新入社員研修でのパーパスの”自分ごと化”を通じて、ボトムアップによるパーパスの浸透を図る|三井金属鉱業株式会社
三井金属鉱業株式会社 経営企画本部 人事部 人材育成担当 穴蔵美帆 様
──まず、穴蔵さんのキャリアについてお聞かせください。
穴蔵 私は専門学校を卒業後、IT系や通信系の企業に派遣社員として勤務し、採用や法務など、コーポレート部門の業務に従事してきました。その後、2020年に三井金属に入社し、人材育成業務に携わっています。業務に従事する中で、専門知識を身につけた上で研修企画や人事施策に携わりたいと思い、通信制の大学で学び、2021年にキャリアコンサルタントの国家資格を取得しました。
現在は新入社員から3年目社員までの若手の育成や、キャリア採用者の研修の企画・運営を担当しています。また、自律的なキャリアを社員一人ひとりに考えてもらうために2021年度に導入した年代別のキャリア開発研修や、自己啓発のための通信教育制度の運営にも携わっています。
毎年4月に新入社員の導入研修を行い、半年後にフォロー研修で再会すると、皆見違えるように成長しています。そうした若手社員の成長に立ち会える仕事に関われることに誇りを感じますし、それが私自身のやりがいになっています。
ジョブ型人事制度に転換し、社員の自律的キャリア形成を目指す
──では、御社の人材育成方針についてお聞かせください。
穴蔵 当社は、将来の予測が非常に困難といわれるVUCAの時代にさらなる発展を遂げるため、変化に対応できる柔軟かつ迅速な経営を行う必要があると考えています。そのため2022年2月に、経営理念である「創造と前進を旨とし、価値ある商品によって社会に貢献し、社業の永続的発展成長を期す」を基に、時代に合わせたパーパスとビジョンを持つことにしました。それに伴い、社員一人ひとりに対して、会社のパーパスに貢献する自分自身の存在意義=マイパーパスを持ってもらい、三井金属グループを通じて社会に貢献して、未来をつくり出していってほしいと考えています。
4月には、人材マネジメントのあり方を従来の年次や年功での管理から、実力重視の配置を可能とする職務役割基準、いわゆるジョブ型の制度へ転換しました。これを機に、従来のように会社から与えられた道を歩んでいくのではなく、社員が自らのキャリアを自律的に形成していくことを目指しています。
──ジョブ型人事制度への転換は社員の皆さんにとっては大きな変化だと思いますが、社内の雰囲気はいかがですか。
穴蔵 年次や年功による管理から実力主義に変わったことで、社員のモチベーションは向上していると感じます。自己申告制度を拡充し、1on1でのキャリア面談を導入したことによって、自律的なキャリアを意識しつつ仕事に臨めるのではないかと考えています。
──育成施策についても見直しをされたのでしょうか。
穴蔵 はい。ジョブ型人事制度への転換に伴い、教育体系の再構築を行いました。これまでの階層別研修を廃止し、社員の職務や役割、キャリアに応じて多様な研修プログラムを自由に受講できるラーニングマネジメントシステム(LMS)を導入しました。社員はオンデマンド型の研修をいつでもどこでも学習することができます。LMSは社員が学びやすくなるだけでなく、上司にとっては部下の学習状況の見える化にも役立ちます。さらに、社内講師による研修をオンデマンド化することで工数の削減にもなるため、教育を提供する部門にとっては利便性の向上につながっています。
なお、若手社員の育成については従来通り、入社後の「導入研修」、半年後の「中間フォロー研修」、入社1年後の「1年目フォロー研修」、同じく「2年目フォロー研修」、「3年目フォロー研修」と、入社後3年間の間に計5回の研修を用意しています。
──若手の育成では、どのようなことを大事にされていますか。
穴蔵 計5回の研修は、スキルのインプットだけでなく、同期と研修を受ける貴重な機会でもあるので、同期同士の絆の醸成を意識したプログラムを提供しています。グループワークでのディスカッションはもちろんのこと、オンライン研修であっても、休憩時間に会話ができるようにしたり、オンライン懇親会などを設けるなどして、同期同士のつながりを取り持つようにしています。
また、年に一度、「若手社員共通研修」を実施しています。入社1年目から3年目までの社員全員で研修を受け、その後にグループワークを行った班でオンライン飲み会をしたり、テーマごとにルームを分けて、共通の趣味を持っている人同士でつながれるような機会を設けています。
こうした機会を設けることで、「部署や年次を超えて仲良くなれた」「異動先に、この研修で知り合った社員がいてすぐになじめた」といった声を聞いています。
マイパーパスをテーマに、新入社員研修を再構築
──ファーストキャリアがお力添えをしている施策についてはいかがでしょうか。
穴蔵 現在、ファーストキャリアさんとは1年目・2年目社員とOJT指導員の研修を共創させていただいています。中でも、2021年度の新入社員研修で初めて実施したプロジェクトワークと、OJT指導員研修との内容の連動に関して、大変なお力添えをいただきました。
新入社員研修でのプロジェクトワークは、研修の全体像の立て直しから行いました。研修の中で行う講義全てを、プロジェクトワークのアウトプットのためのインプットとして組み立て直したのです。学んだ情報を知識・スキルとして定着できるようなアウトプットのテーマから、実際のスケジュールに至るまで、アドバイスをいただきながら再構築しました。
さらに2022年度のプロジェクトワークでは、三井金属のパーパスを理解し、一人ひとりのマイパーパスと行動宣言を考えることをテーマにしました。パーパス導入直後で社員への浸透も十分にできていない中で、まだ業務に携わったことのない新入社員に、このテーマでプロジェクトワークを行うことが適切なのか、社内で議論になりましたが、ファーストキャリアさんのご提案や講師の方からのサポートもあり、無事に大成功を収めることができました。マイパーパスをつくった新入社員は、現在もフォロー研修の中で、マイパーパスの方向性や具体的な行動目標の見直しを行っています。
──新入社員研修が「大成功」となった要因はどこにあったのでしょうか。
穴蔵 講師の方のファシリテーションが良かったのはもちろんのこと、ご自身の経験談を交えて新入社員に訴えかけていただいたことが、「パーパスの自分ごと化」につながったのではないかと思います。パーパスの目的や内容については人事部側でも説明できますが、パーパスを導入した後の本人にとってのメリットや、自分たちがどう行動したらいいのか、といったところまでは人事部にもまだ見えていないところがあったので、その部分は講師の方に助けていただけたと思います。
新入社員の動きと連動したOJT指導員研修にリニューアル
──OJT指導員の研修も、この新しい新入社員研修に合わせて見直しを行ったわけですね。
穴蔵 はい。OJT指導員の研修は、従来は完全に外注していて、内容もスキルのインプットに留まっていました。しかし、若手社員の育成のためにもっと有効に活用してほしいと考え、若手社員の現場とシンクロさせ、組織として一貫した成長支援を行うべく、研修内容を刷新しました。1年目社員の研修と連動させ、「キックオフ研修」、半年後の「フォロー研修」、そして1年目の終了時に行う「まとめ研修」の計3回の研修を提供しています。
研修には、若手社員の課題解決や指導員の悩み解消につながるプログラムを導入しました。また、ファーストキャリアさんからの提案を取り入れ、指導員の育成ノウハウについては、次年度のOJT指導員のキックオフ研修の時に紹介するようにし、ノウハウが次の指導員に受け継がれるようにしました。
研修内容を刷新した結果、受講したOJT指導員からは、「育成のあるべき姿、三井金属ならではの育成の方法、新入社員との信頼構築などについて、行動だけでなく考え方の重要性についても理解できた」という声や、「初めは不安を感じていたが、最近の新入社員の傾向や、研修で作成したパーソナリティシート(ワークシート)を指導員間で共有したことで、活発な情報交換ができたことが大きな自信となった」といった声が上がりました。新入社員だけでなく、OJT指導員自身もこの研修によって、1年を通じて成長できたと感じています。
──OJT指導員の研修に関して、最も変化したところはどんな点でしょうか。
穴蔵 人事部がより積極的に関わるようにしたところです。以前は完全に外注していたこともあり、「新入社員の育成を現場に丸投げされた」という印象を持つOJT指導員が多かったようです。そこで、人事部が3回の研修を用意し、また育成計画書の講師による添削を導入したり、人事部側でも育成に関する質問にアドバイスをするようにしたことで、「本社と一緒に新入社員を育成している気持ちになれた」という感想が聞かれました。
──OJT指導員は、新人との対話を通じてマイパーパスの解像度を高めることを指導の軸においています。
穴蔵 はい。指導員からは「業務もやったことのない新入社員が立てたマイパーパスが本当に使えるのか」という声もありましたが、そこは新入社員としっかりと対話をしてもらい、新入社員がどういう思いを抱いて三井金属に入社してきたのか、そして、どういう目標を持って現場に赴任してきたか、といった思いをくみ取ってほしいと期待しています。
親身になって相談に乗っていただける、信頼できるビジネスパートナー
──貴社ではキャリア採用も積極的に行っていらっしゃいます。改めて伺いますが、貴社が新入社員に求めるのはどのような要素でしょうか。
穴蔵 共通する要素としては、「何でも吸収しよう」という前向きな姿勢が挙げられます。若手の育成に携わっていて常に感じることは、入社前と入社後のギャップの大きさです。就職活動中や内定の段階ではしっかりとした志望動機を持っていたのに、いざ入社してみると、さまざまな理由から、やりたいことができなかったり、なりたい自分になれていないために生じる理想とのギャップに悩む姿をよく目にします。その時に大事になるのが前向きな姿勢です。何事も学びと捉えて前向きに挑戦すれば、きっと将来の自分にとってプラスになるはずです。
──新入社員が入社後に感じるギャップに対しては、どのようなフォローをされていますか。
穴蔵 研修の中では、ファーストキャリアさんからご提案いただいた、捉え方を変える「リフレーミング」や、周囲の人とのコミュニケーションの取り方を考えるといったプログラムを提供しています。また、エンゲージメントサーベイを定期的に行ったり、人事部として定期的な面談を行っています。不安や困ったことがあれば、人事部に相談してもらえるような体制を取り、一人で悩んで休職や離職に至るようなことをできるかぎり防ぐようにしています。
──貴社が感じるファーストキャリアの良い点・改善してほしい点についてお聞かせください。
穴蔵 ファーストキャリアさんには研修の内容だけでなく、若手社員育成の全体像や今後の方向性から、研修の運営に関わる小さな困りごとまで、親身になって相談に乗っていただけるので、とても感謝しています。若手やOJT指導員の育成体系の見直しに関しても、御社からのご提案や、その後の継続的なお力添えがあったからこそ、うまくいっていると感じています。今後も信頼できるビジネスパートナーとして、育成施策を共創していきたいと考えています。
──最後に、今後の展望についてお聞かせください。
穴蔵 まだパーパスを制定したばかりのため、現時点でマイパーパスを持って働いているのは、一年生社員のほかにはまだわずかしかいません。今後2年目、3年目の社員に対しても研修を通じて自分自身の軸を持ってもらい、上の世代にプレッシャーをかけられるくらい、「自分たちはこういう志を持って働いている」と胸を張って言えるような育成をしていきたいと思います。
【担当より一言】営業本部 島袋快仁
三井金属さんは、社員一人ひとりのキャリアや成長を親身になって支援されていると感じます。特に若手社員の期間は、一人ひとりの成長に向けて、背中を押してあげるような施策を用意し、手厚くフォローされています。我々も人事部の皆さんと伴走させていただきながら、若手の皆さんの可能性を広げるお手伝いをしていきたいと考えています。