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研修転移とは?現場実践につながる育成施策の考え方

研修転移とは?現場実践につながる育成施策の考え方
企業が人材育成に投資する目的は、従業員の知識やスキルを向上させ、組織成果につなげることです。
しかし、研修を実施しただけでは期待した成果が得られないケースも少なくありません。

「受講直後は理解していたはずなのに、数週間後には実践されていない」
「研修の満足度は高いが、業務改善につながっている実感がない」
といった課題を抱える人事担当者や育成担当者も多いのではないでしょうか。

こうした課題を解決するうえで重要な考え方が「研修転移」です。
研修転移とは、研修で学んだ知識やスキル、考え方を実際の業務で活用し、行動変容や成果創出につなげることを指します。

近年は人的資本経営やリスキリングへの注目が高まり、企業の教育投資に対しても成果が求められるようになりました。
そのため、「研修を実施したか」ではなく、「学びが現場で活用されたか」という視点がこれまで以上に重要になっています。

本記事では、研修転移の基本的な考え方から、転移が起こらない理由、実践につながる育成施策の設計方法、効果測定のポイントまで詳しく解説します。

研修転移とは

研修転移の定義

研修転移とは、研修で習得した知識やスキル、態度を職場で実践し、業務成果につなげることです。
英語では「Transfer of Training(トランスファー・オブ・トレーニング)」と呼ばれ、人材開発分野において長年研究されてきた重要な概念です。

例えば、管理職研修でコーチングスキルを学んだ場合、研修中に理解するだけでは十分とはいえません。
学んだ内容を部下との1on1ミーティングで実践し、コミュニケーション改善や部下育成の成果につながって初めて研修転移が実現したといえます。

つまり、企業にとって価値があるのは「学習」そのものではなく、「学習した内容が現場で活用されること」です。

なぜ今、研修転移が注目されているのか

近年、研修転移が注目される背景には、企業を取り巻く環境の変化があります。
少子高齢化による人材不足やDX推進の加速により、企業は限られた人材の能力開発を効率的に進める必要があります。
そのため、研修への投資対効果を高めることが重要な経営課題となっています。

また、人的資本経営の考え方が広がる中で、人材育成施策についても「実施した回数」ではなく、「どのような成果につながったか」が問われるようになりました。
こうした背景から、多くの企業が研修内容だけでなく、研修後の実践や定着を重視するようになっています。

研修実施だけでは成果につながらない理由

研修を受講しただけでは、必ずしも行動変容は起こりません。
研修中は理解できた内容でも、実践機会がなければ徐々に忘れてしまいます。
また、現場で活用するための支援体制が整っていなければ、学びを行動に移すことは難しくなります。

実際に成果を生み出す育成施策では、以下が設計されています。

・学んだ内容を実践する機会
・上司からのフィードバック
・振り返りの仕組み
・継続的なフォローアップ

つまり、研修はゴールではなくスタートです。
研修転移を促進する仕組みを整えることで、初めて教育投資が組織成果へとつながるのです。 

研修転移が起こらない3つの理由

研修転移の重要性を理解していても、実際には多くの企業が「研修を実施したものの現場で活用されない」という課題に直面しています。
その背景には、学習内容そのものの問題だけでなく、研修設計や職場環境にも原因があります。
ここでは、研修転移が起こらない代表的な3つの理由を解説します。

理由学んだ内容を忘れてしまう

研修転移を阻害する最大の要因の一つが「忘却」です。
研修直後は理解できていても、復習や実践の機会がなければ学習内容は急速に失われていきます。

この現象を説明する理論として有名なのが、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが提唱した「忘却曲線」です。
忘却曲線によると、人は新しく学んだ情報を時間の経過とともに忘れていきます。
特に学習直後の忘却速度は速く、復習を行わなければ短期間で記憶が曖昧になってしまいます。

企業研修でも同様です。
例えば営業研修でヒアリング手法を学んだとしても、研修後に実践機会や振り返りの場がなければ、
数週間後には内容を十分に思い出せなくなる可能性があります。
そのため、研修転移を促進するには学習機会だけでなく、以下のような定着施策が重要です。

・研修後の振り返りセッション
・eラーニングによる復習
・実践課題の設定
・上司との定期面談
・ナレッジ共有会

学習した内容を繰り返し思い出し、活用する機会を設計することで、知識の定着率は大きく向上します。

理由実践する機会がない

学んだ内容を覚えていても、現場で使う機会がなければ研修転移は起こりません。
例えば、新任管理職向け研修で1on1面談の進め方を学んだとしても、実際に部下との面談機会がなければスキルは定着しません。

これは企業研修でよく見られる課題です。
研修の企画をしていると「何を教えるか」に注力しがちですが、本来は「学んだ後にどのような行動を取るのか」まで設計する必要があります。

研修と実務が切り離されている状態では、学びは成果につながりません。「学んだらすぐ使う」を前提に設計することが重要です。

 

理由上司や組織の支援が不足している

研修転移は受講者本人だけの問題ではありません。実際には、職場環境や上司の関わり方が大きな影響を与えます。

例えば、受講者が新しい手法を試そうとしても、

・忙しくて実践する時間がない
・上司が変化を求めていない
・挑戦を評価する文化がない

といった状況では行動変容は起こりにくくなります。

反対に、研修転移が進んでいる組織では上司が積極的に関与しています。
具体的には、

・研修前に目標を共有する
・研修後に実践状況を確認する
・フィードバックを行う
・成功事例を称賛する

といった支援が行われています。

学習の定着は、受講者個人の努力だけでは実現できません。
組織全体で学びを支援する環境を整えることが、研修転移を高める重要なポイントです。

研修転移を促進する育成施策のポイント

研修転移を高めるためには、研修そのものの質だけでなく、研修前後を含めた育成プロセス全体を設計することが重要です。
多くの企業では「どのような研修を実施するか」に焦点が当たりがちですが、本当に重要なのは「受講後にどのような行動変容を起こすか」です。
ここでは、研修転移を促進するために押さえておきたい3つのポイントを紹介します。

研修前に「実践目的」を明確にする

研修転移は研修当日ではなく、研修前から始まっています。
受講者が「なぜこの研修を受けるのか」「受講後に何を実践するのか」を理解していなければ、学びを業務に結び付けることは難しくなります。

例えば営業研修であれば、

・ヒアリング力を向上させる
・提案精度を高める
・商談成約率を改善する

など、具体的な行動目標を設定しておくことが重要です。
また、受講者だけでなく上司とも目標を共有しておくことで、研修後のフォローアップがしやすくなります。

研修をイベントとして終わらせないためにも、「何を学ぶか」ではなく「何を実践するか」を起点に設計しましょう。

研修中に実践を前提とした学習設計を行う

知識のインプットだけでは行動変容は起こりません。そのため、研修中から実践を意識したプログラム設計が求められます。
例えば以下のような手法が有効です。

手法

目的

ケーススタディ

現場課題への応用力を高める

ロールプレイ

実践イメージを持つ

グループディスカッション

多様な視点を学ぶ

アクションプラン作成

受講後の行動を具体化する

特に効果的なのがアクションプランの作成です。
研修終了時に、
・明日から実施すること
・1か月以内に取り組むこと
・成果を確認する方法

を明確にすることで、学びを実践へ移しやすくなります。

研修後のフォローアップを仕組み化する

研修転移を左右する最も重要な要素が、研修後のフォローアップです。
前述したように、人は学んだ内容を時間の経過とともに忘れていきます。そのため、研修後に継続的な実践と振り返りの機会を設ける必要があります。

具体的には以下のような施策が有効です。

・上司との1on1ミーティング
・フォローアップ研修
・実践レポート提出
・学習コミュニティの運営
・eラーニングによる復習
・ピアラーニング(受講者同士の学び合い)

特に管理職やOJT担当者を巻き込むことで、現場での実践率は大きく向上します。
受講者本人だけに定着を任せるのではなく、組織として学習を支援する仕組みづくりが重要です。

「研修」で終わらせず「行動変容」まで設計する

研修転移が高い企業に共通しているのは、研修を単発のイベントとして捉えていないことです。
研修前に目標を設定し、研修中に実践計画を立て、研修後に振り返りと支援を行う。この一連のプロセスが行動変容を生み出します。
研修企画の際には、研修の受講率や満足度だけでなく、「現場でどのような行動が変わったか」という視点で施策を設計することが求められます。

研修転移を意識した育成設計こそが、教育投資を成果につなげるための重要なポイントといえるでしょう。
 

ロミンガーの法則(70:20:10)から考える研修転移

研修転移を考えるうえで参考になるフレームワークの一つが、「ロミンガーの法則」として知られる70:20:10モデル※2(Lombardo & Eichinger)です。

このモデルでは、人材の成長要因を以下の3つに分類しています。

70:20:10モデルが示しているのは、「研修だけで人は成長しない」という考え方です。

研修で学んだ知識やスキルも、実務で活用し、上司や同僚からフィードバックを受けることで初めて定着します。
そのため、研修転移を促進するには、研修内容だけでなく実践環境まで含めて設計することが重要です。

70:20:10モデルを人材育成に活用する際は、以下の3つの視点が重要です。

・ 70%:実務経験を設計する
 研修後に実践課題や行動目標を設定し、学んだ内容を現場で活用する機会を作ります。

・ 20%:周囲からの支援を強化する
 1on1ミーティングやメンタリングを通じて、上司や先輩社員が学習を支援します。

・ 10%:継続的な学習機会を提供する
 フォローアップ研修やeラーニングを活用し、学びを定着させます。

研修転移を高めるためには、「良い研修を実施すること」だけでなく、「学びを実践できる環境を整えること」が欠かせません。
70:20:10モデルは、その重要性を示すフレームワークとして活用できます。 

研修転移の効果を測定する方法

研修転移を促進するためには、施策の実施だけでなく効果測定も欠かせません。
しかし、多くの企業では受講者アンケートや満足度調査で評価を終えてしまうケースがあります。

本来、研修の成果は「受講者が満足したか」ではなく、「現場で行動変容が起きたか」「組織成果につながったか」で判断するべきです。
そこで活用したいのが、研修効果測定の代表的なフレームワークである「カークパトリックモデル」です。

カークパトリックモデルとは

カークパトリックモデルとは、ウィスコンシン大学の名誉教授ドナルド・ L・カークパトリックが1975年に提唱した、教育の評価方法をレベルに切り分けて整理したモデルのことです。4段階評価法とも呼ばれるこのカークパトリックモデルでは、教育の効果を反応、学習、行動、結果の4段階で表します。

レベル

評価内容

レベル1

反応(満足度)

レベル2

学習(知識・スキル習得)

レベル3

行動(職場での実践)

レベル4

成果(業績・組織成果)

多くの企業ではレベル1やレベル2に留まりがちです。
しかし、研修転移の観点で最も重要なのはレベル3の「行動」です。

研修転移の評価で重視すべきレベル3「行動」

例えば管理職研修の場合、
 ・ 1on1実施回数が増えたか
 ・ フィードバックを実践しているか
 ・ 部下とのコミュニケーションが改善したか
などを確認します。

営業研修であれば、
 ・ ヒアリング手法を活用しているか
 ・ 提案書の質が向上したか
 ・ 商談プロセスが変化したか
といった行動指標を設定できます。
研修転移を評価する際は、「何を学んだか」ではなく「何を実践したか」を測定することが重要です。

KPIの設定例

研修効果を可視化するためには、事前にKPIを設定しておくとよいでしょう。

評価項目

KPI

学習

テスト結果、理解度

行動

実践率、面談実施率

成果

生産性向上、離職率改善

組織

エンゲージメント向上

研修転移を促進する企業ほど、研修そのものではなく行動変容や成果を評価する仕組みを整えています。

まとめ|研修転移を意識した育成設計が成果を生む

研修転移とは、研修で学んだ知識やスキルを現場で活用し、行動変容や成果につなげることを指します。
企業の人材育成において重要なのは、研修を実施することではなく、学びが実践されることです。

研修転移を高めるためには、次のポイントを押さえる必要があります。

  • 忘却を防ぐための復習機会を設ける
  • 現場での実践機会を設計する
  • 上司や組織による支援体制を整える
  • 70:20:10モデルを活用する
  • カークパトリックモデルで行動変容を測定する

人的資本経営やリスキリングが求められる現在、企業の教育投資にはこれまで以上に成果が求められています。

だからこそ、「研修を実施すること」をゴールにするのではなく、「現場での行動変容を生み出すこと」をゴールに据えた育成設計が重要です。

貴社の人材育成課題に合わせた研修設計やオンボーディング支援について、お気軽にご相談ください。