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2026.09.24
研修のアクションプランは意味がない?形骸化を防ぐ2つのアプローチ

しかし、回収したシートの束を見ながら、こう思ったことはないでしょうか。「これ、本当に意味があるのだろうか」と。
結論からお伝えします。研修のアクションプランは、それ単体ではほとんど意味を持ちません。
ただし、参加者にとって意味を持たせる方法はあります。
本記事では弊社が実施した新入社員インタビュー調査をもとに、アクションプランを機能させる2つの打ち手を提案します。
アクションプランがなぜ形骸化するのか
アクションプランが実行されない、本当の理由
アクションプランが実行されない理由は、大きく3つに整理できます。
1.研修の「通過儀礼」になっている……残り15分で書かせるため、考える時間ではなく欄を埋める時間になる
2.職場に戻ると通常業務に飲み込まれる……目の前の締切が優先され、プランには緊急性がない
3.誰も見返さない……回収され、ファイルされ、二度と開かれない
もっとも、ここまではよく指摘される話です。より根深い原因は別にあります。そもそも研修の内容自体が、受講者の記憶に残っていないのです。
【自社調査】導入研修は「印象にない」という声が多数
弊社は2023年度に入社した新入社員10名に対し、事前アンケートとオンラインインタビューを実施しました(調査期間:2023年10月23日〜11月26日/主に従業員5,000名以上の企業に入社した方が対象)。
導入研修の印象を尋ねたところ、ネガティブな回答として次のような声があがっています。
・「特に印象に残っていることはない」
・「これといった感想はない」
・「自身がやる意味に疑問が残った」
・「なにも感じなかった」
印象に残らなかった理由も聞いてみました。
商社:全社で2週間ほどの研修。社会人としてのベーシックスキル(名刺の渡し方、ロジカルシンキングなど)は学生時代に学んでいた内容だったため、新たな気づきが少なかった
通信:5月中旬までビジネスマナー、グループとしての新規事業開発ワーク、先輩社員との座談会などを行ったが、特段感想はない
総合サービス:各事業部に必要な考え方や基礎知識などは、オンラインで週に1回30分〜1時間程度で実施されたが、自分で調べたほうが早いのではないかと思った
さらに踏み込むと、こんな傾向も見えてきました。多くの新入社員は導入研修を「配属前のアイドリング期間」として理解しており、「悪目立ちせず研修期間を過ごせば特段問題がない」と見透かしているように感じられたのです。
10名への定性的な調査であり、すべての企業に当てはまるわけではありません。ただ、育成に力を入れている大手企業の新入社員から、これらの声があがった事実は重く受け止めるべきでしょう。
ここに研修という場の、厄介な性質があります。研修中、受講者の気分は確かに高揚します。同期と語り合い、講師の話にうなずき、「明日から変わろう」と思う。その瞬間の熱量は本物です。ところが後に残るのは、熱量を感じたという記憶だけ。具体的な内容の記憶は、驚くほど早く薄れていきます。そしてアクションプランは、まさにその高揚のピークで書かれます。だからこそ数週間後に読み返しても、なぜそう書いたのか本人が思い出せない。これが形骸化の正体です。
そもそも研修は、成長機会の「1割」にすぎない
前提として押さえておきたい考え方があります。「ロミンガーの法則」です。

企業における人材の成長機会の内訳を示したもので、次のように整理されます。
もともとはMichael M. LombardoとRobert W. Eichingerが示した「70:20:10モデル」として知られる考え方です。研修が担えるのは1割。残りの9割は、すべて職場で起きています。つまりアクションプランに与えられている役割は、本来かなり重いものです。1割の場で得た学びを、9割の現場へ橋渡しする役目。その橋をA4用紙1枚と本人の意志だけに委ねているのが、多くの企業の現状ではないでしょうか。
残すべきは「記憶」ではなく「行動習慣」
目指すのは「内容を忘れても、習慣だけは残っている」状態
ここで発想を切り替えます。研修の内容を記憶させようとするのをやめる。代わりに、内容を忘れても行動習慣だけは残っている状態をつくる。
これがアクションプランを設計し直すときの出発点です。考えてみれば、私たちが日常的に続けている行動は、そのほとんどが理由を意識していません。歯を磨く意義を毎朝思い出す人はいないでしょう。習慣とは、意識から切り離されたときに初めて習慣になります。研修が目指すべきゴールも同じです。「あの研修でこう学んだから、こうする」ではなく、「気づけばそうしている」状態を狙う。
行動習慣を変えるのは「ルール」である
では、行動習慣はどうすれば変わるのでしょうか。
ここで参考になるのが、安斎勇樹氏と水野祐氏の共著『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』です。同書は「ルールデザイン」を、課題解決や価値創造を実現するためにルールによって人々の行動や思考を動機づけること、と定義しています。
そして同書が示す因果関係は明快です。
・ルールを変えると、ルーティン(行動や思考の習慣)が変わる
・ルーティンが変わると、人々の認識や関係性が変わる
・その結果として、組織文化が動き始める
注目したいのは最初の1行。ルールは行動習慣に直接作用するという点です。
目標は「達成できたかどうか」を後から判定するもの。対してルールは、その場の行動そのものを規定します。作用する場所が根本的に違うのです。
ルールには「縛る」だけでなく「解放する」働きがある
ルールと聞くと、窮屈な響きを感じる方もいるかもしれません。しかしルールには「人/組織を縛る」側面だけでなく、「人/組織のポテンシャルを解放する」側面があります。
例として挙げられているのが、スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたという話です。服を選ばないというマイルールによって、決断のリソースを仕事へ集中させていた。身近な「仕事のできる人」を思い浮かべても、同じことが言えるはずです。集中を切らさないために通知を切る。目的地の1駅前で降りて歩く。彼らは例外なく、自分なりのルールを持っています。
研修のアクションプランに足りないのは、まさにこの発想でした。上から与えられた「守るべき約束」ではなく、本人が自分を助けるためにつくった「道具」であること。これが大切であるように考えます。
アプローチ(1):アクションプランを「本人のルールメイキング」にする
ルールメイキングとは何か
1つ目の提案は、アクションプランを書かせるのをやめ、本人にルールをつくらせることです。
やること自体は似ています。研修の終盤に、これからの行動を本人が書く。違うのは書く対象です。「達成したい目標」ではなく「自分の職場で作動させるルール」を書いてもらいます。
・従来のアクションプラン:来月までに顧客への提案件数を3件に増やす
・ルール:木曜の朝は、必ず提案書を書く時間にする
前者は達成できたかを後から判定されるもの。後者は木曜の朝が来るたびに作動するもの。この違いは決定的です。
自分の現場を「ゲーム環境」として捉える
受講者に持ってもらいたい視点があります。自分の事業現場を「ゲーム」として捉えるという発想です。ゲームには必ずルールがあります。そしてプレイヤーはそのルールの中で攻略法を探し、ときには自分で縛りを設けて遊びを深めていきます。職場も同じように見立ててみる。与えられた環境をどう攻略するか。どうすれば自分にとって面白くなるか。そのための決め事を自分で設計する。
具体例で見てみましょう。
左側は評価のための言葉。右側は行動のための言葉です。
遊び心が、継続を生む
ここで軽視できないのが「面白さ」です。『ルールのデザイン』は、ルールデザインの基本原則の5つ目に「遊び心」を挙げています。実験的な姿勢とユーモアを持つことで発想が広がり、「面白そう」「やってみたい」と思えることがメンバーの自律性を育む、と指摘しています。義務感で始めた行動は続きません。ところが好奇心から始めた行動は、驚くほど続きます。ルールには、少しふざけた名前をつけてもらうくらいでちょうどいい。「木曜朝イチ提案タイム」でも「15分ルール」でも構いません。名前がつくと人はそれを口にします。口にすれば、周囲にも伝わっていきます。
完成品ではなく「プロトタイプ」として扱う
もう1つ大切な原則があります。同書が挙げる「反復的改善」、すなわちルールをプロトタイプ(試作品)として位置づける考え方です。従来のアクションプランは、書いた時点で完成品として扱われます。だから守れなかった人は失敗者になり、シートを二度と見たくなくなる。ルールならば話が違います。効かなければ変えればいい。むしろ「1か月後に必ず見直す」という前提で作ってもらいます。
同書はこれを「メタ・ルール」(ルールについてのルール)と呼びます。どんな条件で見直すのか、誰が判断するのかを、あらかじめ決めておく発想です。研修の場では、ここまでをセットで書かせてください。ルール本体と、その見直しのタイミング。2つが揃って初めて、更新され続ける仕組みになります。
研修で使えるルールメイキングの問いかけ例
ワークとして実施する場合は、次の順で問いかけます。
1.あなたの職場を1つのゲームだとしたら、いまどんなモンスターと戦っていますか
2.そのモンスターを、もっと楽に、あるいは面白く攻略するための決め事を1つ作るとしたら?今日学んだことを踏まえて考えてみましょう
3.そのルールは、いつ・どこで作動しますか?
4.そのルールに名前をつけてください(なるべく面白い名前を付けてみましょう)
5.うまく効かなかったとき、いつ見直しますか
ポイントは、目標を聞かないことです。「どうなりたいか」ではなく「どう動くか」を問い続けます。そして5番目は必ず入れてください。見直す前提を渡しておくことが、書く側の心理的なハードルを大きく下げます。
実際に組み立てるとこうなる

注目していただきたいのは、どちらの例も②で研修の学びが具体的な行動に変換されている点です。
「仮説思考を意識する」で止めれば、翌週には忘れます。「訪問の3日前にA4一枚」まで落とせば、学んだ理屈を忘れても手が動きます。そして④の名前が、周囲への宣言にもなります。「課長暇じゃね?タイム」と口に出せば、部下の側も来やすくなる。ルールが本人の外側にも作用し始めるわけです。
アプローチ(2):定着させたい行動には「事後コーチング」を3〜5回入れる
前提:個人の意志力には限界がある
ここまでお読みになって、「ルールにしたところで、結局続かないのでは」と思われた方もいるでしょう。そのとおりです。どれほど本人が納得して作ったルールでも、続かないことは十分にあります。
だからこそ施策を設計する側は、「個人の意志力には限界がある」という前提に立つ必要があります。
意志の強い人だけが成長する仕組みは、仕組みと呼べません。続かないことを織り込んだうえで、外側から支える。それが2つ目の提案です。
事後コーチングのススメ
本当に定着させたい行動がある研修、たとえば階層別研修には、事後コーチングを組み込むことをおすすめします。回数の目安は3〜5回です。
・1回では、感想の交換で終わる
・2回では、うまくいかなかった報告で終わる
・3回目以降で、ようやくルールの修正が始まる
1回目でルールを試した結果を持ち寄り、2回目で修正し、3回目で修正版の結果を見る。この最小サイクルを回すために、3回は必要になります。一方で5回を超えると、今度は本人の自走を妨げかねません。伴走の目的は、いずれ伴走が要らなくなることです。
間隔は月1回程度が現実的でしょう。研修から3〜5か月かけて、ルールが習慣に変わるところまで見届ける設計です。
扱うのは「ルールの効き具合」
事後コーチングで何を話すのか。ここを外すと、単なる進捗確認に堕ちてしまいます。
扱うべきテーマは目標の達成度ではありません。ルールが効いているかどうかです。
・決めたルールは、実際に作動したか
・作動したとき、何が起きたか
・作動しなかったなら、原因はルールの側にあるのか
・ルールをどう書き換えるか
「できましたか」ではなく「効きましたか」と聞く。この違いが受講者の姿勢を変えます。前者は責められている感覚を生み、後者は一緒に実験している感覚を生むからです。前章で触れた「メタ・ルール」を、対話の形で運用しているとも言えます。
なぜ上司ではなく第三者なのか
「それは上司の役割ではないか」というご意見もあるでしょう。もちろん上司の関与は重要です。ただし上司には2つの制約があります。
1.評価者である……評価する相手に「ルールが効きませんでした」と打ち明けるのは難しい
2.時間がない……月1回の対話を確実に確保できる上司は、決して多くありません
前掲の調査でも、当初は定期的に行われていた1on1が「自然消滅」した例が報告されていました。第三者のコーチであれば、評価から切り離された場で試行錯誤を話せます。上司には結果を共有し、プロセスは第三者が支える。この役割分担が現実的です。
設計例:研修から4か月のタイムライン
研修当日に完結させず、3〜4か月の設計にする。この一手で、アクションプランは「回収して終わる紙」から「更新され続ける仕組み」に変わります。
研修のアクションプランに関するよくある質問
アクションプランは、もう書かせなくていいのですか?
書かせること自体が問題ではありません。「目標」ではなく「ルール」を書かせてください。加えて、研修当日に回収して終わりにせず、見直す日をセットで決めること。この2点を変えるだけでも形骸化は防げます。
ルールメイキングとアクションプランは何が違うのですか?
作用する場所が違います。アクションプランは達成度を後から判定するもの。ルールは「いつ・どこで」が決まっており、その場面が来るたびに作動します。研修内容を忘れても行動が残るのは後者です。
事後コーチングは何回、誰が担うべきですか?
3〜5回、月1回程度が目安です。担い手は評価者ではない第三者が望ましいでしょう。評価者には「効かなかった」と打ち明けにくいためです。上司には結果を共有し、プロセスは第三者が支える形が現実的です。
新入社員でもルールメイキングはできますか?
できます。権限は必要ありません。自分のマイルールを決める、既存のルールの解釈を変えるといった行為に承認は要らないからです。むしろ配属直後は職場の景色が新鮮で、違和感を言語化しやすい時期といえます。
作ったルールは上司に共有すべきですか?
共有をおすすめします。ただし「約束」としてではなく「いま試していること」として伝えてください。上司が知っていれば、ルールが作動する場面を邪魔せずにいてくれます。名前をつけておくと、伝えるときにも役立ちます。
まとめ
研修のアクションプランは、それ単体では意味を持ちません。研修の内容そのものが、受講者の記憶に残らないからです。
意味を持たせる打ち手は2つあります。
- 目標ではなく、本人が自分の現場で作動させる「ルール」を作らせる
- 定着させたい行動には、事後コーチングを3〜5回組み込む
①は本人の内側に仕掛けを作り、②は外側から支えます。どちらか一方では足りません。内側だけでは意志力に頼ることになり、外側だけでは本人の当事者意識が育たないからです。
明日からできる一歩を挙げるなら、次回の研修で問いを1つ変えてみることでしょう。「何を目標にしますか」ではなく、「どんな決め事を作りますか」と聞く。その一言で、受講者が書く内容は変わります。
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弊社ファーストキャリアでは、研修そのものの設計から研修後の行動定着までを、一貫してご支援しています。
・ルールメイキング型のワークを組み込んだ研修設計
・研修後3〜5回の事後コーチングによる伴走
・上司・人事への共有までを含めた運用設計
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『2023年度新入社員調査レポート ―入社後に変化したキャリア観とその要因に関する調査―』
2023年度に入社した新入社員10名へのインタビューから、導入研修と配属後のオンボーディングが新入社員のキャリア観にどのような変化をもたらしたのかをまとめました。研修企画の見直しにお役立てください。
出典・参考文献
・株式会社ファーストキャリア『2023年度新入社員調査レポート ―入社後に変化したキャリア観とその要因に関する調査―』(2024年1月発行)
・安斎勇樹・水野祐『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』
・ロミンガーの法則(Michael M. Lombardo・Robert W. Eichinger による「70:20:10モデル」)





