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2025.12.16
「AIと協働して成果を出す若手」をどう増やす?これからの若手育成施策設計のポイントとは
「学生の消費生活に関する実態調査」によると、ChatGPTなどの文章生成系AIを利用したことがある学生は68.2%*1というデータが出ており、
卒業後に企業に入社する若手社員の多くは、「AIを使うことに抵抗がない世代」になりつつあるでしょう。
しかし実際の企業現場では、AIとの向き合い方によって、若手の姿が二極化していくと言われています。
AIを「ただ楽してアウトプット」するために使い、成果物の責任を取れない若手と、AIを「ヒントをくれるパートナー」として活用し、
スピーディーに確実に成果を出せる若手。この二極化は、今後ますます加速し、組織の成果や人材の育ち方に大きな影響を及ぼしていくでしょう。
いま、人事が今向き合うべきテーマは「AIツールの操作を教えること」ではなく、
「AIと協働して成果を出せる若手を増やすための育成デザイン」だと考えています。
本記事では、
・今後起こりうる若手育成の構造変化
・AI成果を出す若手の特徴
・育成施策を設計する際のポイント
について考えていきたいと思います。
いま、若手育成の現場で起きている構造の変化とは?
AIが事業現場に導入されることに伴い、若手社員が経験を積む場として機能してきた「基礎業務」が、いま最も急速にAIに置き換わっているという声をよく伺います。
議事録作成、データ入力、簡単なリサーチ作業など、これらは従来、新入社員が配属後に担当し、業務の流れや社内用語、仕事の進め方を学ぶ重要な機会でした。しかし生成AIの登場により、これらの業務はAIの方が速く、正確に、そして安定的に処理できるようになっています。
日本企業が長年依拠してきた育成モデルは、「基礎→基本→応用」という段階的な成長プロセスでした。若手はまず簡単な業務から始め、徐々に難易度を上げながら、先輩の仕事ぶりを見て学び、フィードバックを受けながら成長していく。この「徒弟制」とも言える仕組みが、日本型雇用においては大切にされてきました。
OJT・徒弟制モデルの限界
ところが、基礎業務がAIによって代替される現在、若手は配属直後から「応用的な、難易度の高い業務」に取り組まざるを得ない状況に置かれつつあります。経験を積む前提となる「基礎業務での学び」という土台が失われているにもかかわらず、求められる成果水準は変わらないという状況に、今後の若手社員は置かれていくことでしょう。

そのうえで懸念されるのは、今後OJT担当者や上司が若手に仕事を振る理由そのものが失われる可能性があることです。
従来の若手育成には、二つの側面がありました。ひとつは若手の「育成」、もうひとつは上位職の「負担軽減」です。先輩社員やマネージャーは、
自分が抱えている定型的な業務を若手に委譲することで、自身の業務負荷を下げながら、同時に若手の成長機会を提供していました。
しかし、AI活用によって業務の生産性を高めている層は若手社員ではなく、経験を積んだ中堅社員以上と言われています。LinkedInの調査では「45歳以上で生成AIを習得した労働者の多くは『自分の豊かな経験を活かしながらAIをガイドしている』ため、若い同僚よりも効果的なAI活用を実現している」と報告されています。*2経験が豊富である分、業務の設計やAIの出力の良し悪しを判断する力が備わっている。そのため、各種AIツールの特性を把握さえできれば、成果を出せる状況を自ら作り出すことができるのでしょう。
一方で若手に任せる場合、
・時間がかかる
・品質が安定しない
・先輩がチェックする必要がある
といった理由から、若手に仕事が回らず、育成機会が減少する可能性があります。
現時点では日本企業の多くは人手不足に直面しており、若手への業務委譲は依然として必要とされています。しかし中長期的には、ハイパフォーマーがAIを用いて多くの業務を抱えざるを得ない状況となり、若手に業務をアサインする理由を失う可能性があります。「育成のために仕事を振る」という名目だけが残り、実態としては若手が経験を積む機会が減少する、このような事態が懸念されるのです。

Claudeで有名なAnthropic社の製品責任者であるマイク・クリーガー氏は、エンジニアの役割がコード作成からレビューへと急速に変化していると指摘していますが*3、この変化は若手が「基礎を学ぶ時間・機会」を持たないまま、高度な判断を求められる状況を生み出す可能性を示唆しています。
AIがもたらす「思考の依存」と「思考の拡張」の二極化
この構造変化の中で、若手社員は二つのタイプに分かれ始めています。
ひとつは、AIに「思考を依存する」若手です。2025年2月に出たマイクロソフトリサーチとカーネギーメロン大学による研究報告によると、生成AIツールを週1回以上使っているオフィスワーカーは、AIが生成した回答を検証、改善、そして導くスキルが不足している場合、批判的思考を控える傾向があることが分かりました。*4 この傾向は、業務知識や経験が少ない若手社員においてより顕著に現れると考えられます。
AIに思考を依存する若手は、生成AIが出力した内容をそのまま成果物として提出します。しかし、その内容が適切かどうかを判断する基準を持っていないため、「成果物を出すこと」はできても、「成果物に対する責任を取ること」ができません。私もとある企業様とご一緒した際に、「若手社員がAIで出したアウトプットを上司にそのまま持っていってボコボコにされていた」という話を伺いました。(ある意味ナイスチャレンジ…?)今後こうした若手が増えてくる可能性は否めないでしょう。
本来は、AIを「思考の拡張装置」として使いこなすことが理想です。AIを使いこなせている中堅以上の社員は、AIに対して的確に指示し、問いを投げかけ、その出力を批判的に検証し、自分の判断基準に照らして再構築します。AIが提示した選択肢を評価し、不足している観点を補い、最終的な成果物に対する責任を明確に持つ。本来はこのような状況が理想です。
この二極化は、今後さらに広がっていくでしょう。自社の若手社員が「思考を依存する若手」と「思考を拡張する若手」となるかは、単なるスキルの差ではなく、育成設計が大きく影響すると我々は考えます。
今後求められる「AIと協働して成果を出す若手社員像」とは?
「AIと協働して成果を出す若手」に備わっているものとは?
しかしその一方で、「AIで成果を出せる若手」は確かに存在し、彼らには共通する特徴があります。我々としては、以下4つの特徴を備えているように考えます。
① 業種・職種に関する基礎知識(普遍的な知見)
成果を出すためには、業種・職種における最低限の土台となる「基礎知識」が不可欠です。AIはあくまで支援ツールであり、業界構造・顧客理解・専門用語など、仕事の前提から思考する部分は人間側の役割です。
この基礎知識が不足していると、AIの出力を批判的に判断することができず、誤った方向へ引っ張られやすくなります。きちんと基礎知識を学び、経験値を自ら貯めている若手社員は、AIとうまく協働しながら成果を出していけることでしょう。
② 判断基準(クリティカルシンキング)
AIが生成した成果物を評価し、修正すべき点を見極めるには、明確な判断基準が必要です。
・「この提案は顧客の課題を本当に解決しているか」
・「このデータ分析は意思決定に足る精度か」
・「この表現は誤解を生まないか」
など、こうした問いを自分に投げかけ、批判的に検証できる思考力が求められます。しかし、判断基準を持たない若手は、AIの出力をそのまま受け入れてしまう可能性がある。その結果、成果物の妥当性を説明できない。結果的に「仕事を任せて大丈夫」と現場上司に判断されないこともあるでしょう。批判的に検証する判断基準を持っている若手は、AIと協働しながらスピーディーに、期待水準に届く成果を出していくことができるでしょう。
③ 問いを立てる力(問題設定力)
ビジネスにおいて「考える」とは、情報が不十分な状況においても、適切な問いを立て、それに答えるプロセスを繰り返すことです。
AIに対して的確な指示を出すためには、
「何を明らかにしたいのか」「どのような観点で検討すべきか」を自ら設定する力が不可欠です。問いを立てられない若手は、AIに漠然とした指示を出し、漠然とした回答を受け取ります。一方、問いを立てられる若手は、AIを対話の相手として活用し、段階的に思考を深めていくことができます。
④ AIの出力を評価し、補完し、再構築する能力(編集思考)
成果を出している人は、AIを“答えをくれる存在”とは見ていません。AIが生成した内容は、あくまで「素材」としたうえで、それを批判的に評価し、不足している観点を補い、文脈に合わせて再構築する。この「編集思考」こそが、現代に最も求められる能力だと言えるでしょう。
成果を出す若手は、AIの出力を鵜呑みにせず、「この観点が抜けている」「この表現では伝わらない」と指摘し、自分の言葉で再構成します。彼らにとってAIは、思考を代替するツールではなく、思考を拡張するパートナーなのです。
「AIリテラシー研修」だけでは不十分な理由
ここ数年で、多くの企業様と若手社員と生成AIの関係について議論させていただき、既に多くの企業が「AIリテラシー研修」を導入していることが分かりました。そこで扱われるのは主に以下の内容です。
・AIの仕組み
・情報セキュリティ
・プロンプトの基本
・操作方法(使い方講座)
もちろん重要な内容ですが、これだけでは“成果につながるスキル”は育ちません。AIツールを使えることと、AIを活用して成果を出せることは、まったく別の能力です。(どのツールにおいても、それは変わらないでしょう)
成果を出すために本当に必要なのは、AIの操作スキルではなく、成果物に対する責任を持つための基礎思考力です。判断基準を持ち、問いを立て、AIの出力を批判的に検証する——これらの能力は、AIリテラシー研修だけでは育ちません。
「AIと協働して成果を出す若手」を増やす育成施策設計のポイント
若手の思考プロセスそのものを鍛えるために、人事主導の育成施策全体を再設計する必要があります。ここでは、その際に押さえるべきポイントをご紹介します。
新人研修に「AIとの協働体験」を組み込む
AIを「使う側」ではなく、「AIと協働して成果を出す側」になるためには、
配属前からAIとの「協働体験」を組み込むことが重要です。
具体的には、「AIに依存した場合、どこで破綻するのか」「AIを拡張的に使った場合、どれだけアウトプットが良くなるのか」
こういったことを、新人研修の中で 実際に“体験”させる設計が有効です。
単なる操作講座ではなく、チームでAIを使って議論する、AIの出力を比較し、良し悪しを判定する、AIのミスを自分たちで修正するといった“協働プロセス”を経験させることで、思考スタイルが大きく変わります。
「唯一解のない難易度の高い課題」を与える
AIは定型的な情報整理やレポート作成など、唯一解がある課題は非常に得意です。
一方、若手に本当に身につけてほしいのは、
・何を問題と捉えるか
・どう整理するか
・誰を巻き込むか
・どんな案を生み出すか
といった、“唯一解のない状況”で考え抜く力です。
そのため、新人研修・若手研修においては、AIがそのまま答えられないレベルの「唯一解のない、難易度の高い課題」を扱わせることが重要です。
たとえば、「自社の新規事業提案」「社会課題を解決するサービス企画」「10年後の自社のあるべき姿」といった、正解が存在せず、多角的な視点と深い思考が求められる課題です。
このような課題に取り組むことで、若手は以下の経験を得ることができます。
・AIに問いを投げても「唯一の正解」は返ってこないことを理解する
・複数の選択肢を比較し、判断基準に基づいて選択する必要性を実感する
・チームで議論しながらAIの出力を評価し、再構築するプロセスを体験する
・成果物に対する責任を自分たちが負うことを認識する
チームでAIを活用しながら課題解決に取り組むプロセスで、「AIを鵜呑みにしない姿勢」 と 「判断基準」 が育っていくことでしょう。
ファーストキャリアが提供する“AI×若手育成“ソリューション
ここまで述べてきたように、AIで成果を出す若手を育てるためには、
「AI教育」ではなく、「育成施策そのものの再設計」 が必要です。
ファーストキャリアでは、こうした課題に対応するため、
AIと協働しながら思考力を鍛える 新しい研修プログラムや育成アプローチを提供しています。
ここでは、その中から代表的な施策をご紹介します。
AI協創型プロジェクトワーク(新入社員研修)
「AIを使いこなす」のではなく、「AIと協働しながら問題解決する」経験を提供します。
本プログラムは、新入社員研修期間中に「唯一解のない難易度の高い課題」にチームで取り組み、AIを活用しながら成果物を作り上げる実践型の研修です。
従来の新入社員研修では、講義や演習を繰り返し、配属後に初めて本格的なアウトプットに取り組むという流れが一般的でした。しかし、このアプローチではインプットが「わかる」レベルに留まり、「できる」レベルまで昇華しないという課題がありました。
AI協創型プロジェクトワークでは、研修期間中に学んだ理念、事業理解、ビジネススタンスなどの様々な情報を統合し、チームでひとつの成果物を完成させます。その過程でAIを活用することで、「AIに依存する」のではなく「AIを思考の拡張として使う」スタンスを形成し、配属後すぐに成果を出せる状態を作り出すことができます。
得られる学び: 判断基準と問いの質が一気に向上します。AIを「答えを出すツール」ではなく「思考を支援するパートナー」として認識できるようになり、配属後の業務においてもAIを効果的に活用できる土台が形成されます。
自分の頭で考える×生成AI
思考プロセスを可視化し、AIによって思考を拡張する研修です。
「考える力」を育成するためには、思考プロセスそのものを体系的に学ぶ必要があります。本研修では、ビジネスにおける「考える」を「問いを立てる」→「答える」の繰り返しと定義し、効果的に問いを立てるための4つの観点を実践的に学びます。

・目的は何か?(ゴールの明確化)
・前提は正しいか?(思い込みの検証)
・他に方法はないか?(選択肢の拡張)
・本当にそうか?(結論の妥当性検証)
若手がこの4つの問いを使いこなせるようになったうえで、AIを活用してアウトプットを出していく——この組み合わせによって、AIに「答えを作らせる」のではなく、「自分の思考を鍛えるためにAIを活用する」スタンスが形成されます。
研修では、実際のビジネスシチュエーションを題材に、4つの問いを立てながらAIと対話し、アウトプットを作り上げる演習を繰り返します。自分たちのアウトプットとAIのアウトプットを比較することで、思考の癖や不足している観点を認識し、判断基準を磨いていきます。
育成シナリオ設計コンサルティング
個社の若手育成戦略とAI活用を統合した、育成設計の全体最適を支援します。
AI時代の若手育成は、研修プログラム単体で完結するものではありません。新入社員研修、OJT設計、配属後のオンボーディング設計など、これらすべてが連動し、一貫した育成シナリオとして機能する必要があります。
ファーストキャリアの育成シナリオ設計コンサルティングでは、貴社の事業特性、組織文化、若手に求める人材像を踏まえたうえで、AI活用を前提とした育成戦略を設計します。
具体的には、以下のプロセスで支援を行います。
1.現状の若手育成における課題の構造化
2.AI時代に求められる若手像の明確化
3.新入社員研修からOJT、配属後育成までの一貫したシナリオ設計
4.AI活用を組み込んだ研修プログラムの開発・実施支援
5.育成効果の測定と継続的な改善
重要なのは、「AI教育」ではなく「AIと協働して成果を出す人材を増やすための育成デザイン」全体を再設計することです。ファーストキャリアは、これまで培ってきた若手育成の知見と、AI活用の実践経験を統合し、貴社固有の育成課題に対する最適解を共に創り上げていきます。
まとめ
もはや「AI教育をどうするか」を議論する時代ではありません。
企業が向き合うべきは、「AIと協働し、成果を出せる若手をどう増やすか」という育成デザインそのものです。
我々が主張したいのは、若手を「AIに使われる側」ではなく、「AIを使いこなす側」に導くには、体系的な思考力育成が不可欠であるということです。ファーストキャリアは、これまで培ってきた若手育成の知見と、AI活用の実践経験を統合し、貴社固有の育成課題に対する最適解を共に創り上げていきます。
もしよければ、AI時代の若手育成について、ぜひ一度ディスカッションさせてください。貴社の課題をお聞かせいただければ、具体的な育成シナリオのご提案をさせていただきます。
参考文献
※1 全国大学生活協同組合連合会. (2025年2月28日). 『第60回学生生活実態調査概要報告』. https://www.univcoop.or.jp/press/life/pdf/pdf_report60.pdf
※2 Higgins, Stephen. "Bridging the Generational Gap with Generative AI in the Workplace." LinkedIn, (2025年4月30日)www.linkedin.com/pulse/bridging-generational-gap-generative-ai-workplace-stephen-higgins-op65c.
※3 Krieger, Mike. "20VC with Harry Stebbings." Podcast interview. (2025年3月) https://www.20vc.com/episodes/mike-krieger
※4 Paoli, Chris. "Study: Generative AI Could Inhibit Critical Thinking." Campus Technology, (2025年2月21日) campustechnology.com/articles/2025/02/21/study-generative-ai-could-inhibit-critical-thinking.aspx.


