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COLUMN

2024.07.30

「雑談」がオンボーディングを促進する理由とは?新入社員にもたらすメリットを解説

「雑談」がオンボーディングを促進する理由とは?新入社員にもたらすメリットを解説
コロナ禍を機にリモートワークを推奨する職場が増加しました。東京都の調査(※1)でも、2024年3月時点で43.4%の都内企業(従業員数30名以上)が「テレワークを実施している」と回答しており、ニューノーマルな働き方として定着しつつあります。

職場環境や業務内容に適応している人にとって、リモートワークはメリットが大きい働き方ですが、一方で新規参入者には弊害があることも指摘されています。その1つが、職場内の「雑談」不足です。本コラムでは、職場での雑談がオンボーディングに与える影響や効果について、考察をしていきます。

改めて見直される「雑談」の価値 

リモートワークの浸透により、職場におけるコミュニケーションのあり方が見直されるようになりました。 

出社が当たり前だった時代は、会社に行けば同僚と顔を合わせ、挨拶をし、業務内外の内容を含め会話を行うことが日常でした。
ところが、遠隔での業務が中心になると、自ら意図してコミュニケーションを取らないかぎり、会話の機会は生まれません。
特に「雑談」のような職場メンバーとの何気ない会話は、なかなか発生しづらいと言えるでしょう。
   

実際に、一般社団法人日本能率協会が実施した調査(※2)によると、テレワーク実施者の8割以上が「雑談がしにくくなった」と回答しています。
また、「雑談があることは、自身にとってプラスとなる」と回答した割合は8割を超え、「職場における人間関係を深める効果」や、
「自身の業務の生産性・創造性を高める効果」をあげる声が目立ちます。
   

また、2019年4月に改正労働基準法が施行され、労働時間の管理が強化されたことで、
『生産性を高めるために無駄を省こう』といった文化が根付いている組織も多いことでしょう。結果、対面回帰した職場でも、
過去と比較すると生産性を重視するあまり偶発的な「雑談」がなかなか発生しづらくなっていると考えます。 

しかし、新入社員など新規に職場に加わるメンバーにとって、雑談は非常に重要な役割を占めます。
職場内でのコミュニケーションが生まれることで、スムーズなオンボーディングを促進できるからです。
 

雑談の機会が減少した今だからこそ、改めてその価値を見直す必要があると言えるでしょう。   

雑談機会の減少が引き起こす問題 

雑談の機会が減少したことにより、職場でどのような問題が起きているのでしょうか。ファーストキャリアが2024年度に入社した各社の新入社員に
ヒアリングを行ったところ、以下のようなコメントが見られました。
   

・「上司や先輩に、気軽に相談しづらい」 

リモートワーク主体の働き方の場合、“隣の席の先輩にちょっと相談する”ような、気軽なコミュニケーションが図りづらくなっているようです。
上司や先輩の時間を奪わないようにするために、「相談はまとめて
1日に1回で済むようにしている」という新入社員の声も聞かれました。 

一見効率的な方法のようにも見えますが、業務内容を十分に理解していない新入社員にとって、疑問が解消されないまま次の業務に移ることはリスクがあります。また、その場で聞けば解消する問題に時間を費やすなど、結果的に生産性の低下につながる可能性もあります。   

・「自身の目指すべき方向性を明確にしにくい」 

雑談で得られる情報の1つに、互いの仕事の状況や、どのような思いや価値観で仕事をしているかという要素があります。雑談の減少により、
それぞれのメンバーの仕事観を知る機会が減り、特に新入社員や若手社員にとっては身近なロールモデルに触れるきっかけが失われます。
その結果、自身のキャリア像が不明瞭になったり、目指すべき方向性が見えづらくなったりするリスクが生まれます。
 

・「ストレスのはけ口がなく、仕事へのモチベーションが高まらない」 

新入社員にとって、慣れない業務内容や職場環境に馴染むだけでも大きな負荷がかかります。息抜きの機会である雑談が存在しないことで、
ストレスをため込んでしまうケースも考えられます。
 

このほかにも、株式会社日本能率協会マネジメントセンターの調査(※3)では、「個人の裁量に任せられる職場」よりも
「チームワークを重視する職場」を好む新入社員の割合が約
60%となり、先輩・上司の回答割合よりも約10%多いという結果が出ています。
すなわち、昨今の若手人材は「チームで協働して成果をあげたい」という傾向が見られることが分かります。
 

雑談機会の減少によりメンバーとの会話の糸口が失われることで、チームワークが生まれづらくなります。
チームで働く環境を重視する新入社員にとっては、モチベーションをそぐ要因にもなりかねません。
  

オンボーディングにおける雑談の効果 

新入社員にとって、雑談の最も大きなメリットは、職場内の心理的安全性の確保です。心理的安全性が高まると、
周囲へ相談しやすい環境が生まれたり、チームワークの向上につながったりします。
ひいては、メンバー一人ひとりのモチベーションやエンゲージメントも高まるでしょう。

それぞれのステップについて、詳しく解説します。   

心理的安全性が高まる 

心理的安全性とは、自らの意見や思いを安心して表現できる状態のことをいいます。職場内の心理的安全性を高めるためには、
話しやすい環境や互いを尊重する姿勢が必要であり、そのためにも雑談が有効です。
 
例えば、互いの趣味やプライベートの話をすることで「自己開示」や「共通点の認識」につながり、心理的距離が縮まるケースもあるでしょう。
各自の人となりを理解することが、“何でも話せる”場を作るための一歩となります。
  

悩みや課題の解消につながる 

雑談により心理的安全性が確保された職場では、新入社員が周囲のメンバーに対して悩みや課題を相談しやすい環境が生まれます。
その結果、新入社員の早期成長を実現できるだけでなく、仕事の生産性も高まります。
   

チームワークが醸成される 

雑談により相互理解が進むことで、相手を尊重する気持ちや協力的な関係構築の姿勢が醸成されます。
新入社員が自分らしく振る舞える環境を作ることが、各自の強みを活かした組織づくりにも寄与すると言えます。
   

モチベーションが高まる 

雑談には、ストレス解消の効果もあります。会議や1on1では話しづらい事柄も、雑談のなかでは自然と共有できてしまうものです。
また、「笑い」をともなうことで、ストレスホルモンの値を下げ、不安や緊張感を解消したり、心身をリラックスさせたりすることもできます。
精神の安定は、日々の仕事に対するモチベーションにもプラスの効果を及ぼします。
   

エンゲージメントが向上する 

雑談により対人関係におけるリスクが減ることで、新入社員一人ひとりのエンゲージメント向上につながる効果が期待できます。
組織への“所属しがい”が高まれば、個人のパフォーマンスを最大化できますし、人間関係や職場環境を理由とした離職も回避できるでしょう。
   

オンボーディングにおいて雑談を効果的に取り入れる方法 

職場環境に十分に適応していない新入社員にとって、雑談がスムーズなオンボーディングにつながる可能性が期待できます。 

とはいえ、業務や職務の内容により、定期的に雑談を行うことが難しい職場もあるでしょう。そこで、「対面でのコミュニケーション」と
「オンラインでのコミュニケーション」それぞれの場面で求められる雑談のポイントをご紹介します。
 

 対面時の雑談のポイント 

・メリハリを意識する 

雑談を、アイスブレイクの1つの手段として取り入れることが有効です。例えば、コミュニケーションの本題に入る前に雑談を取り入れるなど、
雑談と本題のメリハリをつけるようにしましょう。
  

・雑談のテーマを意識する 

雑談を行う際は、会話が広がるテーマを選ぶことが肝心です。相手のプライベートに過度に踏み込む話題や、
個人の思想が反映される政治・宗教といった話題は避け、互いに気持ちよく話せるテーマを選択しましょう。
新入社員の趣味や関心ごと、時事ニュースなどを切り口に、あくまでも“気軽な”会話を楽しむようにしてください。
   

・相手に合わせたコミュニケーションを意識する 

なかには雑談が苦手な人や、業務外のコミュニケーションを好まない人もいるでしょう。そのような新入社員に雑談を強いるのは、
かえって関係を悪化させることにもなりかねません。
相手がどのようなコミュニケーションを望むタイプかを把握したうえで、適切な距離感で雑談を行いましょう。
  

オンラインでの雑談のポイント 

・オンラインコミュニケーションツールを有効に使う 

オンラインのコミュニケーションでも、できるだけ相手との心理的距離を縮める工夫が必要です。例えば、チャットツールを使う場合は
「社内のコミュニケーションでは堅苦しい挨拶を不要とする」「積極的にスタンプを使う」など、スムーズなやりとりを意識しましょう。
 

実際に、フルリモートワークでも心理的安全性が確保されている組織では、ビジネス用チャットアプリ上で個人チャンネルを立ち上げて、
全メンバーがコメントしたり、リアクションをしたりする機能を整えています。日々のつぶやきに対して、スタンプでリアクションを示すだけでも、
承認や賞賛の姿勢が伝わるため効果的です。
   

・できるだけ対話の時間を設ける 

テキストコミュニケーションでもある程度の雑談はできますが、できればビデオ会議などで直接対話する機会を持つようにしましょう。
特に入社したばかりの新入社員は、「相談したくてもタイミングが分からない」といった悩みを抱えがちです。雑談の機会を定期的に設けることで、
相談や質問をしやすい雰囲気が生まれるでしょう。
  

アセスメントサーベイで共通言語を持つ 

相互理解と雑談の切り口となる、アセスメントサーベイを導入することも一つです。個々人の特性が可視化されるアセスメントサーベイを
組織内で共通言語化することで、雑談をはじめる切り口になります。アセスメントサーベイを起点に始まった雑談の過程で、
お互いの理解を深めることで心理的安全が生まれ、徐々に対話する文化が醸成されるでしょう。   

オンボーディングにおける雑談の注意点 

新入社員との雑談は、「職場の人間関係に溶け込ませることができる」「相談しやすい環境を作れる」
「組織の一員としての意識を付与できる」などの面で、オンボーディングの促進に役立ちます。
 

一方で、受け入れ側としては以下の点に留意する必要があります。   

・特定のメンバーに偏らないようにする 

受け入れ側も人間ですから、“話しやすい新入社員”と“そうでない新入社員”がいるでしょう。ただし、話しやすい新入社員にばかり声をかけていると、
その他の新入社員は疎外感や孤立感を覚えてしまう可能性があります。仮にコミュニケーションが取りづらい新入社員であっても、
挨拶にプラスの一言を加えるなど、受け入れ側が受容の姿勢で接することが大切です。
   

・受け入れ側が率先して自己開示をする 

入社したばかりの新入社員の多くは、職場環境や人間関係に対する不安を抱えています。そのような不安を払しょくするためにも、
まずは受け入れ側が意識的に自己開示をしてください。
一緒に働くメンバーの人となりが分かることで、新入社員も自己開示がしやすくなるはずです。
   

・「聴くスキル」と「質問するスキル」を活用する 

雑談は「話す」ことに目が向きがちですが、それ以上に「聴く」力や「質問する」力が求められます。自分の話ばかりをするのではなく、
新入社員の話を丁寧に傾聴するように努めてください。また、相手との心理的距離が十分に縮まっていない場合は
「クローズドクエスチョン(回答が限定され、相手が答えやすい質問)」を用いるなど、質問の仕方にバリエーションを持たせることも必要です。
   

まとめ 

新入社員との雑談は、組織社会化や早期戦力化など、スムーズなオンボーディングにも効果を発揮します。
各自のコミュニケーションスタイルや、相手が望む関わり方を踏まえつつ、組織全体で雑談を楽しむ文化を醸成
していくことが重要です。 

雑談を楽しむ文化を醸成するには、組織の中で影響力をもつ個人(管理職・OJTトレーナー)に対して、
また、雑談が生まれやすくなる組織に対してのアプローチが有効です。ご紹介した内容を踏まえ、有効な施策をともに探求していければと思います。

 

参考文献

※1 産業労働局調査データ(202404月発表)より

※2 一般社団法人日本能率協会「2021年ビジネスパーソン1,000人調査」(202110月発表)より