株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
ファーストキャリア
ファーストキャリア
COLUMN

2024.06.06

入社3年目の私が、初めてOJTトレーナーを担った時の話(トレーナーの苦悩・葛藤の体験談)

入社3年目の私が、初めてOJTトレーナーを担った時の話(トレーナーの苦悩・葛藤の体験談)
新入社員の受け入れにあたって、各社様で導入されている「OJTトレーナー制度」。新入社員に対し、OJTトレーナーが指導・育成を行うこの制度は、双方にとっての成長機会と言えるでしょう。本コラムでは、入社3年目という若さでOJTトレーナーを担当した筆者の苦悩・葛藤の体験をたどっていきます。「OJTトレーナーに対して、意味のある支援とは何なのか」を考えるきっかけとなれば幸いです。

はじめに

昨今「若手が若手を育成する環境」が増えてきていると感じています。私がご一緒する企業様の中でも、2年目、または 3年目から育成担当に任命され、若手の内から育成の役割を担うことが増えています。かくいう私も、入社3年目を迎えたタイミングで、育成担当(以降トレーナー)に任命され、1年間トレーナーの役割を担いました。トレーナーの任期を終えた今、当時のことを考えると、自分自身を大きく成長させてくれた、やりがいのある役割だったと感じています。

本記事では、「若手が若手を育成する環境」について、トレーナーの心境や葛藤を、実体験をもとに書いていきたいと思います。証明された理論などに基づいた話ではございませんが、同じ境遇にある方々のヒントになれば、また受け入れる現場の皆様へ何か参考になる情報になれば嬉しく思います。

突然の任命:漠然とした不安

私がファーストキャリアに入社して3年目を迎え、営業職の業務にもある程度慣れ、仕事を自ら進められるようになったなと感じていた5月頃、突然上司から声をかけられました。

「新入社員のトレーナー、任せたから!」

決定事項で報告形式の通達を受けました。理由や背景の説明もない突然の報告で、当時の私の心境は以下のようなものでした。

  • 他の人もいる中で、なぜ私なのか?
  • 3年目の私で本当に務まるのか?責任を負えるのだろうか?
  • 通常業務もある中、時間が割けるのだろうか?
  • そもそも何から行えばよいのだろうか?

まだまだ自分の経験が浅く、頼もしい先輩として振舞える自信がない中、漠然とした不安と、なぜ私が任命されたのかを考え続けるようになっていました。また、自分もプレイヤーとして一人前のパフォーマンスを求められている中で、通常業務とトレーナー業務を両立させていけるのかなど、モヤモヤした感情を抱える日々が続きました。

上記の感情を抱いたまま、トレーナーとしての期間をスタートさせたのですが、やはりトレーナー業務にコミットすることができず、どこかで「本当に自分が担うべき役割なのだろうか」と逃げ道を作ってしまうような感覚もありました。

このままでは、自分にとっても、トレーニー・周囲にとってもよくない状態が続くと思い、上司にこの感情を打ち明けることにしました。偶然別の打ち合わせで話をする機会があったので、私から気になっている内容を直接伺ってみました。「他の人もいる中、なぜ私だったのか?」「3年目の私で本当につとまるのか?」「通常業務と育成にどのように向き合うのか?」など感じていることを率直に吐露しました。

上司は、私の気持ちを受け止めてくださり、説明がなかったことに関して申し訳なかったというお言葉や、その場で上記内容に関して話す時間を設けていただきました。主に以下のようなことをお話ししました。

  • 組織の中で「任せられる人にしか任せられない役割」であること
  • 組織における私への期待、この役割で得られる経験や財産
  • 育成の担当であるが責任者ではなく、責任は上司がとるというお話
  • 上司の育成経験・実体験
  • 職場のメンバーを含めたサポートの体制

特に印象に残っているのは、「任せられる人にしか任せられない役割」であること、周囲のメンバーからも私へお願いしたいと思ってもらっていること、責任者ではなく担当者であるということです。私が感じていたのは自信のなさからくる不安であり、上司からの助言や周囲からのお墨付きはとても励みになりました。同時に、具体的な育成手法(どんなスキルが必要か、どんなかかわり方が必要か)はそこまで気にしておらず、向き合う気持ちの整理が必要だったのだと、振り返って気づきました。

上記の対話によって、モヤモヤしていた感情は少しずつ晴れてきて、具体的に何をすべきか?どのように関わっていこうか?誰を巻き込んでいこうか?と前向きに考えられるようになりました。結果、受け入れの準備が徐々に進み、無事に再スタートを切ることができました。

課題への直面:後輩とのすれ違い 

「トレーニーに活躍できるようになってほしい。誤ったことは都度指導して育てていかないといけない。」そう思っていた私は、トレーニーと関わっていく中で徐々に感覚のずれを感じるようになりました。

トレーニーが自分の担当のお客様を持ち始め、営業として任せる仕事の範囲が広がり、自主的に仕事を進めてもらうようになった11月頃、仕事の相談を受け、成長に向けたフィードバックや、仕事内容の助言を行うなかで、どこか本人に伝わっていない感覚、本人に届かない感覚があったのです。もっと成長してほしいという思いのメッセージではあったものの、本人はどこか腑に落ちておらず、反発の感情や意見も受け取ることがありました。

ある日、職場で私の指導の様子をオフィスで直接見ていた同チームの(社会人10年目)から、こんなフィードバックを受けました。

「山田さんは育てようとしすぎていないか?トレーニーは山田さんが作る作品じゃない。育成の主役はトレーニー。トレーニーが育つようにサポートできているんだろうか?」

この言葉を聞いた瞬間、育てることへのこだわり・責任感を強く持ちすぎるがあまり、トレーニーの意思の確認を怠り、私が思う理想の新人像や、過去の自分の経験を押し付けすぎてしまっていたと気が付きました。「こうでなければならない」という考えが先行するあまり、思った通りにならないことへの悔しさや、怒りの感情が出ていた可能性もあったのではないかと、後から振り返りました。新入社員は意思を持った大人であるにもかかわらず、本人の意思や育つ力に向き合い切れていなかった自分がいたことに気が付いたのです。

また、自分への自信の無さからか、一方的に知識差を利用して指導するという形を取っていたことから、先輩としての威厳を保っていたいという気持ちもあったのかもしれません。

そのあとは、まずは本人の意思や考えを聞いてみること。本人の意見を尊重しながら一緒の立場で考えてみること。選択肢を提示してみることなど、教える・指導する(ティーチング)だけではない関わり方の選択肢を持てるようになりました。育てようと思いすぎる自分本位の考え方から脱却できた、貴重な経験を得られたのです。この時いただいた言葉は、当時の私が陥っていた状況そのものでとても印象に残っており、現在でも育成に向き合うための考え方の1つになっています。

課題の克服:弱さに向き合い共に育つ

周囲のおかげで学びを得た経験がいくつもあり、徐々にトレーナーの役割を進められるようになってきた中で、私も取り組んだことがない未経験の仕事や、規模の大きな仕事に対し、トレーニーとともに取り組むことも増えてきました。共に考えていく中では、トレーニーと意見がすれ違い、中々仕事が進まないこともありました。私の経験や成功体験から「こうした方がいい!」と自信を持って言えるほどの知見がなかったことも起因しているかもしれません。

知見がない分野に関しては、先輩として恥ずかしい思いや、どこか悔しい気持ちもありました。しかし、それを正直に本人に伝え、成果を出すために最適な相談相手に対して、2ともに相談するこを心掛けていました。トレーニーと私だけで完結することが仕事の成果に直結するわけではないと、いい意味で割り切れていたのかもしれません。本人がいい仕事ができるように最適な方と関わってもらいたい、また仕事を一緒に進めている感覚を大事にしたかったということも理由です。

経験豊富な上司からのアドバイスによって、より納得感のある合意形成につながり、トレーニーと動いている仕事を推進することができました。誰がどの分野に詳しいのかを教えられる機会にもなり、人脈学習にもつながっていたのではないかと感じています。加えて、副次的な効果として、トレーニー・トレーナー・巻き込む相手の3者で相談することで、私が行う相談の仕方をトレーニーが見て学んでいき、徐々にトレーニー自ら相談する場面も増えていきました。自主的な行動を促すという意味では、まずはやり方を見せて実施するイメージをつかんでもらうことも必要だと学びました。

育成期間を振り返って

当時の関わり方が果たして本当に正しかったかどうか、は今でもとても迷う部分はあります。より本人に合わせた指導ができたのではないか、本人にとってよりストレッチな経験をデザインできたのではないか、など洗い出せばたくさん出てきます。人を相手にするため、確実な正解がない中、その場その場で最適な関わり方を行うためには、これまで記載したような育成に向き合う考え方が非常に重要になると感じます。

もし、もう一度トレーナーの役割を担うとしたら、上司や周囲と積極的に対話を重ね、育成の考え方を養うこと、そしてトレーナーとしての行動へのフィードバックをいただき、基づいた行動ができているか助言をもらえるようにしたいと思います。上司や周囲との対話は、トレーナー側が意図的に行なわないと、機会が得られにくいこともあります。今回の学びも、偶発的ではありましたが、周囲との対話があったからこそ得られたものであると感じています。

最後になりますが、新入社員の受け入れは、トレーナーを起点とした職場全体のプロジェクトだと捉えています。トレーナーが起点となりながら新入社員への直接的支援に加え、トレーナーに対する周囲の支援や、サポートも含め、職場全体の育成力が試されるプロジェクトであると感じています。

新入社員への直接的支援は重要視され、仕組化されることも多いですが、トレーナーへの支援やサポートはどのように行うべきなのでしょうか。また、職場メンバーは、誰に、どのように関わっていくのがよいのでしょうか。ぜひとも新入社員の受け入れを職場全体のプロジェクトとして、職場の皆様で向き合っていただくことを願います。