の集中力の維持」が挙げられます。
特に大手企業における大規模な階層別研修や、昨今のハイブリッド型研修では、開始直後の重苦しい空気感や、長時間の講義による疲れ、ならびに内職と呼ばれる研修中の作業が、学習内容の定着(学習転移)を阻害する要因となっています。

そこで注目されているのが、学習環境のデザインです。中でも「BGM」の活用は、低コストでありながら受講者の心理的・生理的状態に即座に
働きかけ、研修の立ち上がりや没入度を比較的少ないコストで改善できる可能性があると考えています。

本記事では、BGMが研修効果に与える影響について考えていきたいと思います。

日常に潜む「戦略的なBGM」とは?

研修という場面を離れても、私たちの身の回りには特定の目的を持って音楽が活用されている事例が数多く存在します。
これらは、研修における学習環境をデザインする上で、非常に示唆に富んでいるのではないでしょうか。

例えば、極限の集中力が求められる医療現場。多くの執刀医が手術室で音楽を流しているのは、単なるリラックスのためではありません。
JAMA(米国医師会雑誌)に掲載された研究(1994)によれば、外科医が好みの音楽を聴きながら作業を行うと、無音時と比較して自律神経が安定し、タスクの正確性が有意に向上することが示されています。これは、音楽が「認知的ノイズ」を遮断し、フロー状態に入ることに寄与している実例と言えるでしょう。

また、患者の視点に立てば、病院の待合室で流れる緩やかな楽曲は、不安感から生じるストレスホルモン「コルチゾール」の分泌を抑制し、
心理的な安全性を確保するうえで有効です(Leardi et al., 2007)。

「消費者の行動」をコントロールするという点では、小売業界における音楽活用が最も有名かもしれません。マーケティング学者のロナルド・ミリマンによる古典的かつ強力な研究(1982)によると、BGMのテンポが顧客の移動速度を物理的に変えることが記されています。
例えば、スローテンポな曲を流すことが顧客の滞在時間を延ばします。結果的にスーパーマーケットでは売上を約38%向上させ、レストランでは飲料の注文額を増加させる。我々の知らないところで、音楽は戦略的に活用されているということですね。

これらの例からわかるのは、音楽は決して「なんとなく流す」ものではなく、「その場にいる人に、心身ともにどういう状態になってほしいか、
どう動いてほしいか」という目的から逆算して設計されるべき要素
であるということです。

なぜ「学習環境で流れる音楽」が研修効果を左右するのか

研修の成果は「コンテンツ(何を教えるか)」と「デリバリー(どう教えるか)」の掛け合わせで決まります。
しかし、多くの研修現場で見落とされがちなのが、その土台となる「コンテキスト(どのような状態で学ぶか)」です。

研修の場で流れる音楽は、受講者を「緊張モード(緊張・警戒)」から「学習モード(開放・集中)」へと切り替えるための役割を果たします。
音楽が人間に与える影響は、「何となく雰囲気が良くなる」といった主観的な感想にとどまりません。様々な研究から、以下の3つの効果が実証されています。

① 適度な緊張感を作ることができる

研修で新たな情報・知識を吸収するためには、脳が適切な「覚醒レベル」にある必要があります。
Husainら(2002)の研究では、音楽のテンポや旋律が、聴き手の空間的・認知的パフォーマンスに影響を与えることが示されました。
静まり返った研修室は、受講者に過度な緊張や、逆に退屈を与えます。適切なBGMを流すことで、場に適度な緊張感を作ります。

② 研修のポジティブな記憶を残すことができる

心地よいと感じる音楽を聴くとき、脳内では快感に関わる神経伝達物質「ドーパミン」が放出されます。
Ferreriら(2019)の研究は、音楽がドーパミンを介して、体験としての記憶(エピソード記憶)の定着を促進することを明らかにしました。
成功体験を意図した場面で特定の音楽を重ねることで、学習内容を「ポジティブな成功体験」として脳に深く刻み込むことができます。

③ 認知負荷を軽減し、作業効率を高めることができる

Sweller(1988)が提唱した認知負荷理論によれば、人間のワーキングメモリには限界があります。
単純作業や活発な議論の場面では、リズムのある音楽が作業効率を向上させることがHallamら(2002)の研究でも示唆されています。

みなさんもご自身が作業・勉強する際に、自分でBGMをセレクトして集中力を高めた経験があるのではないでしょうか。
無音より何かしらの音楽が流れている方が集中できる。これは個人の作業に留まらず、研修でも同じことが言えるということですね。
このように、BGMを用いて学習環境をデザインすることができれば、より研修への没入度が高まり、研修効果を向上させることにつながると言えるでしょう。

実際の研修でどのような音楽を流すべきなのか?

研修の「流れ」に合わせて、どのタイミングでどのようなBGMを配置すべきなのかまとめてみました。

オープニング(受付~開始前)

ー 開放的になれるようなアップテンポの曲がおすすめ

研修が始まる前の「場」を作る時間です。受講者同士が顔なじみではない場合、対話が生まれず、無音で待機することとなるでしょう。
これでは受講前に緊張感が漂ってしまい、研修の立ち上がりに時間がかかってしまう可能性があります。

ここでは緊張の緩和と期待感の醸成を目的とし、110 130BPM程度の明るいメジャーコードの曲を選び、流すのが良いでしょう。アップテンポな
ジャズや清潔感のあるインストゥルメンタルが流れていると、初対面の人も多く緊張している場合でも、開放的な感覚を持つことができます。
場合によっては雑談が生まれ、受講者の心理的安全性を高めることに寄与していくことでしょう。

イメージ:https://dova-s.jp/bgm/play2452.html

グループワーク・議論

ー 沈黙による不安を解消しつつ、対話を邪魔しない曲がおすすめ

議論の時間は、沈黙による不安を解消し、対話を活性化させる必要があります。しかし、無音だと「自分だけの声が空間に響く」ことを恐れてしまい、中々議論が立ち上がらない場面が散見されます。そのため、議論が始まるタイミングで「自分以外の音が空間に響いている」状況を作ることが重要となります。その際、対話を邪魔しないよう、リズムが一定でメロディが主張しすぎない曲(ボサノバや軽快なアコースティック)を用いることが良いでしょう。BGMにより、周囲の声を適度に遮断する「マスキング効果」が生まれ、受講者は自分たちのグループの議論に没入しやすくなります。

イメージ:https://dova-s.jp/bgm/play1344.html 

個人での振り返り・作業

ー 集中できるよう、スローテンポで低刺激な曲がおすすめ

内省や自分自身の思考と向き合う場面では、脳をリラックスさせつつ高い集中力を維持する環境が必要です。
スローテンポで低刺激なバロック音楽(60BPM程度)や自然音を選ぶことで、深い思考をサポートするでしょう。

イメージ:https://dova-s.jp/bgm/play22619.html

研修担当者が押さえておきたいポイント

研修にBGMを導入し、運用していくためには押さえておくべきポイントがあります。特に研修担当の方が「知らなかった」ことでリスクになることもありますので、ご紹介いたします。

現場の音響設計

大規模な会場になればなるほど、スピーカーの配置が重要です。よくある失敗として、ステージ前方の据え置きスピーカーのみで音を届けようとすることです。これでは前方の受講者は騒音に悩まされ、後方の受講者には何も聞こえないという空間内のムラが生じてしまいます。

対策としては、会場備え付けのスピーカーを均等に鳴らす設定を確認するか、小型のワイヤレススピーカーを数カ所に分散配置するのが有効です。
音量の目安は、受講者の話し声を邪魔せず、かつ耳に心地よく残る音量を一つの基準にすると、議論と音楽が無理なく共存できることでしょう。

コンプライアンスと著作権管理の徹底

企業において避けて通れないのが著作権の問題です。私たちが日常的に利用している音楽配信サイトなどの個人アカウントを研修の場で流す行為は、
利用規約および著作権法上で原則として認められていません。

こうしたリスクを回避するためには、商用利用が許可されているロイヤリティフリー音源を活用することが望ましいでしょう。
「知らなかった」では済まされないガバナンスの観点からも、必ず利用規約を確認しておく必要があります。

講師・ファシリテーターの意図を持った音楽運用

音楽の効果を最大化するには、それを操作する講師やファシリテーターの細やかな配慮も欠かせません。
例えば、音楽の切り替え時に「フェードイン・フェードアウト」を意識するだけでも、場の空気感はぐっと洗練されます。

操作ミスを防ぎ、研修の進行を止めないためには、スライドの切り替えに連動して音楽が流れるように設定を組んだり、操作専用のデバイスを用意してアシスタントに操作を任せたりするなど、デリバリーの設計そのものに「BGMの運用」を組み込んでいくことが求められます。
場合によっては、学習環境を差配するコーディネーターを置くことも一つでしょう。

まとめ

BGMは単なる演出ではありません。受講者の状態を最適化し、研修の投資対効果(ROI)を最大化するために有効な手段の一つと言えます。

「無音」がデフォルトだったこれまでの研修スタイルに、少しだけ「BGMのデザイン」を取り入れる。
それだけで、受講者の表情、ワークの密度が変化していくでしょう。まずは、明日の研修の「オープニング」の一曲から、始めてみてはいかがでしょうか。

参考文献・出典

・ Allen, K., & Blascovich, J. (1994). Effects of music on cardiovascular reactivity among surgeons. JAMA.
・ Ferreri, L., et al. (2019). Dopamine modulates reward experiences elicited by music. PNAS.
・ Hallam, S., et al. (2002). The effects of background music on primary school pupils' performance. Educational Studies.
・ Husain, G., et al. (2002). Effects of Musical Tempo and Mode on Cognitive Performance. Music Perception.
・ Leardi, S., et al. (2007). Medical music therapy: a randomized controlled trial on pre-operative patients. World Journal of Gastroenterology.
・ Milliman, R. E. (1982). Using Background Music to Affect the Behavior of Supermarket Shoppers. Journal of Marketing.
・ Sweller, J. (1988). Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning. Cognitive Science.