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COLUMN

2024.08.19

人員を補充したのに生産性が低下?増員してもパフォーマンスがあがらない組織の理由とは

人員を補充したのに生産性が低下?増員してもパフォーマンスがあがらない組織の理由とは
深刻な人材不足が続くなか、多くの企業が“即戦力”を求め、中途採用や人事異動による人員補充に力を入れています。ところが、人が増えても
パフォーマンスが上がらない。それどころか「パフォーマンスの低下を招いている」という悩みを抱える組織の話をよくうかがいます。
なぜ十分に人員を補充しても、成果が向上しないのでしょうか。今回は、増員してもパフォーマンスにつながらない理由と、その解消方法を
解説いたします。

パフォーマンスの発揮を阻害する要因

多くの組織は、転職者や異動者にいち早く成果をあげてもらうことを期待して増員します。しかし、彼らが必ずしもすぐに戦力になるとは限りません。その理由として、「人の能力には文脈依存性があること」「受け入れ側の期待値との間にギャップがあること」があげられます。 

①人の能力には文脈依存性がある

「文脈依存性」とは、同じ構造を持つ出来事が、置かれる文脈によって異なる意味をもたらす現象を指します。例えば、前の職場で高いパフォーマンスを発揮していた人は、「その組織に活かされていた」可能性があります。また、十分なスキルや経験があったとしても、新しい組織ですぐに発揮できるとは限らず、活躍するまでには一定の時間が必要です。 

②受け入れ側の期待値との間にギャップがある

新しい人材を受け入れる際、人事や現場はその能力を高く見積もりがちです。なぜなら、特に転職者の場合、自身の職歴や実績などを最大限に
伝えるために、必要以上にアピールをしてしまうケースがあるからです。また、猫の手も借りたいほど人手が不足している職場では、
一刻もはやくその状況を打破したいがゆえに、転職者や異動者が救世主のように見えてしまうこともあるでしょう。
それらの要因から、転職者や異動者に対する受け入れ側の「期待値」が一方的に高まり、「このくらいならできるだろう」という過信が生まれます。
そのギャップに気づかずにどんどん仕事を任せてしまうと、両者の溝は拡大する一方です。 

転職者や異動者自身の状況を鑑みても、前職との仕事の進め方や文化の違いなどに戸惑いを感じ、当初の想定より馴染むのに時間がかかることも
あります。場合によっては仕事のミスやトラブルにつながり、受け入れ側が対応に追われたり、さらなる指導が必要になったりと、
組織全体の工数が増えてしまう事態も見受けられます。受け入れ側の負担の増加は、組織のパフォーマンス低下につながりかねません。 

以上の理由から、新しい人材を即戦力と見なすことは、大きなリスクをはらんでいる可能性が指摘できます。 

転職者や異動者にパフォーマンスを発揮してもらう方法

転職者や異動者に高い成果をあげてもらうには、「本人のスキルの向上」と「オンボーディング体制」の双方に対するアプローチが必要です。 

①転職者や異動者自身のスキルの向上

まずは、転職者や異動者自身のマインドチェンジやスキルの習得が不可欠です。転職者や異動者が、過去の成功体験にとらわれず、
新しい環境で何が使えるかを取捨選択するよう促すこと。また、新たな業務に必要な知識や技術を習得できるようサポートすること。
職場が変われば商慣習や仕事のやり方が異なることを受け入れ、再度学び直す姿勢が必要だと考えられます。 

②オンボーディング体制の構築

本人の努力はもちろんのこと、さらに重要な役割を占めるのが受け入れ側の体制や働きかけです。特に、異動者や転職者に早期に職場に
馴染んでもらうためには、オンボーディングの考え方が有効です。オンボーディングは新卒社員のための施策と受け取られがちですが、
組織社会化を促すうえでは、転職者や異動者にこそ必要な支援だと言えるでしょう。 

転職者や異動者に対するオンボーディングの4つのステップ

新しく組織に加わった人材が組織に馴染み、高いパフォーマンスを発揮してもらうためには、
戦力になるまでのプロセスを十分に設計することが肝要です。具体的には、以下のステップを意識するとよいでしょう。

Step1】期待役割を明確にし、本人と共有する

・目指すべきゴールと期限を具体化する

転職者や異動者に期待する成果を、あらかじめ言語化しておきましょう。新卒社員のように一斉スタートではなく、人によって過去の職歴や
スキルセットが異なるため、定型化するのは難しいかもしれません。一人ひとりの状況を踏まえて組織としての期待を伝えたうえで、
本人の志向やキャリアビジョンとすり合わせながら、「いつまでに」「何ができるようになってほしいのか」を言語化することが大切です。

・「現在地」を明確にする

目指すゴールに向けて、転職者や異動者の「現在地」を確認しましょう。具体的には
1人でできること」「助けがあればできそうなこと」「経験がないこと」の3つの要素に分け、本人の状態を正確に把握することをお勧めします。
目指すべきゴールと現在地がクリアになれば、自ずとそのギャップが明らかになり、本人の取り組み課題も明確になるはずです。 

Step2】必要な支援体制を整える

・サポート体制を構築する

「助けがあればできそうなこと」や「経験がないこと」に対して、受け入れ側がサポート体制を構築していく必要があります。その際は、
特定のメンバーに偏ることなく、できるだけ複数のメンバーで役割を分担するとよいでしょう。また、サポート方針や内容が固まったら、
職場のメンバー全員に共有したうえで、共通認識を持ちながら転職者や異動者と関わるようにしてください。 

・人脈構築の支援をする

転職者や異動者が不安に感じる要素のうち、上位にあがるのが「人間関係の構築」です。実際に、エン・ジャパン株式会社の調査()でも、
87%の回答者が「転職先での人間関係に不安を感じる」と答えています。特に初めて仕事をする環境では、誰に何を相談すればよいかがわからず、
必要以上に業務の工数がかかってしまったり、コミュニケーションのストレスを抱えたりしてしまいかねません。

そこで、部署内外を問わず、どのような人間関係が発生するのかをあらかじめ転職者・異動者に伝えておくことが有効です。
できれば早い段階で関連部署との顔合わせを行うなど、人間関係の不安解消につながるアプローチを行ってください。 

Step3】能力開発を促し、成功体験を積ませる

・業務の全体像を把握させる

転職者や異動者に対し、最初のうちは業務の一部を切り出して任せるケースが多いのではないでしょうか。しかし、新たに職場へ入った社員にとって、何のための仕事かが分からないとモチベーションも上がりづらいでしょう。まずは業務の全体像や仕事同士の関連性を整理して伝えることが大切です。

 ・スキルマップを作成する

業務の目的や内容だけでなく、各業務を通じて獲得できる能力も明確にしておくとよいでしょう。「何ができるようになるべきか」が分からないと、
転職者や異動者には迷いが生じます。そのような事態を防ぐために、タスクの一覧に加えて、スキルマップのような形で「習得すべき能力」を
見える化するのも1つの手段です。11つクリアしていく経験が、成功体験の積み重ねにもつながるでしょう。 

Step4】定期的に振り返りを行う

1on1を実施する

転職者や異動者に対して1on1を習慣化している組織では、人材のパフォーマンス、定着率が高い傾向が見られます。新しい環境や文化に慣れてきたか、
前の職場とのギャップを解消できているかなど、定期的な振り返りの場を設けることが有効です。 

・メンター制度を導入する

特に転職者が自身のキャリア開発を進めるうえでは、社内のネットワークを活かす視点が大切です。できるだけチーム外のメンバーに
「メンター」を担ってもらうことで、悩みや疑問の解消ができると同時に、さまざまなキャリア像を知るきっかけにもなります。
自身の成長イメージが具体化すれば、仕事へのモチベーションが高まると同時に、エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。 

転職者や異動者に対するオンボーディングの注意点

先述のステップに加えて、転職者や異動者へ効果的なオンボーディングを行うために、以下の点を押さえておくとよいでしょう。 

①人事が積極的に現場の状況を把握する

転職者や異動者の配属後の育成は、現場任せになることが多く、人事と現場との間で情報が分断されがちです。
結果、ミスマッチや組織への不適合により、早期に離職してしまうケースが見られます。何かあったときの受け皿となるような関係性を保つべく、
人事が定期的に面談を行う、現場に様子をヒアリングするなどの働きかけが求められます。 

②本人のマインドやスキルとの期待値調整を行う

受け入れ側が持つ「即戦力になってほしい」という期待値と、本人が「できること」「やりたいこと」をあらかじめすり合わせ、
落としどころを見つけたうえで業務に取り組んでもらうようにしましょう。ときに本人の経験値や能力を超える業務も発生しますが、
その際は「業務の目的はなにか」「本人にとってどのようなメリットがあるか」を伝えることで、双方のギャップを埋めるようにしてください。 

③転職者同士のコミュニティを形成する

特に転職者に関しては、業務だけでなく会社や組織にも慣れる必要があります。その過程で、同じような境遇のメンバーとコミュニティを
形成することが効果的です。転職者同士で互いの悩みを共有したり、課題解決に向けたアドバイスを送り合うことで、組織へのコミットメントが高まるからです。

例えば、ある企業では同じ年度に入社した中途社員たちに、「中途社員受け入れマニュアル作成」のプロジェクトを任せています。
自分たちの経験を後進に伝え、新たにジョインする人たちが働きやすい環境を作るという意味でも効果のある施策だと言えます。 

パフォーマンスにつながる増員を行うために

増員の必要がある組織は、ただでさえ業務量が多く、負荷が大きいアクションをなるべく回避したいと考えるかもしれません。
しかし、最初の手間こそかかりますが、新しく加わるメンバーのオンボーディングをスムーズに行うプロセスを十分に描いておくことが、
結果的に組織への定着や即戦力化を促すきっかけとなります。ひいては組織のパフォーマンスを高めることにもつながるため、増員を行う際は、
ぜひ意図的、計画的な育成プロセスの構築に努めていただければ幸いです。

 )エン・ジャパン株式会社「『エン転職』1万人アンケート」(202202月発表)https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/28445.html