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2026.08.19
【セミナーレポート】次年度の人事施策をどう改善する? 職場の「コンテクスト理解」からはじめる、論点整理と企画設計

次年度に向けて研修や育成施策の企画を進める中で、このような迷いを感じることはないでしょうか。
現場へのヒアリングはしている。育成上の課題も整理している。それでも、「研修での学びが現場で活かされていない」「例年と同じ施策を続けて、本当に意味があるのだろうか」という懸念が残る――。
こうしたときに、一度問い直したいのが、「私たちは、現場をどのような視点で見ていたのだろうか」ということです。
株式会社ファーストキャリアでは、2026年8月5日に「【事例から学ぶ】次年度の人事施策をどう改善する? 職場の『コンテクスト理解』からはじめる、論点整理と企画設計」と題したオンラインセミナーを開催しました。人事部門責任者や採用・育成ご担当者を対象に、職場のリアルな文脈を踏まえて課題を捉え直し、次年度施策につなげる考え方をお伝えしました。
本記事では、当日の内容をレポート形式でご紹介します。この記事を読むと、次の3点が分かります。
・なぜ人事施策の見直しに「職場のコンテクスト理解」が必要なのか
・現場理解によって、研修の「内容」や施策の「範囲」が変わった具体事例
・現場理解を次年度の企画設計につなげるための視点と進め方
登壇者プロフィール
齋 尚憲(いつき たかのり)
株式会社ファーストキャリア 営業部 東日本第二チーム
新卒で株式会社ファーストキャリアに入社後、営業職としてメーカー企業(化学・製薬など)やインフラ企業(エネルギー・通信など)を中心に担当。主に研修の企画設計から実施支援に従事しています。
「事業現場の解像度」を高めたうえでの施策立案を信条としており、現在は研修にとどまらず、幅広く人事施策の企画設計から実装支援までを担っています。
人事施策を考える前に――「受講者の一日」を説明できますか?
「皆様がご担当している研修の受講者が、出勤してから退勤するまでの『一日』を、どれくらい具体的に話せますか?」
どのように出勤し、誰と顔を合わせ、どのような道具を使って仕事をするのか。誰と連携し、どんな場面で判断を求められ、何に困っているのか。
研修企画の際には、「どんな業務をしているのか」「どんな育成課題があるのか」「現場は何に困っているのか」といった情報を把握することが一般的です。
もちろん、それらは重要ですが、実際の職場にはそれだけでは捉えきれないものがあります。
たとえば、周囲から何を期待されているのか。どのような人間関係の中で仕事をしているのか。職場で大切にされている価値観や、言葉にされていない暗黙のルールは何か。こうした人間関係、価値観、期待、暗黙知、その職場ならではの仕事の進め方などが積み重なったものを「職場のコンテクスト」と捉えました。

なぜ「コンテクスト理解」が必要なのか――経営と現場の間に生まれる“ねじれ”
人事施策の多くは、経営目標の実現に向けて現場へと展開されます。
一方で、経営と現場では、見ている時間軸も持っている情報も異なります。
経営は3年後、5年後といった中長期の視点で組織を捉える一方、現場では「今日の仕事をどう回すか」「目の前の顧客にどう対応するか」という“今”が中心です。
この時間軸と情報の違いが、経営と現場の間に「ねじれ」が生まれます。
経営の方向性としては正しくても、現場からすると「言っていることは分かるけれど、実際の仕事ではそう簡単にはいかない」ということが起こり得ます。
だからこそ、人事には経営の意図をそのまま現場へ届けるだけでなく、現場では何が起きているのか、どのような文脈の中で働いているのかを捉えたうえで、施策へ翻訳する視点が求められます。

では、実際に現場のコンテクストを理解すると、企画はどのように変わるのでしょうか。
セミナーでは、ファーストキャリアの支援事例をもとにした2つのケーススタディを紹介しました。
ケーススタディ1――現場を知ることで「リーダーシップ」の意味が変わった
一つ目は、大手メーカーにおける一般職(事務職)のベテラン層を対象とした事例です。
当初の相談は、シンプルなものでした。
「一般職のベテラン社員に、もっとリーダーシップを発揮してほしい」
この言葉だけを聞けば、「周囲を率先して引っ張る」「業務改善を提案する」「マニュアルを整備する」といった行動を想定したリーダーシップ研修が思い浮かぶかもしれません。実際、当初もそのような姿が期待されていました。
しかし、職場について詳しく見ていくと、別の景色が見えてきました。対象企業は従業員約2,000名のメーカーで、全国に約30の営業所・支社があります。小規模な営業所では、営業職4~5名に対して一般職が2名。営業職は3~5年程度でローテーションする一方、一般職は同じ拠点で長く勤務します。
一般職の社員は、受発注、納期確認、問い合わせ対応などを担いながら、一人で30~50社ほどの既存顧客を担当。長く同じ地域で働いているからこそ、顧客ごとの特徴や地域の商習慣などを、営業職以上に理解しているケースもありました。
さらに、本人たちは「前に立って周囲を引っ張る」こと以上に、目の前の仕事を遅滞なく、安定した品質で、ミスなく進めることにやりがいを感じていました。こうした職場のコンテクストを踏まえると、求めたい「リーダーシップ」の意味も変わってきます。必要だったのは、必ずしも前に立って組織を引っ張ることではありませんでした。
・取引先と営業職の間で情報をつなぐ
・長年蓄積してきた暗黙知を、周囲が活用できる形にして継承する
・人間関係が円滑に進むよう、経験を生かして気遣いや気配りをする
「このお客様は納期を早めに確認した方がいい」「この地域では、こういう進め方をした方がスムーズだ」といった一言も、拠点全体の業務品質を支える重要な働きかけです。つまり、現場を多様な視点で捉えたことで、「リーダーシップ」という抽象的な言葉が、その職場で本当に必要とされる具体的な行動へと置き換わったのです。
「何を課題とするか」は、現場を見る視点で変わる
このケースが示しているのは、「研修内容を工夫しましょう」ということだけではありません。重要なのは、どんな視点で現場を見るかによって、そもそもの課題設定が変わるということです。職種名や等級、一般的な役割期待だけを見ていれば、「もっと主体的に周囲を引っ張ってほしい」という課題設定になったかもしれません。しかし、業務の実態、人間関係、顧客との関係、本人たちの価値観、そこで蓄積されている暗黙知まで捉えると、「この人たちだからこそ担える役割」が見えてきます。
現場を見る視点が変わると、集まる情報が変わる。
集まる情報が変わると、コンテクストが見える。
コンテクストが見えると、課題の捉え方が変わる。
これが一つ目のケースから得られる示唆です。
ケーススタディ2――「メンター研修」だけでは解けない問題が見えてきた
二つ目は、研究の後工程を担う生産技術部門での事例です。
この部門では、新人を孤立させないことを目的に、もともとメンター制度を導入していました。しかし、20代後半のメンター社員からは、「世代が違うので、新人にどう接したらよいのか分からない」という声が上がっていました。
さらに、メンターと新人では担当業務が異なり、働く棟やフロアも離れていました。意図的に会おうとしなければ、日常的に顔を合わせることすら難しい環境です。
つまり、制度は存在していても、「新人を孤立させない」という本来の目的が十分に果たせていない状態でした。
そこで、まず実施したのが、メンター向けの研修です。
メンター制度の目的と期待される役割を確認し、上司や指導者とは異なるメンターとしての関わり方、新人の状況や感情を理解する対話、世代や経験の違いを前提とした関係構築などを扱いました。研修後には、「メンターとしてどう新人に関わればよいのかが具体的になった」という反応も得られました。
ここまでを見ると、「メンター研修によって課題が解決した」と考えたくなります。しかし、この事例で重要だったのは、その先でした。研修の実施や現場との対話を重ねる中で、メンター個人の関わり方を改善するだけでは解消できない、より大きな構造的な問題が見えてきたのです。
表面に見えていた「一つの断絶」の下に、別の断絶があった
現場を掘り下げた結果、メンターと新人の関係だけでなく、大きく3つの「断絶」があることが分かりました。
一つ目は、世代間の断絶です。
過去の採用抑制によって中堅層が薄く、若手とベテランの間をつなぐ人材が少ないため、ベテランが持つ技術や経験を若手へどう引き継ぐかが、個人任せになりやすい状態でした。
二つ目は、チーム間の断絶です。
担当するテーマや働く場所が異なるため、他チームがどのような仕事をしていて、どのような知見を持っているのかが見えにくい。すでに組織内に必要なデータや知識が存在していても、「誰に聞けばいいのか分からない」ため、同じような実験を繰り返したり、手戻りが発生したりするケースもありました。
三つ目は、組織の歴史による断絶です。
統合・分社・再統合といった歴史を経験する中で、異なる仕事の進め方や価値観、キャリア観を持つ人たちが同じ組織で働いていました。その結果、若手や中堅層からすると「この組織でどのようなキャリアを歩めるのか」が見えにくい状態になっていました。つまり、最初に見えていた「メンターと新人がうまく関われていない」という問題は、氷山の一角でした。

メンター研修は目の前の問題に対して必要な施策です。しかし、部門全体として知識を継承し、新人を育て、安定的に成果を上げ続けるためには、世代・チーム・組織の歴史によって生じた断絶にも目を向ける必要があります。
問題がどのようなコンテクストの中で起きているのかを理解することで、必要な施策の「範囲」そのものが変わった事例です。
2つのケースに共通すること――施策を考える前に「課題の捉え方」を疑う
2つのケースには、異なる変化が起きました。
ケース1では、現場を理解したことで、本来実現したいことが具体化され、研修の企画内容が変わりました。
ケース2では、目の前の問題を掘り下げたことで、その問題がより大きな構造の一部であると分かり、必要な施策の範囲や組み合わせが変わりました。
共通するのは、いきなり「どんな研修をやるか」から考えなかったことです。まず現場を見て、情報を集め、コンテクストを捉える。そのうえで、「そもそも本当に解くべき課題は何なのか」を問い直すことから始めることが重要なのです。

現場理解を深める3つの視点
現場のコンテクスト理解を深めるために具体的に何を確認すればよいのでしょうか。まずは、ご自身がどのくらい現場を理解できているのかを把握するために、「受講者」「業務」「組織要求」の3つ視点でチェックしてみましょう。
1.受講者を理解する
受講者の属性だけではなく、どのような動機で入社し、何にやりがいを感じているのか。日常業務のどこで多くの人がつまずくのかまで説明できる状態を目指します。
2.業務を理解する
「営業」「研究」「事務」といった職種名だけで捉えるのではなく、実際にどのような業務をしているのか。その仕事の前後にはどの工程があり、誰とつながりながら仕事を進めているのかまで確認します。
3.組織からの要求を理解する
上司や同僚、顧客から何を期待されているのか。地域や顧客固有の事情はあるのか。職場で大切にされる価値観や暗黙のルールは何か。こうした項目を確認していくことで、「分かったつもり」になっていた現場理解を、より具体的なものへと更新できます。
人事施策の企画・設計では、「リサーチ」が与件の精度を上げる
企画を始める際、私たちはどうしても「この層にはこういう課題があるだろう」「この研修が必要だろう」と、これまでの経験から仮説を立てます。仮説を持つこと自体は問題ではありません。重要なのは、それをそのまま「与件」にしてしまわないことです。
施策の対象となる従業員や部門組織を“1次顧客”として捉え、現場で何が起きているのかをリサーチし、事実やデータをもとに与件の精度を高めることが重要です。現場へのヒアリング、アンケート、既存データの確認などを通じて、「本当にその課題は起きているのか」「なぜ起きているのか」を確かめる。この一手間が、施策を“あるべき論”から“現場で機能する企画”へ変える土台になります。
また、現場理解と企画設計において、AIを「壁打ち相手」として活用するのも有効です。AIだけで現場のコンテクストを理解できるわけではありません。しかし、現場を見る前の仮説を広げたり、集めた情報を整理したりする際には、有効な補助線になります。
・進め方の解像度を高める
企画のゴールに向けて、誰を巻き込み、何を確認し、どんな順番で進めるべきかを整理する。
・リサーチの仮説と論点を設計する
「この職場では何が起きている可能性があるか」「誰に、何を聞けば確かめられるか」を洗い出す。
・企画の論点出し・壁打ちをする
集まった情報から、どのような課題設定が考えられるか、見落としている論点がないかを検討する。
まとめ――次年度施策を「何をやるか」から始めない
次年度の研修や人事施策を考える時期になると、つい「昨年のプログラムのどこを変えるか」「新しく何を追加するか」と、施策そのものから検討を始めてしまいがちです。
しかし、今回の2つの事例から見えてきたのは、施策の前に、現場をどう捉えるかによって、解くべき課題そのものが変わるということでした。
一般職のリーダーシップ研修では、現場を理解したことで「リーダーシップ」の意味が変わりました。
メンター制度の事例では、目の前の関係性を掘り下げたことで、世代・チーム・組織の歴史という、より大きな問題構造が見えてきました。
だからこそ、次年度の企画を見直す際には、「昨年と何を変えるか」だけでなく、
「私たちは、この人たちが働いている職場を、本当に理解できているだろうか」という問いから始めてみる必要があります。まずは、ご自身が担当する施策の対象者について、「出勤してから退勤するまでの一日」を具体的に説明できるかを考えてみてはいかがでしょうか。
そこに言葉にできない部分があるなら、それこそが、次年度の施策をより現場に届くものへと変えるための入り口かもしれません。
株式会社ファーストキャリアでは、お客様との対話やリサーチを通じた課題特定から、企画立案、実行まで、現場の実態を踏まえた人事施策づくりをご支援しています。次年度の施策について「まだ課題をうまく言語化できていない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。




