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COLUMN

2023.08.25

新入社員の早期戦力化を促す「OJTチェックシート」。運用にあたって注意すべきポイントとは?

新入社員の早期戦力化を促す「OJTチェックシート」。運用にあたって注意すべきポイントとは?
VUCAの時代と呼ばれ、ビジネス環境が大きな転換期を迎えるなか、新入社員教育の目的に「早期戦力化」を掲げる企業が増えています。同時に現場のOJT教育においても、新入社員の早期戦力化を促すための工夫が求められている状況です。
本コラムでは、新入社員の戦力化につながるOJTを実践するために有効な「OJTチェックシート」について、具体的な内容や運用方法をご紹介いたします。

OJTチェックシートの目的

効果的なOJTを実施するためには、必要なツールを準備しておくことが大切です。「OJTチェックシート」は、新入社員が身につけるべき事柄をリスト化し、その進捗をOJTトレーナーおよび新入社員双方が確認するためのツールです。OJTチェックシートを活用する目的は以下のとおりです。

新入社員にとっての目的

①  目指すべきゴールを理解する

入社したばかりの新入社員にとって、それぞれの業務のゴールや、期待されるレベル感を自ら把握するのは難しいといえるでしょう。OJTチェックシートを通じて「目指すべきゴール」を明確に示すことで、いわゆる“1人前”になるために必要な要素を、新入社員自身が認識する契機となります。

②  ゴールに向けて進むべきステップを認識する

ゴールに向け、どのようなスケジュール感で何をすべきか細かく可視化することで、新入社員が「現在地」を把握しやすくなります。同時に、目標に対して不足している要素や課題が明らかになり、自ら主体的に目標達成に向けて取り組む行動が促進されます。

OJTトレーナーにとっての目的

①  育成に対し、新入社員と共通の認識を持つ

新入社員と共通のシートを共有することにより、互いに同じベクトルを向いて育成を進められるようになります。また、育成方針や指導内容に迷ったときに立ち返る指針にもなるため、スムーズなOJTの実践につながります。

②  意図的、計画的な育成を実現する

トレーナーが陥りがちな行動として、指導に一貫性がなく、行きあたりばったりの助言や注意喚起になってしまうケースがあげられます。OJTの基本はあくまでも「意図的」「継続的」「計画的」な育成を行うことです。そのためにもOJTチェックシートを活用し、抜け漏れを防ぎながら、先々のタスクを見据えてOJTを進めることが有効です。

現場の管理職や人事担当者にとっての目的

①  新入社員の成長度合いを把握する

OJT制度の落とし穴は、ともすると新入社員の育成が“トレーナー任せ”になってしまうことです。OJTチェックシートの存在により、現場の管理職や人事担当者も、自ずと新入社員の成長を把握する機会が生まれます。また育成の進捗が芳しくない場面で介入したり、フォローしたりする取り組みを通じて、新入社員の戦力化を後押しすることができます。

②  トレーナーの取り組みを客観的に評価する

一般的に「今後組織の中核となってほしい人材」に、トレーナーの役割を任せることが多いのではないでしょうか。そのような中で、トレーナー自身がどう育成のスキルを磨いているのか、何に困っているかなどを管理職や人事担当者が把握できる点も、OJTチェックシートを活用するメリットだといえます。マネジメントの視点からアドバイスを加えるなど、「トレーナーの育成」にも効果を発揮するツールです。

OJTチェックシートの運用方法

OJTチェックシートを運用する際は、次の5つのステップを意識するとよいでしょう。

Step1.育成目標の設定と実施項目の洗い出し

・  実施時期:新入社員の入社(配属)前
・  実施担当者:人事担当者、現場の管理職、OJTトレーナーなど
・  実施内容:新入社員の“1人前基準”や育成目標を設定する。そのうえで、1年目で獲得すべきマインドやスキル・知識を整理し、「いつまでに」「どのレベルまで」できるようになっていることが望ましいかを洗い出す
・  実施方法:関係者を集めたミーティングなど

<ポイント>

✓ 全社共通のマインドやスキル(社会人としてのマインド、ビジネスマナーやPCスキルなど)に関しては、人事部主導で定型化し、毎年フォーマットとして活用していくとよいでしょう。

✓ 部署や職種に固有のスキルや知識については、現場も巻き込みながら検討していくことをおすすめします。

Step2.OJTチェックシートの作成

・  実施時期:新入社員の入社(配属)前
・  実施担当者:人事担当者、現場の管理職、OJTトレーナーなど
・  実施内容:細分化した項目ごとにリスト化を行う
・  実施方法:Excelなどでリストの作成

<ポイント>

✓ 新入社員の習得状況を関係者間でより把握しやすくするためには、Googleスプレッドシートなどを用いて共有できる仕組みを整えておくとよいでしょう。

Step3.新入社員に対するOJTチェックシートの共有

・  実施時期:新入社員の配属後
・  実施担当者:現場の管理職、OJTトレーナーなど
・  実施内容:チェックシートをもとに、新入社員に育成方針や育成計画を共有する
・  実施方法:チェックシートを見せながら口頭で説明

<ポイント>

✓ 新入社員に対して単にシートを渡すのみでなく、時間をかけてきちんと説明することが大切です。その際、ベースとなる「育成方針」や1年間の成長イメージを、具体的な言葉で伝えてください。

✓ チェックシートの記入方法や提出方法など、必要なアクションについても併せて説明するようにしましょう。

Step4.実践とブラッシュアップ

・  実施時期:新入社員の実務稼働後
・  実施担当者:現場の管理職、OJTトレーナーなど
・  実施内容:チェックシートをもとに新入社員の取り組み状況を確認し、PDCAを回しながら必要に応じて目標の修正を行う
・  実施方法:定期的な面談など

<ポイント>

✓ 当初の計画どおりに進まない内容があっても構いません。そのときどきの新入社員の状況や成長度合いに合わせて、適宜目標をブラッシュアップしていくことが大切です。

✓ 紙面でのやりとりにとどまらず、口頭でコミュニケーションを取りながら、トレーナーから新入社員に対してフィードバックを行うようにしてください。

✓ 人事担当者や現場の管理職が、トレーナーおよび新入社員の状況を確認するなど、第三者的な立場からフォローを行うことが有効です。

Step5.全工程の振り返り

・  実施時期:OJT期間終了後、もしくは次年度の新入社員入社前
・  実施担当者:人事担当者、現場の管理職、OJTトレーナーなど
・  実施内容:一連のOJTに関する取り組みを振り返り、次年度以降のOJT計画に活かせる要素や改善点を洗い出す
・  実施方法:関係者を集めたミーティングなど

<ポイント>

✓ トレーナーの感想や意見を吸い上げながら、OJTチェックシートやOJT制度全般の見直しにつなげていくことが肝要です。

✓ 可能であれば新入社員へのアンケートやヒアリングを行い、効果が高かった要素、改善が必要な要素などに関して意見を収集してもよいでしょう。

OJTチェックシートに盛り込みたい要素

OJTチェックシートは、大きく以下の3つの要素で構成することをおすすめします。

①  育成方針やあるべき姿

例)

・  1年後に新入社員がどのような状態になっていてほしいのか
・  業務において“1人前”とされる基準

<ポイント>

✓ なるべく具体的な言葉を用い、社会人経験のない新入社員にも伝わる表現で記載しましょう。

✓ 特に「育成方針」については、その後の新入社員教育の拠りどころや指針となる部分ですので、職能要件や各部門のミッションなども意識しながら、ぶれない目標を定めておくことが大切です。

②  身につけておきたいマインド、スキル、知識

例)

・  社会人としてのマインド(職場での過ごし方、仕事の進め方など)
・  ビジネスマナー(あいさつ、言葉づかい、身だしなみ、電話応対、ビジネスメールなど)
・  ビジネススキル(コミュニケーションスキル、PCスキル、ビジネスライティングスキル、プレゼンテーションスキルなど)
・  知識(業務に必要とされる専門知識など)

<ポイント>

✓ はじめに、部署や職種を問わず社会人として必要とされる要素を洗い出し、その後新入社員ごとに求められるスキルや知識を整理するとよいでしょう。

✓ まずは、各要素が「十分にできている理想の状態」を言語化してみてください。たとえば「電話応対」であれば、「名指し人が不在時に、誰から・何の要件で電話がかかってきたのかを正しく理解し、折り返す/伝言を残すなど次のアクションがスムーズに実践できる状態」などです。そしてその状態を、いつまでにできるようになることを目指すか明示します。

✓ 次に、スモールステップで目標を設定しましょう。先の電話応対の例で、7月までに理想の状態になることを目指すのであれば、5月までに「名指し人在席時に間違いなく取次ができるようになる」、6月までに「名指し人不在時に、先方に折り返す旨を伝える対応ができるようになる」などです。

③  振り返りやコメントを記入するスペース

例)

・  1か月ごとに新入社員が進捗を記入するチェック欄
・  新入社員が振り返りコメントを記入するスペース
・  トレーナーがフィードバックコメントを記入するスペース

<ポイント>

✓ それぞれの目標や実施項目に対して、たとえば1か月ごとに、新入社員自身がうまくいったことやうまくいかなかったこと、今後の課題などを整理するスペースを設けておくようにします。

✓ トレーナーや現場の管理職がコメントを書くスペースを設けておくと、なお良いでしょう。もちろん口頭でのフィードバックが大切ですが、新入社員への承認や励ましのメッセージを伝える場として活用することで、新入社員のモチベーションアップにもつながります。

OJTチェックシートのメリット・デメリット

OJTチェックシートのメリットとデメリットについてまとめます。

メリット

・  新入社員の戦力化を促すことができる

OJTチェックシートに成長イメージが示されているため、どのような力を習得すべきか、そのためにどのようなステップで何をすべきかが、新入社員のなかで落とし込みやすくなります。

・  育成のバラつきを防ぐことができる

OJT教育において、トレーナーの経験値や性格、得手・不得手によって育成のレベル感が変わってしまう事態は防ぎたいところです。OJTチェックシートを活用することで、均質な育成システムの構築を実現することができます。

・  組織全体で新入社員の育成をサポートする風土が醸成される

OJTチェックシートにより、トレーナーと新入社員だけでなく、人事担当者や現場の管理職、トレーナー以外の先輩社員など各関係者に「見える化された育成計画」を共有できます。その結果、トレーナー任せではなく、組織全体で新入社員の成長を後押ししていく風土が生まれます。

デメリット

・  OJTチェックシートの作成が“目的化”してしまう場合がある

なかにはOJTチェックシートが完成したことで満足してしまったり、シートを埋めることが目的になってしまったりするケースも見受けられます。OJTチェックシートはあくまでも新入社員の戦力化を支援する手段であって、目的ではないことを周知することが重要です。

OJTチェックシート活用で押さえておきたいポイント

OJTチェックシートは、トレーナーと新入社員双方が現在地を把握しながら、目指すべきゴールに向かうためのツールです。
そのうえで、育成に関わる全メンバーに意識していただきたいのが「コミュニケーションを疎かにしないこと」です。具体的には、OJTチェックシートをもとに面談を行ったり、日常の声がけなどに反映させたりすることが大切です。新入社員にとっても、ただ漠然とアドバイスを受けるよりも、明確な目標や実施項目に基づいたフィードバックのほうが受け入れやすいといえるでしょう。
コミュニケーションの質を高めるためにも、ぜひOJTチェックシートを新入社員の戦力化に活用いただければ幸いです。