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「人を基軸におく経営」とは? 企業起点ではなく、人の成長を起点とした人材育成こそが企業成長ドライバ|ダイキン工業株式会社

研修(階層別・選択型) 育成体系・制度設計支援
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業株式会社は「空気で答えを出す会社」というパーパスを掲げ、170か国以上に事業展開する空調機・化学製品メーカーです。海外での売上高が83%を占め、様々な国・地域の人たちが働く中で、創業時から脈々と培われてきたものが「人を基軸におく経営」という企業文化になります。
特に、新入社員に対する5泊6日の合宿研修には井上会長・十河社長も必ず参加するほど力を入れています。企業の成長を起点とした人材育成ではなく、人が成長するからこそ企業が成長できるという人の成長を起点とした考え方を大切にし、全社を挙げて取り組む人事部の考え方について人事本部人事・労政グループの矢幡透さんと、太田航介さんに話を伺いました。

 


ダイキン工業株式会社 人事本部 人事・労務グループ 矢幡透 様(左)/   太田航介 様(右)

──矢幡さんと太田さんのキャリアについてお聞かせください。


矢幡 1984年の入社で、来年で勤続40年になります。元々、外国語大学でスペイン語を勉強しており、言語を活かしたい、海外での仕事をやってみたいと思い、ダイキン工業に入社しました。配属は人事部となり、労務として社員の入退社に関わる手続きなどを担当することになり、それからずっと人事畑を歩できました。
当時の人事部長であった井上礼之さん(現会長)、直属の先輩で隣に座っていた十河政則さん(現社長)をはじめ、多くの人たちに鍛えられてきました。その後、本格的にグローバル展開するタイミングでアメリカのプロジェクトに人事部として携わり、念願かなってアメリカに行きました。
1993年には、人事部の中に海外人事課が発足し、第1号の社員としてそこに合流しました。その仕事を2007年まで行った後に、今日に至るまで採用・育成を担当するようになりました。
現在は、それに加え情報技術大学というDX人材の社内育成を行う部署の事務局、永年勤続表彰やOB会などの運営にも携わっています。

太田 2020年に入社し、現在3年目になります。人事本部人事・労政・労務グループで、新入社員の研修関係をはじめ、給料計算・入退社に関する手続きを担当しています。

「人を育成することが会社の発展につながる」と考えた教育を現場で実践

──御社の人材育成方針についてお聞かせください。


矢幡 一言で表すと「人を基軸におく経営」1です。経営理念にも掲げていますが、当社で働く一人ひとりの成長なくして企業の発展はないという考えが根底にあります。
一般的に人材を“人財”と言い表したりすることがよくあると思うのですが、当社は「人を基軸におく経営」をベースに本気で取り組んでいます。企業やグループの発展のために人材を育成するというよりも、その手段として、まず人を育成することにより、結果的に企業・グループが発展するという表現が当社には合っていると考えます。

では、どうやって社員を成長させるのかといえば基本はOJTです。当社の社内用語でいうところの「修羅場」、つまり大変な現場を経験させることを徹底してやっています。

当社の場合、新入社員と2年目には決まった研修はありますが、以降の年次別研修はやっていません。各部門で責任を持って育てる体制が、私が入社した時(1984年)から変わらず続いています。そもそも人の育成というのは、各部門が責任をもって行うもので、人事本部が研修を通して行うものではないと考えています。

若手の研修以外は、全員一律ではなく必要な人を選抜して研修を行っています。
全社的に資源・人・資金を集中させているのが、新入社員研修と2年目研修です。その後は、各部門でOJTを行い、大変な現場を徹底して経験することにより成長していくシステムといえます。

太田 配属された先では、基本的に自分から動かないと何も進みません。失敗しても先輩や上司がカバーしてくれる体制は作られていますが、やはり自ら責任を持ち、業務遂行していく環境を若手に与えているところが当社のOJTらしさと言えるのではと考えています。
配属されると、自分が思っていた以上の成果を期待される大変な環境ですが、そこにやりがいがあるのではないでしょうか。

矢幡 当社は、年齢・性別・経験の有無・役職に関わらず「一番この人に任せたい・本人がやりたい・その役割にふさわしいと周りから期待されている人」に業務を任せます。
あえて若手に任せて、周囲はサポートにまわり、その社員の成長を促す文化が根付いているように感じます。

──人を育てることはどの企業でも課題ですが、その手法に試行錯誤されています。御社が工夫していることはどんな点ですか?


矢幡
 基本的な考え方として、「人を育てるのは企業の役割。社員が生き生きとやりがいを持って持てる力を最大限に発揮し、成長してくれる環境作り」が大切だと考えています。

綺麗事に聞こえるかもしれませんが、当社は「性善説」で社員と接しています。人は絶対育つはず、社員自身も自分が成長したいと思っていると信じ、「前向きな失敗であれば次に活かせばいい」という常に前向きな姿勢を大切にしています。

もう一つは、社員本人に納得性を持たせることです。会社の考え方・方針や、上司の思いをしっかり社員本人に伝えることを大切にし、きちんと本人の考えなども聞いて話し合い、納得感を持ってもらうようにしています。
社員本人が自分なりに考え、やりたいことを自ら発信できるような環境づくりをする努力が大切ではないでしょうか。

人を採用するということは、社員・会社双方に責任があります。社員には、当社を選んだ責任が、当社には採用した責任があるはずです。
採用して「外れ」な人がいるという考え方はしません。性善説で人を見て、必ず活躍してくれる人材になると信じ、私たち人事部や上司は社員と接します。それが若手に伝わっているかどうかは分かりませんが、2年目研修ではリテンション(社員を留めるための施策)を意識してやっており、当社の離職率はかなり低いという自負はあります。

新入社員の時期にしか伝えられないことをしっかりと伝える研修を実施

──御社の導入研修の中で、毎年4月前半に行う5泊6日合宿は、会長・社長も必ず参加する一大イベントです。この研修で大切にし、新入社員に伝えていることは?


矢幡
 導入教育では「人を基軸に」という考え方を、真っ白な状態の新入社員だからこそ伝えるようにしています。
社会人になったばかりの新入社員にとって一度感じたり思ったりしたことは、ずっと持ち続けてもらえるものです。だからこそ、新入社員教育にはこだわりがあります。社員に「合宿に参加してよかった」と言ってもらえるよう、合宿研修では自分と向き合うことを大切にします。もちろん、当社がどんな会社なのかという説明もしますが、それ以上に自分と向き合うことに重きを置いています。
会社のこと、ビジネススキル、仕事で成果を出すとはどういうことかなども教え、安心して社員が配属先に行けるようにするのが私たちの役割です。

──太田さんはコロナ禍の期間に入社したため合宿研修を受けていません。今、人事の担当者として新入社員がこの合宿研修を受けているのを見てどう思われますか?


太田
 当社に入社するまでに、社員はそれぞれ自己分析・会社研究などで自分の内面について深く考察してきています。そのうえで、この合宿研修に参加し、同期・先輩など様々な方と交流し、話し合う中で、より深く自分と向き合い、会社のことを理解しているのではないでしょうか。

──御社の採用形式は、技術系・事務系などコース別になっています。その中で配属前に本人の希望は聞いていますか?


矢幡
 導入教育の大きな役割の一つが、ダイキン工業の様々な部署をきちんと紹介することと配属の準備です。
必ず本人の希望を聞き、そのうえで会社の考えなども伝えて話し合い、本人が納得した上で決まります。「必ず希望を聞く」「本人に納得感を持ってもらう」ことにはずっとこだわっています。

──太田さんは、希望通りの配属でしたか?決定までにどんな経緯があったのでしょうか。


太田 
希望とは全然違いました。販売・企画などの部署を希望していましたが、合宿研修を受ける間に今の部署はどうかと声を掛けてもらいました。自分でも、研修を受けているうちに人事の仕事に向いているかもしれないと思いましたし、面談でしっかり話をして納得したからこそ今の部署にいます。
新入社員が初めて関わる社員が私たち人事本部の社員です。新入社員からどう見られるかは意識して接しています。彼らが配属後、仕事にわくわくして頑張って働いていると聞くと、嬉しいですし、もっと輝けるように手助けしていくのが私たちの役目です。

パッケージではない当社に合った研修を一緒に作り上げてくれる存在

──ファーストキャリアが御社に関わらせていただくようになった背景は?


矢幡
 当社もどんどん成長する中で、グローバル化で成果が出てくるのと同時に、優秀な人が入社してきてくれます。入ってくる社員のレベル・質が上がり、自分たちで研修を作っているだけでは優秀な新入社員にそっぽを向かれるという危機感がありました。
そこで、若手の人材教育において知見を持っているファーストキャリアさんと一緒に、「新入社員にダイキンを選んでよかったなと最初に思ってもらう研修を作りたい」と全体の構成などについて相談したのがきっかけです。
そして、2011年から正式に取り引きさせて頂いていて、グループ会社のセルムさんとは創業期からお力添えいただいていて、長期にわたってのお付き合いとなっていますし、ファーストキャリアさんを、「目的を共有する仲間」だと思っています。

──ファーストキャリアが御社に関わることで、どういった効果が生まれていますか?


矢幡
 具体的に研修という形にするにはどうしたらいいかを一緒に考えていただいて、寄り添いながら作り上げてくれます。
ファーストキャリアさんの専門家としての意見や他社の実例を聞きながら、当社に合った研修を作り、実際に研修を行った結果、新入社員の成長という成果につながっています。
回数を重ねるごとにより良いものに変わっていて、私たちでは思いを言語化できない部分を具現化してくれるのでありがたいです。

──ファーストキャリアの良い点、改善してほしい点などを率直にお願いします。


矢幡
 正直、様々な研修会社とのお付き合いもありますが、パッケージ化されていて、「うちには導入しづらいな…」って思うことが多いのですが、ファーストキャリアさんは当社を本当に理解して、いい研修だったと思える内容にする手間を惜しまない所に感謝しています。
これからも、パッケージ化せず柔軟にカスタマイズしていただければと思っています。

太田 私も同じく、ファーストキャリアさんが良いものを作るために一緒に考えてくれる姿勢がとてもいいなと思っています。今後も、一緒により良いものを作るために協力できたらと思っています。

いい意味での伝統や社風を引き継ぐために種火を伝えていきたい



──今後の御社の展望をお願いします。


矢幡 
会社としては2050年に空調機の市場規模が3倍になると言われています。ますますグローバル化が進み、アフリカなどの地域も空調機を使うようになるのは間違いないと考えています。
これまで弊社が事業拡大・成長してきたのは、グローバル化や市場拡大による側面もあったとは思いますが、やはり社員一人ひとりの力があったからこそだと考えています。

──人事部門としての展望はいかがでしょうか?


矢幡 
社員が持っている力を発揮するためには、教育・研修も大きく関係しています。
当社もグローバル化が進み、今後は様々な国・地域の人たちの育成もより重要な課題になってきます。どうやってダイキンの社風や考え方を伝えていくかが大切ですし、伝えていかなければいけないでしょう。
国や地域によって文化が異なり、やり方も違いますが、なにより「人を一番大事にしていく」ことを、どう広げていくかが永遠のテーマだと考えています。
「人を一番大切にしていく」という考え方は、世界でも共通ですし、人事部だけでなく各部門でダイキンの文化を伝えていける人がどんどん出てこないと、会社の成長に追いつきません。
だからこそ、新入社員研修で一番大事なところを伝え続けたいと考えています。私は、これを「種火を作る」ことだと思っています。種火は、常に燃えていなくても消えることはありません。種火をずっと持ち続ければ、何かのタイミングで大きく燃え上がることもあるでしょう。この取り組みを地道に続けていくことが、人事本部に求められることです。
人は人によって磨かれます。知識や勉強も必要ですが、本当に人が育つために人と人との関わりを大切にしていきたいと考えています。

──今後の御社を作っていくのは、太田さんをはじめとする若手世代です。人事本部において、どのように育成に携わっていきたいと考えていますか?


太田 
人事としては、効率よくできるとこは効率化していきたいですし、これまでと変わらずみんなで膝を突き合わせて徹底的に議論するという部分はこれからも残したいです。身軽にしていく部分と、資源を集中していく部分について会社としてしっかり考えていきたいですね。
また、ダイバーシティが叫ばれる中で、多くの国の社員と一緒に働いくために耐えうる制度を整備して、働きやすい環境を整えていきたいとも考えています。
そして、一番大切なことは上司や先輩から受け継いだダイキンの社風や考え方を、いい形で新入社員に伝えていきたいです。

※1:ダイキン工業株式会社ホームページより https://www.daikin.co.jp/corporate/overview/vision/people_centered