人事と現場の連携を強化し、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を後押しする|SBI新生銀行グループ
取り組みとして、SBIグループが掲げる「顧客中心主義」の徹底や、SBIグループ各社とのシナジーの追求に力を入れています。
同社では、人事施策においてもさまざまな変革を進めており、「社員一人ひとりが意欲的に挑戦し、成長を続ける」組織づくりに邁進しています。そこで今回は、グループ人事部部長代理の髙須賀 洋之さんと、株式会社ファーストキャリア営業担当の島袋 快仁の2名で対談を実施。
同社ならではの人材育成方針や、先駆的な取り組みを成功させるためのポイントなどをうかがいました。
株式会社SBI新生銀行 グループ人事部 部長代理 髙須賀 洋之 様(左)
株式会社ファーストキャリア 島袋 快仁(右)
多様性を受け容れ、一人ひとりの強みを活かす組織づくり
――髙須賀さんのキャリアについてお聞かせください。
髙須賀 大学卒業後、日系の生命保険会社に入社しました。営業職としてキャリアを積んでいたのですが、入社4年目に1つの転機が訪れます。愛知県にある全寮制の中学・高等学校に、1年間出向をすることになったのです。
寮のスタッフとして、中高生の生活指導や学校運営などに携わったのですが、その経験が「人材育成」に関心を持つきっかけとなりました。親元を離れて暮らす思春期の生徒たちに対して、社会人としての在り方などを伝えることで、新たな気づきや人生を歩むヒントを提供できる点に、やりがいを感じたのです。
その後も人事領域の仕事に関わりつつ、より専門性を高めたいという思いから2021年に当時の新生銀行(現SBI新生銀行)へ転職をしました。
入社後は、グループ人事部の採用研修チームにて、新卒採用および研修の企画立案業務に携わっています。
――御社の人材育成方針についてお聞かせください。
髙須賀 まず、当社は2021年12月にSBIグループ入りし、2022年度より3か年の中期経営計画「SBI新生銀行グループの中期ビジョン」を策定しました。その1つの要素として、「先駆的・先進的金融を提供するリーディングカンパニーグループを目指す」という方針を掲げています。
具体的には、他者に先駆けるスピード感と起業家精神を持って、先駆的技術を取り入れながら、お客さまが真に求める商品やサービスを提供していくこと。そのなかで、SBIグループ内外の価値共創を通じて、シナジーを発揮していくことが明記されています。
本計画に基づく人材育成に関しては、組織の成長に向けた最重要課題として、「社員一人ひとりが意欲的に挑戦し、成長を続ける組織づくり」を目指しています。すなわち、多様な特性や価値観を持つ人が、お互いを認め合い、受け容れ、強みを活かせる環境を作ることが、人事領域におけるミッションです。
人事機能と現場との接続を高める先駆的な取り組み
――人事領域におけるミッションを達成するために、どのような取り組みをされているのでしょうか?
髙須賀 直近の代表的な取り組みとしては、個々のキャリア形成の促進を目的に、2021年度より職場内で、「1on1ミーティングの仕組み化」を進めています。現在も6~7割の社員が継続的に実施していますね。
また、2022年度からは、グループ主要会社で人事制度・人事管理システムを統合し、グループ全体で最適な人材マネジメントが実現できるような体制を整えました。今後は、「総合金融グループ」であるSBIグループを社員のキャリア実現の場ととらえ、組織を超えた職務公募を拡充していきます。社員の自律的キャリア形成の機会を提供するとともに、グループ内人材の有効活用と適材適所の実現につなげていきます。
そして2024年度からは、人材育成制度の大幅な変革にチャレンジしています。特に、研修(OFF-JT)と現場のOJT、戦略的異動や評価など、あらゆる人事機能を連動させるべく、さまざまな取り組みを進めています。
島袋 人事機能と現場の接続という観点では、御社の取り組みはかなり先進的かと思います。具体的に、どんな手法を用いているのでしょうか?
髙須賀 1つが、現場との対話です。人事部の研修担当と各事業本部の研修担当とで、それぞれの育成ノウハウを融合するために、月に1回定例会を実施しています。かつて、現場からは「人事が何をやっているか分からない」といった声があがることが多く、同様に私たちも現場がどのような課題を抱えているか十分に把握できていない側面がありました。そのような問題を解消するために、双方の思いをすり合わせる場を定期的に設けることにしたのです。
もう1つ、2024年度より「若年層育成MAP」という体系図を作成しました。こちらは入社1年目から役職昇格までの道のりをステージに分け、目指すべき行動(コンピテンシー)や期待役割、求められるスキル、課題感に加えて、提供する研修やツールなどを明示したものです。本資料を職場の上長を含めた社員に展開し、人事も事業本部も、そして各職場の上司も同じ方向に向かって、人材育成を推進していく体制構築を加速していきます。更に、部長やライン長向けに、部下のキャリアを考え、効果的な育成支援を行うためのガイダンスを実施していく予定です。
島袋 なるほど、人事だけではなく、現場の上司も巻き込みながら個々の育成にコミットしていくのですね。ちなみに、「若年層育成MAP」は言語化するプロセスが大変だったのではないかと思います。どのような経緯で策定したのでしょうか?
髙須賀 ビジネスが細分化され、それぞれのビジネスエリアごとに求められる能力やスキルが専門的に進化し高度化するに伴い、特定の分野の能力開発ばかりに意識が向かう弊害が生じてきました。特に若年層には、どのビジネスエリアにおいても求められる汎用的なビジネススキルの習得、習熟にバラつきが見られる状況が散見されるようになったことから、若年層向けの育成に関しては、ビジネスエリアを問わず、初心に立ち返り、高い倫理観とともに基礎的なビジネススキルの習得、そもそも、ビジネスに向き合うために必要となる姿勢や心構えを定め、一覧化を目指す必要性に迫られました。今回、経営にも承認を得て、育成の基礎、道しるべとなる指針を全社員に開示すべく、「若年層育成MAP」を策定するに至りました。
島袋 特に昨今の若年層は、「心理的安全性」と「キャリア安全性」を求めていると言われています。キャリア安全性とは、「この会社で自分は何ができるのか」「どんな成長環境があるのか」ということです。キャリア安全性が求められているにもかかわらず、多くの企業で十分に整理されていないケースが見られます。だからこそ、御社のように若年層にキャリアイメージを提示していく取り組みは、とても先駆的で効果的だと思います。
「配属先実習」を通じたリアルな学びの提供
――本年度より、新入社員研修にも新たな施策を追加したと伺いました。
髙須賀 はい。ここも意識したのは現場との接続となります。研修終了後の正式着任前に、職場でのOJTの機会を提供する「配属先実習」を導入しました。数週間に及ぶ新入社員研修の初期段階で、新入社員を配属先に送り込み、人事が提示した「仕事」をしてきてもらう設計としました。
本実習の意図は、新入社員研修を“研修のための研修”として受け身で捉えるのではなく、「新入社員研修を受講する目的」を実際に自ら理解する機会を提供し、「新入社員研修で、何を学べば良いのか自分自身で気づかせる」働きかけを強化しました。特にコース別採用を展開している当社の場合、ビジネスによっては、新入社員研修後、3か月以上の業務研修を受講してから配属先に着任される新入社員もいることから、徐々に緊張感が低下してしまう課題を近年感じていました。また、配属後に現場に慣れるまでのリードタイムが年々長くなっている傾向もあり、あえて新入社員研修の序盤に本実習を組み込むことにしました。
配属先部店の部店長にも人事の考えを伝え、協力要請をしたうえで、実現するに至りました。「部長にアポイントを取ってインタビューし、着任までに自分に何を学んでもらいたいと期待されているのかを理解する」、「配属部署で取り組んでいる業務の概要を、先輩社員に質問しながら理解してくる。」など、いくつかの『仕事』を課しました。当初私たちが想定していたよりも、配属先の先輩社員が、手厚くサポートをしてくれたことから、新入社員たちも楽しく取り組めたようです。
島袋 御社は150名を超える新入社員を受け入れていますし、ここまで現場と連動した取り組みは、やろうと思ってもなかなかできるものではないように感じます。
髙須賀 そうですね。人事としても初めての取り組みで不安もありましたが、事業本部の研修担当の支援に加え、新入社員を受け入れる配属先部署の部店長が人事の方針を理解し、全面的に協力してくれたおかげで実現できました。
島袋 なるほど、現場も協力的だったのですね。特にうまくいった要因はどこにあると思いますか?
髙須賀 やはり、各部門と、育成体制に関するディスカッションができていたことが大きかったと思います。現場とのレベル感のすり合わせなども含め、半年ほど時間をかけて、会議体等でしっかりと調整を重ねてきた成果が表れたように感じます。初年度と言うことで、正直な話、うまくいかなかった点もあるので、そこは改善に繋げていきたいと考えています。
――「配属先実習」の効果についてはいかがですか?
髙須賀 前年度までと比べて、新入社員研修において大きな変化が見られました。御社にご依頼したビジネスマナー研修での振る舞いや質問の多さもその1つです。例えば、名刺交換や席次、電話応対などのマナーについて、「私の配属先では・・・だが、この場合はどうすれば良いのか」、「このようなシーンでの敬語はどう使えば良いのか?」という具体的な質問があがってきたのです。まさに、現場を体験してきたからこその質問であり、“研修のための研修”から脱却し、職場で使えるための新入社員研修を目指した成果で、大きな収穫でした。
島袋 たしかに、私もビジネスマナー研修に同席しましたが、質問がたくさん出てきたことが印象的でした。髙須賀さんがおっしゃるとおり、「でも、こういう場合はどうしたらいいんだろう」という発言が多く、副次的にプラスの効果が生まれたのではないかと思います。
髙須賀 そうですよね。新入社員研修が、“着任後に職場で使うスキル、知識を学ぶ”機会になったのではないでしょうか。メンターからも「新入社員研修で学んだマナーを実際に試したようだ」、「自分の課題を認識し克服しようとしている姿勢が垣間見られる」といった報告が上がってきています。学生であった新入社員に行動変容を起こさせるキッカケを提供する仕組みを構築できたと感じています。
島袋 個人的には、「配属先実習」を通して「自組織を知る」ことで、組織適応にも少なからず寄与したのではないかと考えています。組織に馴染むうえでは、人脈、すなわち人を知ることが大切です。新入社員研修期間中にその体験ができたこと、また、あたたかく受け入れてくれる職場を見て、安心感も醸成されたのではないかと思います。人事と現場の接続という側面ももちろんのこと、新入社員自身の戦力化にも効果的だったのではないでしょうか。
髙須賀 今年は例年より1週間ほど新入社員研修の期間を短くし、座学を大幅に減らしました。配属先実習の経験と、新入社員研修での学びとを効果的に組み合わせ、「経験学習サイクル」を回すことで、気づきを与えることに焦点をあてました。仮に、それが疑似体験だとしても、如何に「実体験」を増やすか、それが学びに繋がると考えました。コロナ世代と言われ、大学入学と同時に、緊急事態宣言が発出された新入社員も多くいることから、可能な限り、実体験を多く積ませながら育成していくことを意識しました。
ディスカッションパートナーとしての信頼感
――ファーストキャリアが御社に関わらせていただくようになった背景は?
髙須賀 現在は主に1年目研修、3年目研修、メンター制度関連の施策でお世話になっています。御社との取り組みは2023年度よりスタートしましたが、何よりもまず、若年層の育成に対する知見の豊富さに魅力を感じました。
さらに、当社の目指す方針を踏まえ、「目的」から一緒に考え、ディスカッションにお付き合いいただける方針に信頼感を覚えました。御社にて、「ジャーニー」と呼ばれている、若手社員に対する各施策を連動させる仕組み作りなど、研修を点ではなく線で繋げていこうとされる提案が、ありがたいなと感じています。
実際、島袋さんをはじめとする営業担当の方が、私の「壁打ち相手」になってくれているんですよ(笑)。私が思いついた着想に対して、その場ですぐにアイデアや意見を提供してくれるなど、パッケージ化された提案ではない接し方が嬉しいですね。
島袋 そのようにおっしゃっていただき光栄です。当社も、ソリューションありきの提案ではなく、人事のみなさまと一緒に考える姿勢を大切にしています。私自身も、髙須賀さんとの対話のなかで気づかされることが多々あります。ディスカッションパートナーとして選んでいただけたことが、本当に嬉しいですね。
――今後、ファーストキャリアに期待することはありますか?
髙須賀 御社には多くの他社様の取り組み事例でのノウハウが蓄積され、時代とともに変わる若年層の気質の変化など、多くの情報が集まってきていると思いますので、今後もぜひいろいろな知見や示唆を与えていただければと思います。これからも、私たちの考えに対して、時には批判的な視点での指摘や、多角的な視点での提案を引き続きお願いしたいしですし、良きビジネスパートナーであってほしいですね。
島袋 ありがとうございます。当社としても、より組織開発的な観点で、中長期視点でのご提案ができるようになりたいと考えています。組織全体を良くするという目標に向かい、同じ目線で話し合えるパートナーとして認めてもらえるよう、これからも努力していきたいと思います。
社員の挑戦を後押しする人事施策の構築を目指して
――今後の展望を教えてください。
髙須賀 今後、持続的な組織の成長を目指すためには、まさに人材育成が肝になると考えています。グループの統合によりフィールドが大きく広がりましたので、そのメリットを存分に活かしつつ、社員の挑戦を後押しできるような人事施策を講じていくために人事として何が出来るか、それを考え実行していくことが目標になってくると思います。
例えば、本年度より「研修の見える化」にも着手しはじめました。全社員がアクセスできるプラットフォームで、人事部や各事業本部が提供する研修や育成施策を一元管理し、社内イントラで、社員に公開していくことで、自己研鑽のガイド的な機能を担えるサイトとして「育てていく(徐々に情報量をバージョンアップさせていく)」予定です。
そのような取り組みを重ねた結果、数年後には、先程、島袋さんからお話いただいた通り、会社が、どんな成長機会を提供してくれるのか、社員が安心して、自らのキャリアを考え、学びたい研修を受講し、キャリアアップできる環境を作っていければと考えています。自ら学び、チャレンジしていく風土醸成が目下の課題でもありますね。
島袋 まさに個人の挑戦を後押しするということですね。実は当社も、2024年度より「あらゆるチャレンジャーが“らしさ”を発揮する世界をつくる」という新たな事業ビジョンを掲げました。チャレンジをするうえでは、意志が必要です。意志を発揮できる環境づくりは、当社が得意とするオンボーディングの領域にも関連します。なおかつ、昨今注目される「キャリアオンボーディング(成果を出したあとに、どうキャリアを歩んでいくのか)」という観点でも、さまざまな施策が考えられるでしょう。そのようなアイデアも含め、ぜひ今後も情報交換をさせていただけたら幸いです!