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COLUMN

2022.12.15

Z世代新入社員受け入れへ 押さえておきたい事前準備~導入準備編~

Z世代新入社員受け入れへ 押さえておきたい事前準備~導入準備編~
新入社員の導入研修の企画、そして受け入れ準備を進めていることと思います。導入研修を企画する立場の方、受け入れ部署の皆様は新入社員の価値観の変化や志向の多様化を肌で感じていらっしゃることでしょう。コロナ禍において大きく変化したコミュニケーション環境や職場環境をふまえ、Z世代の新入社員を受け入れるためのポイントをお伝えします。

事前準備その1|新入社員の時代背景をとらえておく

23年卒の新入社員はZ世代の象徴として語られることが増えてきました。このZ世代については明確な定義はありませんが、一般的には1990年後半から2010年頃までに生まれた世代という認識となっているようです。来年入社する層のボリュームゾーンは2000年生まれで、物心がついた時からインターネットが身近にあった世代ですが「デジタル・ネイティブ」とは少し異なります。デジタル・ネイティブはY世代(1980年前半~1990年中盤生まれ)を指しますが、Z世代はSNSに触れて育ってきた「ソーシャル・ネイティブ」で、メールでのやりとりだったコミュニケーションは、チャットが主流となりました。Facebookの創成期とその波乱を描いた「ソーシャルネットワーク」が公開されたのが2010年。新入社員世代が中学校に進学する頃には、SNS起点で人とつながり、新しいネットワークが構築できるソーシャル・シフト時代となりました。コミュニケーションプラットフォームでもあるSNSはすべてのユーザーが公人、私人、法人を問わず様々な情報に触れられるようになりました。このように世の中の情報が透明化したことで、倫理観から逸脱したビジネスを展開する企業は次々に暴かれ、持続可能な社会、組織が社会全体の価値観となりました。SNSを通して常に自身と社会の距離を測ることができ、必要であれば対話をすることもできる。23年度の新入社員はそのような環境変化とともに育ってきた最初の世代でもあるのです。

ー  象徴的な出来事

  • 2008年iPhoneが日本に上陸
  • 2010年Twitter国内利用者1000万人突破
  • 2012年LINEが爆発的に浸透、2013年には利用者が1億人を突破

ー  まとめ

  • インターネットはもちろんSNSでコミュニケーションを取ることが当たり前の世代
  • SNS上でつながり、人や社会の情報を誰でも入手できる世代
  • 誰かが犠牲となる社会を悪とし、持続可能な社会を求める価値観形成が進んだ世界

事前準備その2|新入社員の“働くこと”に対する価値観を知っておく

多くの人事ご担当者とのディスカッションの中で研修や育成方法が今の新入社員に合っていないのではないか」という声をいただくことが多くなりました。時代に合った最適な新入社員の受け入れとはいったいどのような形なのでしょうか。その解決策を考える前に、まず新入社員世代の“働くこと”に対する意識の変化を改めてとらえておく必要があります。2021年に当社で実施した内定者に向けた意識調査にて転職意向について訊いたところ、44%が「若いうちに転職をしたい気持ちがある」という回答となりました。数年前までは転職は誰しもが取り得る選択肢というわけではありませんでした。しかし今回の調査で多くの新入社員が学生のうちから自身のキャリアに“転職”という選択肢が標準装備されていることがわかります。

これはいわゆるライフシフトの世界観と符合します。以前の日本では、大半の人のライフモデルはそこまで複雑ではありませんでした。最初のステージは①学習のステージです。義務教育を経て、高校、大学、大学院と個人差はありますが一定の年齢までは教育を受ける時期となります。次に就職活動をし、新卒から定年まで社会人として過ごす②就労のステージです。最後に現役を引退し③老後のステージで締めくくられます。現在は定年の延長や生涯現役のように就労のステージを過ごす期間が長くなり、その中で様々なキャリアを同時に選択できるマルチステージを生きる風潮となりつつあります。いわば自分の人生の選択肢が格段に広がった時代になったのです。「働きながら大学院に通う」「副業として自分の得意なスキルを売る」「働く時間を最低限にセーブし、プライベートに時間を割く」「1つの勤務先にとらわれないパラレルキャリアを実現する」といったように目の前の仕事だけがすべてではない風潮となりました。人生における自己実現のため、ストレスのない充実した環境で過ごすため、様々な選択を同時に選べる時代へと移行しているのです。

実は以前から働くステージをマルチに過ごす人々は一定数存在していました。しかしそれは一部の特殊なバックボーンを持つ人や、専門性を備えるプロビジネスマンのような人たちに限られ、一般化することはありませんでした。しかしSNSが普及したことで、働くステージの中で多様なキャリア選択をし、自由な生き方をする人々が広く認知されるに至りました。ソーシャル・ネイティブである来年の新入社員もこのようなリベラルな人生観を備え、自身でもそのような将来像を描いていても不思議ではありません。

あらかじめ先のステップを見据えて就職活動を行っていた新入社員が一定数存在していることを改めて留意いただき、働くことへの価値観や、理想とする働き方を把握しておく必要があります。これらのアップデートは研修企画やオンボーディングに反映できるとともに、人材育成のスタンスそのもののブラッシュアップにつながります。

ー  まとめ

  • ライフシフトにより働く価値観はリベラル方向にアップデートし、浸透している
  • 働くステージはマルチステージ化し、転職をはじめキャリアのあり方は多様化・一般化している
  • このような変化を踏まえた受け入れを考え、スタンスそのものをアップデートしていく必要がある

事前準備その3|導入時におけるスキル研修の問題点とその対策

新入社員の受け入れは人事部門にとっても配属現場にとっても一大イベントですが、新入社員には何を教育すればよいのでしょうか。もちろんどの企業も自社の実情に即した導入カリキュラムが組まれていると思います。例えば新入社員にマストな学習要素を決定し、導入研修期間の中で適切に実施カリキュラムを組むといった具合です。マナーやコミュニケーション、仕事の進め方といった配属後にマストとなるテーマ以外に、思考系のプログラムを組む場合があります。知的生産社会において、従業員一人ひとりの生産性向上が企業の成長ドライバであり、新入社員時から知的生産の礎となる「思考力」をコアスキルとしている企業が増えています。しかし、世の中には「ロジカルシンキング」「クリティカルシンキング」「ラテラルシンキング」など多くの思考系のプログラムがありますが、本当に思考力が強化されているのかと研修効果に疑問を持たれたことがある方も多いでしょう。研修効果の定着、特に新規で思考スキルを習得するには難しさがあります。ここでは特に導入研修に焦点を当て、思考スキル習得を難しくさせる3つ要因について解説します。

1つ目は、「業務経験がないことによる学習動機への影響」です。研修への意欲をあげる条件として、受講者が学ぶメリットについて理解している必要があります。つまり自分自身の仕事に活用できるイメージがあるからこそ学ぶためのされるのです。仕事経験のない新入社員にしてみれば、学んだ知識の活用イメージは曖昧にならざるを得ません。そのためコアスキルだからと導入研修時に思考系のプログラムを実施したとしても、テーマのアウトラインを理解する程度の習得レベルにとどまる可能性が高くなります。

2つ目に「研修プログラムに起因する問題」です。思考系研修の多くはフレームワークを用いながら物事を要素分解、原因分析をし、問題解決の疑似体験を行います。そのためプログラムでは基礎知識のインプット後にその定着を図るためケーススタディを実施する流れが一般的です。ケースの多くが仕事シーンを想定して作られており、配属前の新入社員は想像力を働かせながらケースに臨むしかありません。いわゆる会社や組織といったコンテクストは新入社員によって差があるため、与えられた状況に対する認識のバラつきが習得への足かせとなります。

最後に、「研修と現場のスキル活用の実態にギャップがある」ことです。仮に研修で得た知識が身についた状態で現場へ配属されたとして、学んだスキルやフレームワークを業務で活用するシーンがどれほどあるでしょうか。上司や先輩社員からは業務に即した仕事の進め方が指導される上、スピード重視の現場では研修のように丁寧な情報整理や分析をいちいちしている暇もありません。また社会人経験をある程度積むことができれば、ボトルネックをピンポイントで発見できたり、筋の良い解決策を発想できるようになったりすることを職場の誰もが知っています。実際に何か問題が起きたとしても上司や先輩社員とのコミュニケーションで解決されることがほとんどであるため、学んだ知識は時間が経つにつれ薄れてしまうことがほとんどなのです。

配属後の実際は、まず難易度の低い問題に対して上司やチームの力を借りながら乗り越える経験を積みます。そこから問題解決におけるコツを見出し、別の機会に活かすサイクルを回します。この点を考慮し、思考系の研修では以下2点のスキルに絞りこんだ研修内容を推奨しています。

1.物事を具体的に理解し、言語化できるようになる

業務上でなんらかの問題が発生した場合、新入社員はまず上司・先輩社員へスムーズな相談や報告を行う必要があります。報告にあたって事実関係を具体的に把握しておかなければなりませんし、関係各所と認識齟齬を発生させないため、言語化できていることも重要です。思考系の研修で重きを置かれる原因分析のフェーズはそのあとの展開となるでしょう。つまり、状況を読み取り、事実関係を整理し、具体化できる力というのは思考の基本となるのです。

また、この具体化や言語化といった力が必要とされるシーンは実業務だけではありません。例えば組織のパーパスやビジョンを自分事とする現場で働く社員には抽象的で形式的になりがちです。特に新入社員にとって、これらを自分の仕事に落とし込むことは困難です。生きた目標として機能させるためにも具体化・言語化は必要となるのです。

2.物事を抽象的、概念的に理解できる

新入社員は業務経験から成長の契機を見出す必要があります。特に業務での問題解決経験から学ぶことができなければ特に問題解決をポイントを概念的に理解しておく必要があります。抽象的に概念理解が行えると、別の問題に対し応用できるようになります。この「別の問題に応用できる」は業務の習得はもちろん、新入社員のできる業務を広げるための必要要件となるのです。


 

思考力は一朝一夕に身につくものではありません。しかし物事を具体的に把握し、把握したものを抽象的に腹落ちさせる具体と抽象を行き来できる思考プロセスは、身近で活用しやすいため、初見でのハレーションを起こしづらい利点があります。単純に思考プロセスを学ぶ位置づけではなく、新入社員の業務経験を最大限に活かす概念化思考力はこれからの思考系研修要素として参考にしていただければと考えています。

~ 次回は、配属後オンボーディングにポイントとなる事前準備についてお送りします。