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2026.06.19
AIが若手社員を二極化させる?下積み業務が代替される中の変化と取り組むべきことを考えてみた

現在、若手社員の間ではAIを活用し「自身の価値を大きく高める層」と、AIに思考を委ねて「自律的な成長が止まってしまう層」への二極化が進みつつあります。
「AIを活用する姿勢がなければ成長意欲の高い若手が離れ、無目的に使わせれば自律的に思考しない人材が育ってしまう」——。
この新たなジレンマに対し、企業はどのような育成環境を構築すべきか。最新の調査データを交えながら、これからの若手社員の変化と、企業が取り組むべきことについて紐解いていきたいと思います。
AIが代替し始める「下積み業務」と初期キャリアの変化
かつて、新入社員の基礎スキル形成を担っていたのは、リサーチ、議事録の作成、基礎的なコーディング、あるいは資料の素案作りといった
「下積み業務」でした。しかし、これらは現在、AIが最も得意とする領域となりつつあります。
この変化は、すでに労働市場のデータにも表れ始めています。
Anthropic社が公開したレポート『Labor market impacts of AI: A new measure and early evidence』(2026年)によれば、
AIによる影響が大きい職種において、22~25歳の若年労働者が雇用される割合がやや低下しつつあるという兆候が確認されています※1。
これは、若手が最初に担当する基礎業務が減少し、雇用やキャリア形成のステップそのものに構造的な変化が生じていることを示唆しています。
業務をこなしながら少しずつ仕事の全体像を掴んでいく、という従来の徒弟的なOJTの前提が崩れつつあるということです。
若手社員のリアルな危機感と企業選びの基準
こうした環境変化に対し、当の若手社員たちは企業側が想定する以上にシビアな危機感を抱いています。
フリー株式会社が実施した「新卒入社1〜3年目の若手従業員」を対象とした調査(2026年3月)では、
約7割(69.8%)が「AIを使いこなせるかが5年後の年収や市場価値に関係する」と回答しています※2。
さらに注目すべきは、企業に対する見方です。同調査では、
「勤務先のAI活用状況が不十分な場合、転職を検討する理由になる(決定的な理由になる・大きな理由になる・少しは影響するの合計)」
と答えた割合が約半数に上りました。
これは、徐々に『AIを活用していない企業では自分が生き残っていけないかもしれない』という不安が広がっていることの表れであると推察できます。
「まずは人間が自力で基礎を覚えるべきだ」とAIの利活用に慎重になっている間に、成長意欲の高い優秀な層ほど
「この環境では自身の市場価値が下がる」と判断し、AIを積極的に推奨する企業へと流出していくリスクが高まっていくのではないでしょうか。
「若手の二極化」の実態|AIとの協働 vs AIへの依存
では、企業が積極的にAIを利活用さえすれば若手社員が定着し、継続的に成長してくれるのでしょうか。実態はそう単純ではないでしょう。
AIへの向き合い方によって、スキルの習熟度に明確な分断が生じていると言われています。Anthropic社が発表した論文では、
初級エンジニアに新しいスキルを学ばせる実験において、AIを使用したグループは作業スピードこそ向上したものの、
その後の理解度テストの平均正答率は「AI非使用組(67%)」に対し「AI使用組(50%)」と低下する傾向が見られました※3。
特に注目すべきは、AI使用組の中での「使い方の違い」による差です。
AIにコード生成を全面的に委ねた(丸投げした)層は、正答率が約40%にとどまりました。彼らはタスクを素早く完了させましたが、コードの誤りを認識し失敗原因を理解する「デバッグ能力」の低下が顕著でした。
一方で、コード生成後に「なぜそうなるのか」とAIに質問し、自身の理解を深めようとした層は高い習熟度を維持していました。
効率のみを求めてAIを利用させると、プロセスの理解や誤りを見抜く力(クリティカルシンキング)が育たず、
長期的には「自分ではエラーを解決できないオペレーター社員」を生み出してしまう恐れがあります。
イギリスの高等教育政策研究所(HEPI)のレポート『Student Generative AI Survey 2025』でも、
学部生の18%が「AI生成文をそのまま自分の作品に使用」している実態が報告されており※4、
若年層におけるこの「依存への引力」は強力だということでしょう。
確かに分からなくもないと言いますか…。思考するってしんどい。
アウトプットを出すまでの時間ってストレス、そこでAIがあれば楽をしたくなるのは人間の性じゃないでしょうか。
広がる「恩恵の格差」、AIによる生産性向上の偏り
さらに押さえておきたいのが、AIは「従業員全体のスキルを均等に底上げするもの」というよりも、
「一定のスキルや環境を持つ人材の能力を、さらに引き上げるもの」として機能している側面が強いという点です。
Anthropic社による大規模調査『What 81,000 people told us about the economics of AI』(2026年4月)によれば、
経営層やソフトウェア開発者といった専門性が高く高収入な職業ほど、AIによる生産性向上の恩恵を強く受けていることが分かっています※5。
また、A. Toner-Rodgersによる材料科学の研究開発現場を対象とした論文(2024年発表)では、AIツールの導入によってトップ層の研究者は
アウトプットが81%も増加したのに対し、下位層への恩恵は限定的であったと報告されています※6。
表面的な「文章を考えなくても作成できた」「上司への提案資料がすぐできた」というような分かりやすいタスクの代替に目がいきがちですが、
実際は『専門性・学習意欲の高い人材がもっと強くなる』というのが実態ということです。
自律的に学ぶ姿勢を持つ層はAIをパートナーとして活用し、成長を加速させる一方で、
そうでない層は指示を待つだけのオペレーターに留まってしまいます。
この構造を放置すれば、同世代だとしても能力格差が組織内で急速に拡大していくことを前提に、育成方針を練る必要があります。
AIは若手社員にとって薬にも毒にもなるわけです。
重要なのは「ジョブクラフティング」と「令和版カイゼン活動」なのでは?
とはいえ、事業環境の変化に対応することが至上命題である以上、業務のAI化による効率化はすでに不可逆な流れです。
ここで我々に問われるのは、「いかに効率化するか?」ではなく、「AIと共存・発展する環境をどう作るか?」というものではないかと考えます。
「ジョブクラフティング」による仕事の探究が再度重要になる
全社を挙げてAI活用を推進する企業としては、DeNA社が有名なのではないでしょうか。同社は2025年に「AIにオールイン」という宣言を出し、
全社でAIの利活用に取り組まれていました。
ねらいとしては「AIで既存業務を効率化し、浮いたリソースを新規事業に振る」というものがあったそうです。
しかし同社の公式メディア『フルスイング』で南場智子会長がこのようなことを語っています。
「我が社は相当AIネイティブ化が進んでいます。効率化、進みましたね。ところが、同じ作業をするのが楽になった分、自ら仕事を詰め込むということが分かりました。DeNAのメンバーは真面目ですからね。日本人はみんなそうだと思います。同じタスクをするのに工数が少なくて済むようになると、新たにできた時間で「やりたくてもできなかったこと」を自分でどんどん詰め込んでいく。新規事業への人材のシフトが、思ったほどまだできていないっていうのが正直なところです。」※7
DeNA社のカルチャーとして仕事に対して熱心・真摯な方が多いことも要因としてありそうではありますが、
今の仕事に意味づけがなされており、熱心に取り組む方は「今の仕事をもっと良くしたい」という欲求があり、
浮いた時間はそのために使いたい、という心理が働くのでしょう。
本事例から言えることとして、「効率化を目的とするのではなく、浮いた時間で業務をさらに良くしていくことを目的としたAI活用が重要」
ということではないでしょうか。タイパ・コスパを求める、楽になることではなく、「より良くすること」を目的とする。
その「より良くする」という動機を作っていくためには、自分の仕事の意味ややりがいを再構築していく「ジョブクラフティング」が重要だと考えます。
仕事の意味や動機がないと楽になることが目的化するため、AIに依存する。
仕事の意味ややりがいを感じていれば「より良くすること」を目的とするため、AIのアウトプットもクリティカルに見るし、探究する。
数年前に注目された概念ですが、若手社員の自律的な成長のためには改めて大切なのではないかと思います。
日常の自発的な業務改善が「AIをうちも使っている」という認知を作る
若手の定着という観点で、フリー社の調査では、
「勤務先のAI活用状況が不十分な場合、転職を検討する理由になる」と答えた割合が約半数に上ったことについて触れました。
したがって、『自社はAIを使いこなして進化している』という認知を若手社員に持ってもらうことが重要です。
しかし、単にAIツールのアカウントを付与しただけではその認知を作ることは難しいでしょう。ここで重要なのは、現場の業務の「余白」の中で、
AIを用いた新しい試みが日常的に行われる土壌を作ることなのではないでしょうか。
例えば、デザイン会社のグッドパッチ社では、「全社員がAI(Claude Code)を用いて、非エンジニアであっても自力でアプリを作成する」という
全社的な取り組みを実施されたそうです※8。
エンジニアのみならず、デザイナーも営業担当も全員で探究することで、共通言語と学び合いの文化が生まれたとレビューされています。
こうした取り組みが社内外に対して「AIで進化しようとしている組織だ」という認知を作った事例ですね。
このように、AIに関する探究と業務改善がセットになった “令和版のカイゼン活動” が自然発生するカルチャーこそが、若手社員のAIへの丸投げを防ぎつつ、
「自社もAI使って進化しようとしている組織だ」という認知を作るのではないでしょうか。
若手が面白がりながら探究できる文化づくり・施策づくりが、人材の定着と成長を生むのではと考えます。
まとめ
AIの活用は避けて通れません。しかし、目的を「短期的な効率化」のみに設定し、思考のプロセスを省くような働き方を放置すれば、
中長期的な人材の成長機会を組織自らが奪うことになります。
効率化された業務の先にある「熟達のプロセス」や「仕事の面白さ」を、いかに若手と共有できるか。
若手社員が仕事の奥深さを感じ、組織全体で試行錯誤できる「余白」と「環境」をいかにデザインするか。
それこそが、継続的に人材が育つ組織を作っていくため、求められることなのではないでしょうか。
参考文献
※1: Anthropic. (2026). Labor market impacts of AI: A new measure and early evidence. https://www.anthropic.com/research/labor-market-impacts
※2: フリー株式会社. (2026). 「若手社員の7割以上が“AI推奨企業”に魅力。AI活用不足なら『転職検討』──5年後の市場価値を懸念」. freee ニュースリリース. https://corp.freee.co.jp/news/20260327freee_SurveyResults.html
※3: Anthropic. (2026). How AI assistance impacts the formation of coding skills. https://www.anthropic.com/research/AI-assistance-coding-skills
※4: Higher Education Policy Institute (HEPI). (2025). Student Generative AI Survey 2025. https://www.hepi.ac.uk/2025/02/26/student-generative-ai-survey-2025/
※5: Anthropic. (2026). What 81,000 people told us about the economics of AI. https://www.anthropic.com/research/81k-economics
※6: Toner-Rodgers, A. (2024). Artificial Intelligence, Scientific Discovery, and Product Innovation.
※7: DeNA 公式メディア「フルスイング」. https://fullswing.dena.com/archives/100189/
※8: Naofumi Tsuchiya / Goodpatch . (2026). 「全社員でClaude Codeを使ってアプリを作ってみた結果」. note. https://note.com/naofumit/n/n2835cd8fbe87






