株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
ファーストキャリア
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INTERVIEW

2023.04.12

これからの組織に求められる「エントリーマネジメント」 その考え方と押さえておくべきポイント

これからの組織に求められる「エントリーマネジメント」 その考え方と押さえておくべきポイント
人材のスキルや能力を引き出し企業価値の向上につなげる人的資本の考え方が近年注目されている。一方で、コロナ禍などの影響を受け転職市場が活性化しており、新卒・中途を問わず企業が新たな人材とマッチングを計る機会は増加傾向にある。こうしたなか、重要度が増しつつあるのが、新規従業員を採用する際に行われる「エントリーマネジメント」だ。これからの組織に必要なエントリーマネジメントの観点とは。株式会社ファーストキャリア 元取締役 営業本部長 高橋稔氏のインタビューから紐解いていきたい。

インターンシップやオンボーディングのあり方に課題

――エントリーマネジメントとはどのような取り組みなのでしょうか

組織におけるエントリーマネジメントは、新規従業員の採用時に行われるエントリーポイントの検討やそのタイミングの決定、人材ニーズの分析、募集方法の決定、面接や選考試験の実施、採用決定、そして入社後オンボーディングまでの一気通貫した取り組みのことを指します。

――エントリーマネジメントの領域において、企業は例えばどのような課題を抱えているのでしょう

まず、近年で特に重要度が増しているインターンシップです。経済産業省、文部科学省、厚生労働省は2022年6月に「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」を改正しており、インターンシップの実施期間要件として、汎用的能力活用型では5日間以上、専門能力活用型では2週間以上の実施をするよう明記されています。従来の職場見学を中心としたインターンシップでは不十分であり、企業としてはインターンシップのあり方を見直すタイミングに来ているといえます。

また、オンボーディングにも課題があります。新卒50名程度を採用する企業が年間数百名規模の中途採用を行っているというケースは珍しくありませんが、新卒に対しては予算を投入し力を入れているものの、中途採用者には十分な支援が行われていないという実態があります。実際に当社に対しても、中途採用者向けのオンボーディング施策を提案してほしいという声が寄せられています。

――従業員側の状況変化としてはどのようなことがあげられるでしょう

総務省の労働力調査によると「転職等希望者数」はコロナ禍以降増加傾向にあり、2021年には846万人と2020年よりも27万人増えています。厚生労働省の調査では、大卒で企業に入った人のうち約1/3が3年以内に辞めていることが分かっていますが、人材の流動性はより高まりつつあるといえそうです。転職がキャリアの一般的な選択肢となり、従業員自身がキャリアアップのためのポジティブな転職がある半面、給与の低さやキャリアの見通しの不透明さ、評価方法への不満と言ったネガティブな理由からの転職が一定数を占めていることは間違いありません。

企業と個人の双方が目指すべき姿を明確化し、アップデートし続ける

――そうしたなか、企業がエントリーマネジメントで目指すべきこととは何でしょうか

不幸なマッチングによるネガティブな離職を防ぐことです。従業員が企業の価値向上に対して貢献するには、適切なマッチングが行われていることが大前提となります。最低限、企業と従業員のベクトルが同じ方向を向いていなければ生産性は上がりませんし、離職につながってしまうリスクがあります。企業と従業員のベクトルを合わせ、双方にとって良い方向へ向かうような姿を模索すべきです。これらに向き合うことは、従業員のエンゲージメント強化・リテンションへの寄与といった、好ましい副次効果にもつながるでしょう。

――不幸なマッチングを防ぐうえで、企業にはどのような課題がありますか。

これまでの採用プロセスでは企業側の文脈でのアテンションマーケティングが重視されており、個人と企業がそれぞれやりたいことを共有する機会にはなりづらかったといえます。ともすれば「うちの会社はここが良い」「こういう人材がほしい」といった企業側の価値観の押しつけになってしまいかねません。

働き方の価値観が変化し、個人文脈を尊重する重要性が高まっているなかでは、企業と個人の双方を意識しながら、それぞれが目指すべき姿を明確化・継続的にアップデートし、それを相互に共有することですり合わせていくことが求められます。

加えて、新入社員教育の見直しも必要です。従来は、スキルの教育・測定がメインとなっており、パーパスやビジョンが相互的に共有される機会は少なかったといえます。従業員は何らかの魅力を感じてその会社を選んだはずなのに、入社後にその解像度を高めるようなインナーブランディングの施策は現状ではなされているとはいい難いです。また、近年ではキャリア研修のタイミングが早まっている傾向も見られますが、個人のやりたいことが明確になっていないままキャリア観を考えても、あまり意味はありません。

――採用プロセスやインナーブランディングにおいて大切にすべき考え方を教えてください

当社としては給与や昇進といった外的報酬をアピールするよりも、従業員の内的報酬(内発的動機)をいかに生み出すかが重要だと考えています。たとえば、給料は倍になるが波長の合わない上司と同じオフィスで働くよりも、一緒に働く人の魅力や自分のやりたいことがあるほうが魅力に感じるという人は少なくありません。ネガティブな離職を防ぐためには、企業が個人のやりたいことやビジョンを明確化するサポートを行い、それが企業の目指す姿とどのように重なる可能性があるか考える機会を継続的に設けることで、内的報酬を高めていくことが必要になります。

効果的なエントリーマネジメントに取り組むための基本的な考え方

――エントリーマネジメントに取り組むにあたって押さえておくべき基本的な考え方についてご説明いただけますか

インターンシップ、採用選考、入社後の導入教育という3つの流れで考えていきます。

1.インターンシップ

就職を考える学生と企業がはじめてしっかりと接触する場がインターンシップです。個人が実現したいことおよびその会社に入ったらできそうなことの解像度を高め志望意欲を醸成しながら、会社が大切にしている基盤となる考え方を共有し、相互理解の場にしていくことが重要です。ファーストキャリアの支援例ですが、デジタルプラットフォームベースで、企業理解(過去)と企業・事業の可能性(未来)の理解を進める取り組みのサポートを行っています。たとえば、大手電池メーカーで、「電池×(  )」といったテーマで学生同士のワークショップを行うことで、企業理解を深め、事業の未来を考えるプログラムを提供しました。

2.採用選考

不幸なマッチングを防ぐには、コンピテンシー(資質・能力)で判断しようとするのではなく、その人材の価値観を理解することが求められます。企業にとっての人材の価値は、志望意欲とコンピテンシーで量られがちですが、価値観とコンピテンシーの掛け算で考えるべきでしょう。いくらコンピテンシーが高くても、大事にしたいものが異なっていれば働いているうちに目指す方向性の乖離が大きくなり、マイナスの結果を招いてしまうことでしょう。採用選考では自社の価値観と候補者の価値観・方向性がどの程度一致しているかを確認することが重要です。

3.導入教育

まず新入社員の集合研修は、個人にとってのインプットの場であるとともに、企業からのメッセージを受け取る場となります。ここで新入社員は、同期や先輩社員の顔ぶれ、各事業の特色などを把握することで、会社のイメージや社風を体感します。ここでの重要なポイントは、採用時のメッセージとずれないようにすることです。ここにギャップが生じてしまうと、違和感を持ったまま配属されてしまうことになります。

そして、配属後のオンボーディングの内容は、従業員の成長への動機づけを第一の目的として考えることが大切です。昔から内容の変わらない研修を毎年行っているケースなどもありますが、10年前と今とでは、仕事の進め方も、新入社員の考え方、資質や能力も異なるはずです。特に、個性が尊重される現代において、成長の方法は人それぞれ異なるという認識が一般化してきました。やり方を押し付けられてしまうと、人によってはポテンシャルを発揮することが難しくなります。毎年やっていることだからと思考停止せず、インターンシップや採用を踏まえ新入社員のポテンシャルを把握したうえで、時代や個人に合わせた形で設計すべきです。

人材戦略を明確化し、採用部門・育成部門・現場が一体となって取り組むことが重要

――エントリーマネジメントに関する取り組みを進めていくうえで、企業にとってハードルになる部分はどこにあるでしょうか

エントリーマネジメントは、人事部の採用部門と人材育成部門、実際の配属先が一体となって進めていく必要があります。しかし、現段階ではこれらの連携が担保されている企業は多くありません。特に大手になればなるほど、そのハードルは高くなります。

ファーストキャリアとHR総研が実施した調査では、「新卒採用部門(担当)と人材育成部門(担当)間の連携がうまく取れているか」との問いに対し、「大変うまく連携できている」が12%、「まぁまぁ連携できている」が41%という結果になりました。しかし、多くの場合、採用部門は新人の採用・集合研修までを担当し、その後は人材育成部門が責務を追うという業務分担になっています。加えて、育成部門が行うOff-JTなどの研修は、学びの内容と現場の実態とがかけ離れ、従業員の負担になってしまっていることも少なくありません。採用部門と人材育成部門が一体化し、現場と緊密に連携することが大切です。

――こうしたハードルを乗り越えるためのヒントがあれば教えてください

人材戦略を明確化し、会社に必要な人材像を採用部門・育成部門・現場で共有することです。人材戦略が明確になれば、採用部門・育成部門・現場が一体となるための社内の採用・育成方針のベースを構築することができます。そのうえで、人事部門がイニシアチブを握り、採用・育成プログラムや制度設計を推進していくことが重要となります。

更にいえば、自社における人材戦略の文脈を、エントリー希望者/エントリーしてもらいたいターゲット人材にチューニングしながらメッセージすべきです。「個人が描く未来の一部に自社がどうマッチするのか」の解像度を高めてもらうような働きかけやタッチポイントを増やすことが重要です。

――最後に読者のみなさまにメッセージをお願いします

仕事で質の高いアウトプットを出すためには、よいインプットが必要となります。企業も同様で、永続的に企業価値向上を担っていく為には、人材領域でも良質な“企業と個人の合意形成プロセス”を伴うエントリーマネジメントの実現をし続けていくことが大切です。採用・人材育成を一気通貫で考え、適切なエントリーマネジメントに取り組んでいくことが求められています。

当社には、長年の新入社員育成の実績がありながら、近年ではインターンシッププログラム設計などのサポートも行っています。自社にとって最適なエントリーマネジメントを共に実現していきましょう。