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2026.03.16
人事異動での離職を防ぐ!異動者オンボーディングと心理ケア
「異動をきっかけに、優秀なベテラン社員が退職してしまった」
このようなお悩みを抱える人事担当者は多いのではないでしょうか。
新入社員へのケアは手厚い一方で、社内の「異動者」に対するフォローは手薄になりがちです。
しかし、異動者への支援不足は、パフォーマンスの低下や早期離職といった大きなリスクをもたらします。
本記事では、離職を防ぐために欠かせない「異動者オンボーディング」の重要性と、
特に注意すべき40代以上の社員に対して必要なケアの手法について詳しく解説します。
人事異動が起点となる離職と現場の負荷
人事異動は企業にとって欠かせない戦略の一つですが、従業員にとっては大きなストレスやモチベーション低下の要因になり得ます。
特に近年は、会社主導の予期せぬ異動を「異動ガチャ」と呼び、ネガティブに捉える風潮も強まっています。ここでは、データから見えてくる
「異動に対する従業員の本音」と、企業側が抱える課題を紐解いていきましょう。
「異動ガチャ」に対する社員の拒否意向
パーソル総合研究所の調査(※1)によると、会社からの異動指示に対して「希望条件に合わなければ拒否する、あるいは退職や転職を検討する」と
回答した従業員は少なくありません。
具体的には、以下のような異動において強い拒否・退職意向が示されています。
・職種の変更を伴う異動:21.6%が拒否・退職を検討
・事業部門の変更を伴う異動:21.3%が拒否・退職を検討
・転勤を伴う異動:30.6%が拒否・退職を検討
これまでは「会社の指示には従うもの」という価値観が主流でしたが、現在では約2〜3割の社員が、不本意な異動をきっかけに離職を選ぶ可能性が
あるということです。 「玉突き人事」などと呼ばれる、人員不足に伴う想定外のポジションチェンジは、従業員のキャリアプランを崩すことになり、
サイレント離職の引き金になりやすい点に注意が必要です。
異動者にもオンボーディングが求められる理由
新卒や中途入社者に対しては、多くの企業がオンボーディング(定着支援)プログラムを導入し、手厚いケアを行っています。しかし、社内における「部署異動時」のオンボーディング施策の導入率は、わずか29.3%に留まっているのが現状です。
一方で、現場の従業員に対して「効果を感じる施策」を尋ねた調査(※2)では、「部署異動時のオンボーディングプログラム(72.0%)」がトップに挙げられています。この「企業側の施策の少なさ(29.3%)」と「従業員のニーズの高さ(72.0%)」の大きなギャップにこそ、課題が潜んでいます。
「社内の人間だからすぐに慣れるだろう」という思い込みを我々もアンラーニングし、異動した社員がいち早くパフォーマンスを発揮できるよう、
意図的かつ戦略的な支援を行うことが必要でしょう。
要注意!人事異動で特にケアすべき「従業員セグメント」とは
すべての異動者に対して一律のケアを行うのは、人事リソースの観点からも現実的ではありません。そこで着目したいのが、
「特に異動の受け入れ負荷(現場の負担・本人のストレス)が高い従業員セグメント」です。
具体的には、以下の2つのセグメントに対して、優先的にオンボーディング施策を打つ必要があります。
・職種転換を伴う異動者(例:営業部門から人事部門へ)
・40代以降のシニアミドル層
営業から間接部門へといった職種転換は、仕事の進め方や評価軸が大きく変わるため、適応に時間がかかるのは想像に難くありません。
しかし、人事がさらに注意深くケアすべきなのは、後者の「40代以降のシニアミドル層の異動」です。
40代以降に起きる「アイデンティティ・クライシス」とは
キャリア理論において、40代以降の中年期は「アイデンティティ・クライシス(自分が何者かが分からなくなる状態)」に陥りやすい時期とされています(※3)。
20代〜30代にかけては、目の前の仕事に打ち込むことで「職業人としての有能性(自分はこれができる)」というアイデンティティや
自信が培われていきます。しかし40代以降になると、管理職への昇進、家庭での役割の変化など、「職業人としての自分」以外の変数が多く登場し、
心理的な揺らぎが生じやすくなります。

このような不安定な時期に、本人にとって想定外の「異動」が重なるとどうなるでしょうか。
これまで築き上げてきた「〇〇の専門家としての自分」「現場を仕切ってきた自分」というアイデンティティが突然失われ、
強烈な自信の喪失や自己効力感の低下につながってしまうことも少なくありません。
【ケース】「ベテランだから大丈夫」が招く現場での孤立
実際に起きた、ある企業のベテラン社員のオンボーディング失敗事例をご紹介します。
事例:製造部門から総務部門へ異動した50代Cさんのケース
入社以来25年以上、製造現場で品質管理などを担当し、管理職経験もあるベテランのCさん。組織再編に伴い、「現場を知る人材を間接部門に」という意図で総務部へ異動することになりました。
しかし、総務での業務は社内システムの操作や細かな稟議手続きなど、現場とは全く異なるものばかり。
本来なら周囲に質問して業務を覚えるべきですが、総務部の中心メンバーは20〜30代の若手ばかりでした。
元管理職のCさんには「若手に初歩的なことを聞く」という心理的ハードルがあり、なかなか質問ができません。
一方で、周囲の若手メンバーも「年齢もキャリアも上のベテラン社員」に対して、どこまで踏み込んで教えていいのか遠慮してしまいます。
結果として、特別なフォローもないままCさんは職場で孤立し、徐々に会議でも発言しなくなってしまいました。
この事例からわかるのは、「経験豊富なベテランだから、放っておいても大丈夫だろう」という周囲の思い込みが、
結果的に本人のオンボーディングを阻害してしまうというシビアな現実です。 年次やプライドがあるからこそ、
自らSOSを出せない40代以上の異動者には、人事や受け入れ部門からの意図的な歩み寄りがとても大切になります。
異動者を早期戦力化する「アンラーニング」の重要性
このような異動先での孤立やモチベーション低下を防ぎ、いち早く戦力化するためのキーワードが「アンラーニング(学習棄却)」です。
中途入社者向けのオンボーディングとしてよく用いられる概念ですが、社内の異動者に対しても非常に有効なアプローチとなります。
過去の成功体験をほぐす「アンラーニング」とは?
アンラーニングとは、これまで学習した知識や成功体験、仕事の進め方を意識的に棚卸し・分解し、新しい環境に適応させるプロセスのことです。
「学びほぐし」とも表現されます。
長く同じ部署や職種を経験した社員ほど、特定のやり方やメンタルモデルが強固に染み付いています。前提条件が変わった新しい部署で、
過去の手法や持論をそのまま当てはめようとすると、周囲との衝突や不和を生み、結果として成果を出せなくなってしまいます。
完全に捨てるのではなく、新しい環境に合わないものは「一旦据え置く(保留する)」という感覚を持つことが重要です。
※ファーストキャリアでは異動者向けのオンボーディングワークショップを提供しています

これまでの経験を尊重しながら新たな適応を促す
中途入社者であれば「新しい会社に馴染みましょう」と伝えやすいですが、
社内異動者の場合、頭ごなしにアンラーニングを求めると反発を生む可能性があります。
従業員としては「人事から仕事を変えられたのに」という心情になるからです。人事や受け入れ部門が心がけるべきは、
「これまでのキャリアや前部署での経験をしっかり尊重する」という姿勢です。
これまでの経験を否定するのではなく、「過去の成功体験から、新しい部署でも活かせるもの(部分活用)」と
「今は一旦据え置くべきもの」を一緒に仕分けするサポートを行うことが、スムーズな適応への近道となります。
現場の受け入れ負荷を下げる!組織カルチャーのすり合わせ
異動者本人のマインドセット(アンラーニング)と同時に、受け入れ側の「現場の環境整備」も欠かせません。
同じ会社の中であっても、事業部や部署が変われば、そこは全く異なるルールが支配する「異世界」です。
部署ごとに異なる「組織要求」とカルチャーを言語化する
配属先の部署には、明示的・暗黙的な「組織要求(新規参入者にこう動いてほしいという期待)」が存在します。
例えば、組織のカルチャーは大きく以下の4つに分類でき、部署によってどの要素が強いかが異なります(※4)。

・家族的文化(内的・柔軟):メンバー同士の一体感や協調性、仲間意識を重視する。
・イノベーション文化(外的・柔軟):新しいことへの挑戦、創造性、変化への適応を重視する。
・官僚的文化(内的・硬直):組織内の安定性、統制、規律を守ることを重視する。
・マーケット文化(外的・硬直):目標達成、収益性、競争力、実力をつけることを重視する。
「前の部署はイノベーション重視だったが、異動先は官僚的文化だった」という場合、異動者が良かれと思ってスピーディに独断で進めた行動が、
異動先では「規律を乱す」とネガティブに評価されてしまいます。
配属前の事前コミュニケーションで「異世界」への違和感をなくす
このようなすれ違いによる受け入れ現場の負荷(=「なぜあの人は違う動きをするのか」という不満や指導の手間)を下げるためには、
配属前に人事や現場の管理職から、異動者に対して「部署のカルチャーと組織要求」を明確に伝えておくことが重要です。
「うちの部署はこういう判断基準で動いている」
「最初はこういう行動を期待している」
というルールやカルチャーの強度を事前に言語化して共有しておけば、
異動者も異動先への心の準備ができ、違和感なくスムーズに業務に入っていける可能性が高まるでしょう。
まとめ
本記事では、人事異動によって生じる離職や現場の負荷といった課題と、その解決策となる「異動者オンボーディング」について解説しました。
特に40代以降のシニアミドル層に対しては、アンラーニングの機会を提供し、
配属先との組織カルチャーを事前にすり合わせるという意図的なケアが不可欠です。
コミュニティベース(セグメント別)の支援へ移行する
これからのオンボーディング・セオリーは、新入社員全員に同じ研修を実施するような「マス・オンボーディング」から、
特定の課題を持つ層にピンポイントで支援を届ける「セグメント・オンボーディング」への移行が求められます。
新入社員という大きなコミュニティだけでなく、「特定の部署」「職種転換者」「40代の異動者」といった
コミュニティ(セグメント)を明確にし、人事主導で必要な支援を設計していくことが、組織全体の活性化と人材定着に直結していきます。
異動者オンボーディングや組織開発でお悩みなら
「企画を作るにあたって、他社の事例が知りたい」
「自社の組織カルチャーや課題に合わせたオンボーディング施策を設計したい」
「現在のツールや人事施策の展開方法について意見交換をしてみたい」
このようなお悩みがございましたら、株式会社ファーストキャリアへお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なオンボーディング企画や、人材育成のソリューションをご提案いたします。
参考文献・引用元
※1:パーソル総合研究所「一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査」https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/personnel-relocating/
※2:株式会社PeopleX「エンプロイーサクセス実態調査2024 Vol.1 エンゲージメント編」https://peoplework.jp/news/ukfah-x
※3:岡本祐子(1994)『成人期における自我同一性の発達過程とその要因に関する研究』(風間書房)/「アイデンティティのラセン式発達モデル」より
※4:キム・S・キャメロン、ロバート・E・クイン著(2009)『組織文化を変える 「競合価値観フレームワーク」技法』(ファーストプレス)




