株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
ファーストキャリア
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INTERVIEW

2023.12.12

「My Style Canvas」開発者に訊く、これからの時代に求められる人材開発手法とは

「My Style Canvas」開発者に訊く、これからの時代に求められる人材開発手法とは
事業環境の激化や慢性的な労働力不足、そして「人生100年時代」に代表される働き方の変化により、これまでの“常識”が通用しない時代が訪れている。それにともない、組織内の人材育成においても、従来の「企業文脈」を起点とした考え方に加え、自分らしさの開発をベースとする「個人文脈」の視点を取り入れていく必要性が高まっている。
企業として、また組織として、これからの時代の若手人材をどのように育てていくべきなのか。プレイングスタイルを可視化するツール「My Style Canvas」の開発者、株式会社ファーストキャリア ナレッジ開発本部 シニア・マネージャー 石原 陽平氏と、同アシスタント・マネージャー 林田 直人氏に、人材開発手法のアップデートに必要な観点を伺った。

時代の変化とともに、育成観のアップデートが求められている

――まずはお二人が所属するナレッジ開発本部のミッションを教えてください。

石原:当社がお客様にご提供するナレッジに関するマネジメント全般を担う部署です。具体的には、研修テキストの開発や、個社向けのカスタマイズ。また、市場ニーズの洗い出しや、新プロダクトの開発および展開を行っています。私自身は全体方針の策定をメインに、主にプロジェクトマネジメントに従事しています。

林田:私は石原さんがリードするプロジェクトの一員として、実際のプログラム開発など実務的な業務に携わっています。

――昨今の若手人材育成に関して、どのような課題を感じていますか?

石原:外部環境が大きく変化するなかで、とりわけ人材育成に関しては、変化に応じた対応ができていない点が問題だと感じています。経済が成長期にあった時代では、指揮命令型組織を前提とした育成観が企業の成長に大きく寄与していました。「企業文脈」の育成観、すなわち「コンピテンシーに基づく“あるべき人材像”の人材育成」や「企業として最低限のインプットを行い、それ以外は各現場での育成に委ねるMust要件の人材育成」が効果を発揮していたのです。
ところが、特にここ数年のコロナ禍などの影響で、働く個人の自由度や選択肢が大きく増えました。同時に、若手自身の価値観にもさまざまな変化が訪れています。そのような変化を踏まえ、企業や組織の育成観もアップデートしていく必要があるのではないか。まさに、時代に即した人材開発の手法を考えなければいけないのではないかという課題意識を持っています。

――若手人材の価値観の変化というお話がありましたが、具体的にはどのような事柄が挙げられますか?

石原:大きく3つあると感じます。1つ目が、「自身の市場価値向上への意識の高まり」です。物心ついたときから経済の停滞感や閉塞感を味わっている世代であり、企業の不祥事やコロナ禍など、将来への不安感を強く持っているという特徴があります。
2つ目が、「自分にとってのベネフィットを軸としたタイパ思考の高まり」です。コトやヒトと向き合う際に、ストレスや時間などのコストとのバランスを見ながら、物事を取捨選択する。とくに、モノや情報が飽和しているので、何かを手に入れるよりも、何かを捨てるという選択をしがちな傾向があります。
3つ目が、「自分らしさの確立に対する焦り」です。ただ、自分らしさを求める一方で、SNSの普及などにより、認知の幅も広がっています。つまり、いろいろなあり方や考え方が存在することを認知し、判断軸が無数にあるがゆえに、自分らしさの拠り所がないことに不安や焦りを抱きがちです。
まとめると、昨今の若手人材には、「市場価値の向上」や「自分らしさ」を求め、自分軸で合理的に物事を判断しようとする傾向が見られるのではないでしょうか。

林田:まさに私もその世代の人間ですが、私自身を含め、どのような環境に身を置いていても、漠然とした不安を感じている人が多いなと感じます。SNSなどでいろいろな情報にアクセスできるからこそ、たとえば起業して成功している友人や、地方から都会に出てきてインフルエンサーとして活躍している友人などと比較して、自分はこのままでいいのかという不安を覚えてしまうのです。
従来の組織では、評価や昇進につながる“頑張り方”が明確でした。でも、今は頑張り方を間違えてしまうと、評価されないどころか、自らの組織内キャリアにも影を落としてしまう。正しく頑張らなければいけないが、正しい頑張り方が分からずに、模索を続けている人が多いのではないかという印象を受けます。

これからの人材育成に求められる「自分らしい強みの発揮の仕方」

――「育成観」に対する課題を踏まえ、若手人材の育成領域において、どのような世界を目指していく必要があると考えますか?

石原:先ほど「企業文脈」の人材育成という話をしましたが、これからの時代は従来の考え方に加えて、「個人文脈」の視点も求められるのではないでしょうか。すなわち、企業が求めるMust要件を満たしたうえで、自分らしさの開発の支援を軸とした育成を行うことが必要だと考えています。

林田:理想は、若手人材が自らの意思に基づき、自分の才能や自分らしさを開発・模索し、キャリアや市場価値を高められる世界ですね。その結果、若手人材が成長しパフォーマンスが高まるとともに、エンゲージメントが醸成され、若手の活躍の場が増えていくことが期待できます。

――そのような世界を実現するために、ナレッジ開発本部として取り組んでいることは?

石原:当社の強みである「ファーストキャリア期」の人材育成を通じて、若手社員自身や、現場で育成を担う方々を中心に、ボトムアップで変化を起こしていきたいと考えています。今回、私たちが挑戦しているのは、ある種のパラダイムシフトです。世の中に浸透している「育成観」をアップデートしていく活動を通し、企業レベルの変化から世の中全体の変化につなげていきたいですね。
そのために、私たちがご提供する研修プログラムにも、今お話ししたような育成観を落とし込んだり、新たに「My Style Canvas」というツールをリリースすることで、多くの若手人材に自分らしさを見つけるきっかけを届けられればと考えています。

――「My Style Canvas」の基本概念に「プレイングスタイル」という考え方があります。具体的な内容を教えていただけますか?

石原:プレイングスタイルとは、「自分の強み(能力・経験)や特性(価値観・考え方)を活かした成果の上げ方」や、「日常的な思考や行動のあり方」を指しています。簡単に言うと、「自分らしい成果の出し方」ですね。
たとえば、営業という仕事において、“足で稼ぐ”ことを重視する風潮がありますが、本来成果の出し方は人それぞれです。クライアントとウェットな人間関係を築く人、圧倒的な知識量で勝負する人、戦略で凌駕する人など、人によって得意な方法、つまりプレイングスタイルが異なります。まずは自分自身がどのようなプレイングスタイルを持っているかを明らかにすることが、個人の能力開発やキャリア開発につながる第一歩なのではないでしょうか。

林田:プレイングスタイルは、極端に言えば、人の数だけ存在します。研修やワークショップなどで自身のプレイングスタイルを明らかにする際、私たちからも必要な切り口は提示しますが、自身の保有能力を自ら言語化し、どのようなシーンで活かせるかと考えていくプロセスにこそ価値があると考えています。

石原:営業職の事例に戻ると、たとえば行動量を求められる組織で、「自分は営業に向いていない」と悩んでいる人がいたとします。でも、自らの能力を因数分解していくと、感謝欲が高かったり、傾聴力や相手のことを察する力を持っていたりといった、自分なりの特徴を見つけることができます。これらを言語化し、自身の資産を活かした成果の出し方を考えていくことで、仕事に対して前向きに取り組めるようになるはずです。

林田:「My Style Canvas」は、人の能力要素をカードにして因数分解し、言語化することを支援するためのツールです。現在は、200〜300個の能力要素を軸に、アプリ上で自分の特性に近いカードを選んでもらえる機能を開発しています。経験に応じてカードの入れ替えが可能なため、過去のボードと比較して、自ら成長を実感できるような仕掛けが特徴です。

課題は現場で自発的に活用してもらうための仕組みづくり

――「My Style Canvas」の開発にあたり、障壁となった事柄はありますか?

林田:コンセプト自体はわりと早い段階から固まっていたのですが、そのために何をどうすべきか、またどのようにユーザーに浸透していくかが課題でした。本格的に議論を重ねたのはこの半年間くらいでしょうか。プロジェクトメンバー全員で喧々諤々とディスカッションしましたよね(笑)。

石原:そうですね…。若手人材だけが変わればいいというわけではなく、現場の実態に合わせてどう浸透させていくかが大切ですから。

林田:そのような意味で、「My Style Canvas」をどのように実務に落とし込むか、育てる側との接合をどう高めていくかなど、現場で自発的に使ってもらうための方法については今後も検討が必要ですし、練り上げていきたいと思っています。

――一般的なアセスメントツールと比較した「My Style Canvas」の特徴を教えてください。

石原:主に2つ挙げられます。まずは、「自分の経験から紡ぎ出していく」ツールであるということです。アセスメントはともすると、“自分はこういう人間なんだ”という固定された思考を形成してしまうリスクがあります。一方で「My Style Canvas」では、本人の経験を踏まえて、自ら自発的に内省するプロセスを重視しています。一般的に、さまざまな経験を積んでいる人ほどキャリア満足度が高いというデータもありますし、食わず嫌いをせずに多様な経験を積むこと自体の大切さを若手人材に伝えたいという裏のメッセージも含んでいます。
もう1つが、「自分で組み合わせて、自らのスタイルを表現できる」ことです。アセスメントでは、帳票に表れた結果だけを見ても、自身の特徴や特性をどう活かすかというところにまでなかなか想像が及びません。その点、「My Style Canvas」は、“自分なりにこういうふうに使えるかも”という言語化ができるメリットがあります。

林田:プレイングスタイルは変わる前提のものであり、現在置かれている文脈においてどう活かしていくかを考えることが大切です。つまり、置かれている状況が変われば、プレイングスタイルも柔軟に変えていく必要があるのです。そのような“幅”の広さも、アセスメントには見られない特徴ですよね。

石原:たしかに、組織内での立場が変ったり、異動などによっても求められる成果やミッションは変わりますから、自分のことを「メタ認知」し、これまで培ってきたものをどうデザインして使っていくかという主体的な思考と姿勢を生み出せる点も「My Style Canvas」ならではだと思います。

若手人材にとっての「インフラ」になることを目指して

――「My Style Canvas」を今後どのように展開していく予定ですか?

林田:「使うことにメリットがある」と感じてもらえるプロダクトを目指しています。人材開発関連のツールは世の中にたくさんありますが、業務が忙しくなるにつれて優先順位が下がり、使われなくなってしまうケースも多々見られます。ユーザーである若手人材に、インフラと同じくらい大切なものだと認識してもらうことがポイントになってくるかと思います。

石原:理想は、「上司と部下とのコミュニケーションツール」として活用してもらうことですね。「My Style Canvas」で言語化された部下のプレイングスタイルをもとに、印象論のマネジメントではなく、双方に納得性の高いマネジメントを実践してもらうこと。たとえば、「○○さんの強みを活かして、こういう仕事の取り組み方をすればいいのではないか」といったアドバイスもしやすくなりますよね。

林田:たしかに、若手人材に継続的に「My Style Canvas」を使ってもらうことで、日常の上司とのコミュニケーションにおいて、自身のスタイルを踏まえた対話を行ってもらえたら嬉しいですよね。

石原:そうですね。同時に、上司自身にとっても、いろいろな成果の出し方を理解することにつながりますので、マネジメントスタイルにも多様性が生まれるのではないかと思います。

林田:言語化する作業は難しいかもしれませんが、まずはその楽しさに気づいてもらいたいですね。特に近年の若手人材は、「何者かになりたい、そのためにレベルアップしたい」という傾向が強いと感じます。自分のなかでステージが上がっていく感覚というのでしょうか、ゲームのように取り組んでもらいながら、自己効力感を高めるきっかけを作ることができばと思っています。

石原:最初の話に戻りますが、従来の企業文脈の育成観がフィットしなくなってきている企業や、「新価値創造」に重きを置いている企業にはとてもマッチするツールだと考えています。多様性と強さを兼ね備えた組織を実現するための一助として、「My Style Canvas」を活用していただきたいですね。

――最後に、お二人の今後の目標を教えてください。

石原:私には昨年産まれたばかりの娘がいるのですが、彼女が就職活動を行う時代に、「生き生きと働くこと」が当たり前の世界になっていたら嬉しいなと思います。そのためにも、これからも私たちの事業を通じて、世の中に新たな価値を届けていきたいです。

林田:シンプルに、「生きやすくなる人」を増やしていきたいですね。昨今の世の中は、自分と他者の相対比較が容易になり、必要以上に劣等感を感じやすくなっているのではないかと感じます。「My Style Canvas」のように、新たな切り口で自分の能力を活かせるような世界を創れれば、きっと今よりも生きやすくなる人が増えると思うんです。生きやすく、働きやすい世界の実現のために、これからも邁進していきたいですね。