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2026.08.31
新卒にもアンラーニングは必要?研修とOJTの効果を高める「学びほぐし」のススメ

自分が当たり前だと思っていたやり方や考え方に、意識的に疑いの目を向けるプロセスといえます。
この言葉は近年、人材開発の領域で広く使われるようになりました。しかし多くの場合、語られるのは
「中途社員が前職のやり方を手放し、新しい会社のカルチャーに適応するためのプロセス」としてのアンラーニングです。
なぜここまで「中途社員向け」のイメージが定着したのでしょうか。理由はシンプルで、アンラーニングという概念自体が
「一度確立されたキャリアや専門性を、環境の変化に合わせて更新する」という文脈で語られることが多かったからだと考えられます。
前職での成功体験、業界特有の常識、染みついた仕事の進め方。中途社員は、こうした「本人にとっては当たり前」の型を持って入社してくるからこそ、
アンラーニングの必要性がわかりやすく可視化されやすいのです。
一方で新卒社員は、「就労経験がない=手放すべき型を持っていない」と見なされがちです。
だからこそ、新卒向けの研修は「ゼロから教える」前提で設計されることが多く、
アンラーニングという発想そのものが検討の俎上に上がりにくかったのではないでしょうか。
本コラムでは、「新卒にアンラーニングが必要か否か」について考えていきたいと思います。
新卒社員にアンラーニングは必要なのか?
結論からお伝えすると、新卒社員にもアンラーニングは必要だと考えます。理由は、新卒社員は「就労経験がない」だけであって、「学び直すべき経験がない」わけではないからです。
「就労経験がない」=「学び直すものがない」ではない
多くの企業では、新卒社員を「白紙の状態」として扱う前提で研修が設計されています。しかし、新卒社員が本当に何も持たずに入社しているかというと、そうではありません。
学生時代のアルバイト、サークルやゼミでのリーダー経験、就職活動そのものを通じて、彼らはすでに数多くの「成功パターン」や「人との関わり方の型」を身につけています。この型は、社会人としての経験には基づいていないものの、本人にとっては確かな成功体験であり、無意識のうちに「これが正解だ」という思い込みとして根付いていることが少なくありません。
つまり新卒社員は、就労経験こそゼロでも、手放すことが望ましい「思い込み」はすでに持って入社してきていると言えるでしょう。
学生時代の経験が多様化している今、新卒を「白紙の状態」と決めつける危うさ
近年は、学生時代の経験そのものが以前より多様化しています。長期インターン、学生団体での組織運営、SNSを使った個人での情報発信など、社会人と近い経験を積んでから入社してくる新卒社員も珍しくありません。こうした背景を踏まえると、「新卒だから経験がない」という前提そのものが、実態とズレ始めているのではないでしょうか。むしろ、経験があるからこそ、その経験から形成された「思い込み」を一度手放す作業が必要になるケースも増えていると考えられます。
人材開発の分野では、経験を通じて学び、その経験を振り返る(内省する)ことで人は成長するという「経験学習」の考え方があります。これは本来、社会人経験の有無を問わず当てはまる考え方です。新卒社員であっても、学生時代の経験を振り返り、そこから得た価値観や思い込みに気づくプロセスがあってこそ、次の学びが効果的に積み上がっていくといえます。
新卒に、研修の内容がなかなか届かない理由
日本企業の多くは、毎年4月に多くの新卒社員を一斉に迎え入れます。限られた期間で、多くの新卒社員に均一な水準の知識やスキルを届けようとすれば、研修の中で扱う情報量が多くなるのは、ある意味で合理的な結果だといえます。問題は、この研修スタイルそのものではなく、受け取る新卒社員側の状態にあります。
新卒は研修内容の理解より先に「研修に適応すること」に精一杯になっている
導入研修で新卒社員に求められていることは、実は一つではありません。社会人としての立ち居振る舞いを覚えること、業務に必要なスキルセットを習得すること、そして会社の理念やカルチャーを理解すること。多くの企業では、この3つを同じ研修期間の中で一気に進めようとしています。
しかし、新卒社員の視点に立つと、状況はまったく違って見えます。「正しい敬語で話せているか」「メモを取るタイミングは合っているか」「この場でスマホを見てもいいのか」。こうした基本的な適応そのものに、意識と体力の大半を使ってしまっているのです。
その結果、研修の中で本来伝えたかったはずの理念やスキルは、新卒社員の頭の表面を通り過ぎているだけ、という状態になりがちです。これは研修の設計が間違っているのではなく、短期間で多くの情報を届けようとする構造上、どうしても起こりやすい現象だといえます。
「聞いたつもり」「理解したつもり」で終わってしまう構造的な問題
研修を実施する側は、限られた期間の中で伝えるべき情報量を精一杯詰め込みます。一方で、受け取る新卒社員側の処理能力には限りがあり、この情報量と処理能力のギャップが、構造的に生まれてしまいます。
処理しきれない情報量を前にしたとき、人はどうするでしょうか。多くの場合、内容を深く咀嚼することを諦め、「とりあえず頷いておく」「メモは取ったので後で見返せば大丈夫」という形で、その場をやり過ごそうとします。これが「聞いたつもり」「理解したつもり」という状態です。
人事担当者から「あれだけ研修で教えたはずなのに、現場では全然身についていない」という声を聞くことは少なくありません。しかしこれは、新卒社員の理解力や意欲の問題でも、研修設計そのものの問題でもなく、短期間で均一な教育を届けようとする構造から自然に生まれるギャップだと捉えるべきではないでしょうか。
導入研修の効果をさらに高める考え方
ここまで、研修と新卒社員の間に生まれやすいギャップについてお伝えしてきました。誤解のないようにお伝えしたいのですが、今の研修プログラムそのものを変える必要はない、というのが我々の考えです。
多くの企業が時間とコストをかけて磨き上げてきた研修プログラムには、それだけの価値があります。限られた期間で、多くの新卒社員に均一な知識とスキルを届けられるという点で、今の研修プログラムは非常によく練られた仕組みだといえます。変えるべきは研修の中身ではなく、研修を受け取る新卒社員側の「準備」の部分にあります。
いきなりマインドセット(インプット)から入らない、という発想の転換
多くの導入研修は、初日から「社会人としての心構え」や「会社の理念」といったマインドセット系のコンテンツから始まります。しかし、新卒社員はまだ「学生としての自分」の延長線上で研修に臨んでいるため、社会人としてのマインドセットを伝えられても、それを受け止める土台がまだできていません。
たとえるなら、まっさらなノートに新しい知識を書き込もうとしているのに、実際には前のページにびっしり書き込まれたノートを持ってきている状態です。新しいページを開く前に、前のページに何が書いてあるかを一度確認する作業が必要になります。
つまり、研修プログラムの中身を変える前に、「学生としての自分」から「社会人としての自分」へと意識を切り替えるための準備運動を、研修の手前に置くという発想の転換が必要なのではないでしょうか。
「学生としての自分」を一旦横に置くための、経験の棚卸し
この準備運動として有効なのが、自分自身の経験を棚卸しすることです。学生時代にどのような経験をし、そこからどのような価値観や思い込みを形成してきたのか。それを一度、自分の言葉で言語化してみるプロセスを指します。
ここで重要なのは、学生時代の経験を否定することではありません。むしろ経験そのものは、本人にとってかけがえのない財産です。大切なのは、その経験から無意識に形成された「思い込み」に気づき、それを一旦横に置いた上で、新しい環境の中身を受け取れる状態を作ることにあります。
このプロセスを経ることで、新卒社員は研修で伝えられる内容を、まっさらな状態に近い形で吸収できるようになります。研修プログラムの中身そのものはそのままに、受け手側の準備が整うだけで、効果は大きく変わってくるはずです。
「社会人ってこうだろうな」が、入社後に崩れた瞬間
この記事の執筆にあたり、社内で営業職として活躍する若手社員に話を聞く機会がありました。学生時代に培った経験が、入社後どのように役立ち、そしてどこでギャップを感じたのか。そのインタビューから見えてきた示唆を、ここでご紹介します。
学生団体で培った“営業観”
インタビューに応じてくれたのは、入社数年目の営業職社員です。大学時代、キャリア支援を行う学生団体で活動していたといいます。
「学内で後輩たちに向けてサービスを届けるため、日々声をかけ、勧誘活動を行っていました。あわせて、学生向けのワークショップを企画・運営する機会も多かったですね」
とにかく数多くの学生と接点を持ち、興味を持ってもらい、行動につなげてもらう。この活動を通じて、本人の中には一つの成功パターンが自然と根づいていったといいます。それは「量をこなし、熱意を持って声をかけ続ければ、相手は動いてくれる」という感覚でした。
「営業なんて簡単だろう」と思っていた自分と、入社後に見た現実のギャップ
「この経験があったので、社会人になってからの営業という仕事にも、どこか漠然とした自信を持っていました。たくさんの人に会って、熱意を持って伝え続ければ、きっと何とかなるだろうと考えてました」
しかし、実際に企業の営業担当として現場に立つと、まったく違う世界が広がっていたと振り返ります。相手企業の課題を丁寧に見極め、社内の意思決定プロセスを理解し、適切なタイミングで最適な提案を届ける。数をこなす以上に、戦略を組み立てる力が求められる仕事だったのです。
「学生時代の成功パターンが通用しない場面に何度も直面して、『営業とはこういうものだ』と思っていたイメージが、少しずつ崩れていきました」
このギャップの正体は、経験が「アンラーニングされないまま」持ち込まれていたこと
このギャップの背景にあったのは、学生時代の経験そのものではありません。むしろその経験は、行動力や熱意という点で、本人の今の土台になっているといいます。
問題は、経験から形成された「営業とはこういうものだ」という思い込みを、一度立ち止まって整理する機会がないまま、社会人としての学びの上にそのまま重ねてしまったことにありました。
「もし入社時の研修の中に、自分がこれまでの経験から何を学び、どんな思い込みを持っているのかを一度言語化する時間があったら、その後の学びをもっとスムーズに受け止められたかもしれません」
今回のインタビューを通じて見えてきたのは、学生時代の経験は決して無駄ではなく、その経験と一度きちんと向き合う工程が抜け落ちていた、ということでした。次の見出しでは、この気づきを踏まえて、研修に「学びほぐし」を組み込む具体的なステップをご紹介します。
新卒研修に「学びほぐし」を組み込むステップ
これまでお伝えしてきた「経験の棚卸し」を、実際に導入研修の設計にどう落とし込めばよいのでしょうか。ここでは2つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1:自分の経験を棚卸す
最初のステップは、学生時代の経験を思い出すことから始まります。特別な経験である必要はありません。アルバイト、サークル活動、ゼミでの役割分担、就職活動そのものなど、日常的な経験で十分です。このとき有効なのが、「うまくいった経験」と「うまくいかなかった経験」を両方思い出してもらう問いかけです。
・これまでの学生生活で、一番「やってよかった」と思う経験は何ですか
・その経験の中で、自分なりに見つけた「うまくいくコツ」はありましたか
うまくいった経験の裏には、必ず本人なりの成功パターンが隠れています。まずはそれを、自分の言葉で言語化してもらうことがスタートラインです。
ステップ2:経験に紐づく感情・価値観
次のステップでは、ステップ1で洗い出した経験の裏側にある「感情」や「価値観」に目を向けます。経験そのものよりも、その経験からどんな考え方を身につけたのかを掘り下げるフェーズです。
・その経験がうまくいったとき、どんな気持ちになりましたか
・その経験から、「仕事でもこうすればうまくいくはずだ」と思っていることはありますか
ここで大切なのは、出てきた価値観を否定しないことです。あくまで「今、自分はこういう思い込みを持っているかもしれない」と気づく段階であり、良し悪しを判断する場ではありません。先ほどご紹介したインタビューの例で言えば、「量をこなし、熱意を持って声をかけ続ければ、相手は動いてくれる」という価値観がここに当たります。この価値観自体は否定されるべきものではなく、まずは「自分はこう思っている」と自覚することが目的です。
このステップを研修の手前に設計し、自分の価値観は一旦隣に置いてみて、研修の内容を受け取ってみることを促すだけで、同じ内容でも受け手側の吸収率は変わってくるはずです。
まとめ
アンラーニングは、決して中途社員だけのものではありません。新卒社員もまた、学生時代の経験を通じて、無意識のうちに数多くの「思い込み」を抱えて入社してきます。
多くの新卒社員を一斉に、限られた期間で育成しなければならない以上、研修の中で扱う情報量が多くなるのは自然なことです。この思い込みに気づかないまま研修を受けると、内容は表面をなぞるだけで終わってしまいがちですが、それは研修そのものの設計に問題があるからではありません。研修の「手前」に、自分の経験と向き合う一手間を加えるだけで、同じ内容でも受け手側の吸収率は大きく変わってきます。
これまで積み上げてきた研修プログラムの効果をより高めていくためにも、新卒社員自身が「学生としての自分」を一旦横に置き、まっさらな状態で学びに向き合える準備を整えること。それこそが、これからの研修設計において求められている考え方ではないでしょうか。
「自社の研修設計にどう組み込めばよいか、まず話を聞いてみたい」という方に向けて、個別相談も無料で承っております。どう工夫していけるか、貴社の状況に合わせて、一緒に考えていきませんか。







