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2025.01.14
双日シェアードサービス株式会社 田井中様との座談会|人事が発揮すべきリーダーシップとは?
その1つのテーマとして、双日シェアードサービス株式会社の田井中 淳 様をお招きし「人事が発揮していきたいリーダーシップ」について、ご自身の実体験をもとにお話しいただきました。
そこで今回は、本セッションの派生企画として、人事担当のみなさまと田井中様との座談会を実施。セッション内で言及しきれなかった具体的な取り組みや、各社の人材育成の今後に関して意見交換を行いました。今回は座談会当日の様子をサマリーにてお届けします。
【座談会参加者】
- 双日シェアードサービス株式会社 グループ人事サービス部 採用・育成課 田井中 淳 様
- デンカ株式会社 人財戦略部 人財育成推進課 兼 人財戦略部 吉成 範晃 様
- パーソルキャリア株式会社 人事本部 人材マネジメント統括 青木 萌実 様
- (モデレーター)株式会社ファーストキャリア 営業本部 営業部 市場創造チーム マネージャー 石松 大輔
アジェンダ
トークテーマ①|人事と現場の連携
トークテーマ②|若手世代の変化をどう見るか?
トークテーマ③|若手世代への効果的な育成施策とは?
トークテーマ①|人事と現場の連携
現場の施策や意向を丁寧にヒアリングすることが、信頼と更なる情報獲得につながる
石松:先日のセッションでは、双日グループ全体の人事機能を担う立場である田井中さんより、グループ各社の人事とどのような連携を図っていくべきかなどのお話がありました。吉成様、青木様はどのような感想をお持ちですか?
吉成様:当社も事業所やグループ会社がありますが、まずは本社から提供する教育のとりまとめと体系化に着手しています。今後、中期経営計画において掲げている、人財育成体制の強化戦略の一つとして、全社一貫の教育体系の構築というゴールに向け事業所やグループ会社が行っている教育についても連携を図っていく必要があります。双日様もいろいろなグループ会社があるなかで、どのような教育を提供しているのか興味深く感じました。本日はさらにその具体的な内容や、推進の仕方などをお聞きできればと考えています。
青木様:当社も同じく、人事部門と各事業部の育成機能とのやり取りが頻繁に発生する状況です。協力や連携すべき相手が多数存在するなかで、どのようなコミュニケーションが必要かという点がとても参考になりました。本日はみなさんが日々各部門とどんなコミュニケーションを取っているのか、ぜひ勉強させていただければと思います。
田井中様:双日も本社に7つの本部があるのですが、本部ごとに企画業務室があり、たしかに連携という面では気を遣う部分が多々ありますね。「グループ会社への提供研修」という点では、主に2つの種類があります。1つが「グループ全体のガバナンス強化」に関する研修です。そして、もう1つが、ガバナンス強化以外をテーマとした「階層別研修」で、グループ各社の人事施策や現状などを丁寧にヒアリングしたうえで、それに合わせた研修を提供しています。
吉成様:当社の場合は、まずはそこの仕組みから整える必要があるなと感じました。現在、ガバナンスやコンプライアンスに関する研修は共通で実施しているものの、階層別研修については対象やテーマ設定を含めて苦慮しているところです。
田井中様:階層別研修に関しては、はじめは役員から、その後新入社員、部長、課長、次期管理職と、ある種、テーマを設定しやすい階層から体系を作ってきたと聞いており、現在、私は若手・中堅向け研修の拡充に力を入れています。吉成様がおっしゃるテーマ設定への苦慮という点では、特に若手・中堅層は所属会社や職種など、個人の経験量と質によって成長スピードが異なりますから、共通のテーマをどのように置くかが非常に難しいです。ファーストキャリアさんの協力も得ながら、適切なテーマ設定含め、どのようなプログラムにするか、現在も試行錯誤しているところです。
現場とのウェットなコミュニケーションをどう円滑に進めるか
青木様:当社の新入社員研修について、事業部や職種を問わず必要なコンプライアンスや PC設定、ビジネスマナー、会社理解など人事が実施する新人導入研修でおこなっていますが、各職種ごとに求められるスキルの育成は事業部の育成部門に任せています。営業職を中心に、昨今はエンジニア、ITコンサルタント職なども積極的に採用しており、どう間を取って進めていくかが難しいなと感じているところです。
田井中様:当社では、研修内容によって職種でクラスを分けるケースもありますが、そうでないものは合同で進めています。
石松:どう区分けするか、各社で何を共通項として取り扱うか、その調整も難しいのではないかと思います。各グループ会社の人事とは日常的にどのようなコミュニケーションを心がけていますか?
田井中様:例えば、グループ各社の人事が集まる会で情報収集をし、そのうえで、各社に個別に頭出しをするようにしています。その際に、なるべく実施内容を具体化し、かつ、内容に関連する「貴社のAさんがこう話したことに対し、他社の方も共感されて盛り上がっていた」など、懇親会などでグループ各社の受講者から聞いた、ポジティブに受け止めやすくなる現場の生情報を、頭出し前に雑談で伝えておくなど、「イエス」を言いやすい雰囲気づくりに努めています。
青木様:私たちも各事業部との定例ミーティングを実施しているため、非常に興味深いなと感じました。ちなみに定例ミーティングではどのような目的で、話をしているのでしょうか。
田井中様:当社の場合は、年に1回の開催です。次年度の階層別研修に関して、私たちの意図の共有や、各社の成功事例を各社施策のヒントとしていただくための情報共有や意見交換の場としています。そのほかに、年に1回採用に関する情報交換会も実施しており、こちらは各社の前年度の採用状況の共有や、今後の施策に関する説明が中心です。採用関連とテーマが違う会ではありますが、新卒入社した社員が○○だという現場の声があり、採用活動方針を見直しているという話から、育成テーマのヒントを得ることもあります。
あとは、職場環境や同じような年代を集めても、成長段階にばらつきが出てしまう、グループ合同研修を実施するうえでは「どのような人を派遣してほしいか」を丁寧に伝えておかないと、さらにばらつきが出てしまいます。定例のミーティングでは、企画側の意図を伝えることで、施策効果を下げてしまうばらつき問題を解消する狙いも含め、実施しています。
青木様:私たちも事業部側とは良いコミュニケーションが取れているものの、私自身のスキルや経験不足もありコミュニケーションが難しいと感じる場面があります。
石松:そうですよね。各部門との「対話」という面では、吉成様はいかがですか?
吉成様:周囲の協力を得るために、直接的なコミュニケーションを重視し、信頼関係を築くことを目指しています。また、プロジェクトの方向性について理解、共感を得るために、意見交換の場を設け、全員が同じ目標に向かって進むことを確認しています。これにより、他部署や事業所との距離を縮め、より強固な協力体制を構築していきたいと考えています。
田井中様:足繫く通い、話を聞くのは大事ですよね。
吉成様:そうですね。その際もこちらの意図を明確に伝えたうえで、相手の意向をしっかりとヒアリングすることを意識し、丸投げにならないように注意しています。
田井中様:ただ、ヒアリングだけを広くしすぎてしまうと、本来の軸からずれてしまうこともありますよね。ヒアリングでの踏み込み方も大事だと思います。
青木様:同感です。
石松:社内のパワーバランスを含め、最適な進め方には正解がありませんから、なかなか難しい問題ですよね。みなさん同じようなコミュニケーションの苦労があるのだと分かりました。
トークテーマ②|若手世代の変化をどう見るか?
若手世代の「何者かになりたい欲」。その定義や価値観が変化
田井中様:最近、双日人事部メンバーと「若手世代の変化」について話す機会があり、昨今の新入社員たちは、以前ほど海外赴任の志向が高くない可能性を感じているようでした。若手世代のキャリア観や仕事観について、みなさんの感覚はいかがでしょうか?
吉成様:当社の場合は比較的語学力も高く、海外ビジネスへの興味が強い若手社員が多いかもしれません。
石松:個人的な感覚ですが、日系企業への志向性は年々低くなっているような気がします。多くの理由が「お金を稼ぎたいから」。お金がなければ何もできない、という恐怖心を抱きがちな世代なのではないでしょうか。
青木様:若手世代の志向はたしかに変化していると思います。大きく2つあり、1つが 新人研修時点では失敗したくないからか、自ら率先して行動する人は多くないという印象を受けています。
もう1つが「配属への不安の強さ」です。実際に新入社員と会話をしていると、「なぜこの事業部に配属されたのか」意味を聞かれるケースがとても増えました。配属に対する納得感を求める傾向が顕著ですね。
石松:おそらくですが、「何者かになりたい欲」が強い若手人材が多いのではないかと思います。
青木様:そうですよね。もちろん以前から「何者かになりたい欲」は多くの人が持っていたと思いますが、かつては「何者か」の定義がわりと明確だったように感じます。例えば「この会社でどんどん上のポジションに就きたい」などです。ただ、だんだんと「何者か」の選択肢が増えていって、自分のなかでの定義が不明瞭になっていってしまった。言葉の中身に関して、価値観の変化があるのではと思っています。
石松:そういう意味では、今後数年でまた価値観が変化していく可能性がありますよね。裏を返せば、「曖昧性の高い」人材の採用や育成が求められるということかもしれません。
トークテーマ③|若手世代への効果的な育成施策とは?
研修の成果を高める肝は、最初と最後の『場づくり』
石松:多様化する若手世代の価値観を踏まえ、まずは25卒の新入社員に向けた施策について、みなさんで意見交換できたらと思います。
青木様:まず、新入社員研修に関してはファーストキャリアさんの協力のもと「自ら考え行動する」をテーマに実施する予定です。そのために、ビジネススキルやビジネスマナーなどを、実際に行動に移すレベルまでを目標としたプログラム設計を検討しています。
吉成様:当社でも「自ら考えて行動させる」点を重視しつつ、今年度から“意識転換”教育の内容を刷新しました。具体的には、組織内での役割を明確にし、効率的に成長するためにどのようなことを意識し実践すればよいかなどを伝えています。また、次年度に関してはオンボーディングも見据えてセルフマネジメントの要素も絡めるなど、骨子は従来から大きく変えず、今の新入社員たちにより響くような手法を盛り込みたいと考えています。
田井中様:当社も内容は例年と大きく変えず、グループ合同研修では「社会人/商社パーソンとしてのマインドセット」を主テーマに据えています。具体的には「最適解を出す重要性」「信頼貯金の大切さ」「市場や政治へのアンテナなど、商社パーソンとしての情報感度を高めること」を要素に入れる予定です。ほかにも、早期からのデジタル人材育成の文脈で、ロジカルシンキング×PCスキルという研修に取り組んでみたいと考えています。
新入社員施策で他に大事にしているのは、研修全体で、事務局がどういうメッセージングをするかです。特に商社の場合は、対人関係における気持ち良さは必須だと考えています。ですから、「準備されていることが当たり前ではなく、準備してくれた人がいるなど、当たり前のことを当たり前と流さず、背景を捉える」というマインドを醸成したいと考えており、それが商社という立ち位置で新たなことを生める人の特徴のひとつではないかと考えています。
本年度の新入社員研修では、非常にあたり前のことですが、挨拶がなぜ商社パーソンにとって重要な行為なのかを伝え、学生生活では挨拶し慣れていない子もいるので、できたら褒め、挨拶しやすい環境を作り、重要性を体感させることを徹底しました。具体的には、「みなさんの挨拶という当たり前で、かつ非常に簡単な行為だけで、外部講師の方が、良い意味で、例年との違い、他社新人との違いを感じている」といったことを伝えるようにしました。
石松:昨今の若手育成で、「褒める」は1つのキーワードかと思います。褒めることや承認することに対し、みなさんの会社で特徴的な取り組みはありますか?
吉成様:当社では、研修中のフィードバックにおいて、人事担当によって異なるメッセージが発信されないよう、グランドルールを設定しています。挨拶や反応などについて、一貫性を保つための基準を設け、それに基づいて適切なフィードバックを行うことを意識しています。これにより、共通の基準を守ることで、良い点も悪い点も含めてレベル感の統一を図っています。
青木様:当社もフィードバックを推奨する文化 があり、承認を大切にしています。私自身は受講者との年齢も近いため、1人の先輩としてほめる・フィードバックするという距離感を意識していますね。一方で、個人的に厳しいフィードバックが苦手なことが悩みです。
吉成様:『北風と太陽』の話に例えると、あえて誰かが“北風”の役割を演じることが大事かもしれません。意図的に役割を設定し、その上で事実を客観的に伝えることが効果的かもしれないですね。
石松:たしかに役割分担は重要ですね。人事部内でチーム組成をしていくとよいかもしれません。
吉成様:あとは、どんな場面でもその場で伝えることですね。「あのときは〜」という伝え方では、どうしても今さら感が出てしまいます。
田井中様:私は褒めるのも叱るのも「全体で」を心がけています。褒めるときは、全体で“個別に”行います。一方で、叱る際は全体で“全体に”実施します。「こういう人がいたけれど、お客様からはどう見えると思う?」「気づいている人たちはなぜそれを言わないのか?なぜ同期の成長に手を貸したくないのか?」といったアプローチが一例です。人事がフィードバックするでは行き届かないところもあるので、同期同士でフィードバックし合う基盤を早期に創れると良いと考えており、新人研修期間の初期は、研修終了後に時間の許す範囲で、受講者同士のフィードバックを必ず実施するようにしています。
吉成様:研修時間は限られていますが、ラップアップでフィードバックの時間を取ることができると良いですよね。これにより、参加者が学んだことを振り返り、理解を深める機会を持つことができますからね。
石松:本当に、セットアップとラップアップはとても重要だと思います。研修を運営する側にはまさに「場づくり」が求められており、そのためには最初と最後の時間を、いかに受講者にとっての学びや気づきにつなげるかが大切ですよね。
人事×データ活用の観点で考える人材育成のこれから
石松:昨今の若手世代の間では、短編のストーリー動画である「ショートドラマ」が盛り上がっているという話も聞きます。1〜2分のドラマに情報が凝縮されているのですが、世の中全体の傾向として、1日かけて1つの情報を伝えることがイレギュラーになってきているのかもしれません。ですから、研修においても凝縮できる部分を考えることで、場づくりの時間をもっと増やせるのではないかと思います。
田井中様:そうですよね。特にビジネスマナーやPCスキルなどは、事前に情報を提供して学習してもらうなど、ある一定のレベルまで到達させておく工夫もできるかと思います。研修はあくまでも「アウトプット」の場というイメージですね。
青木様:当社でも、各テーマの習熟度合いに応じて、「集合研修」「オンライン研修」「eラーニング」などの手法を組み合わせていく方法を検討しています。また、実際の評価と360度サーベイの結果をかけ合わせ、そのデータに合わせて研修を設計するなど、すべて内製のシステムで進めているところです。
吉成様:私たちも、eラーニングと対面の研修を組み合わせたハイブリッドな研修を実施し、集まることの醍醐味を活かしたコンテンツを提供したいと考えています。インプットはeラーニングで行い、効果的な学習体験を目指しています。
田井中様:お二方とも、システムやデータを活用した施策を進めているのですね。当社では「研修への動機づけ」が直近の課題になっています。メールなどで案内をしても、そもそも必要な情報にたどり着かないケースや何をやるか?だけが読まれ、動機づけがうまくいかないこともあり、アクセスが容易で、一目見て動機づけられる仕組みを作る、システムを導入する必要があると感じています。
石松:とある会社では、書面だけでなく研修の予告CM的なショート動画も制作して展開しているそうですよ。結果、「この講師の人は面白そうだな」という基準で受講する人もいたりと、目の付けどころを変えることで研修参加に対する動機づけにもつながったようです。
また、昨今の特性を踏まえ、シラバスを動画に変更する方法なども注目されていますね。そうすることで、人事側としては再生回数などのデータも取得できるようになります。一次情報としてデータを取り、それをもとに現場にヒアリングを行うなど、データ活用とこれからの人事は切っても切り離せないものだと考えています。
研修における効果測定はなかなか難しいものがありますが、例えばマーケティングの観点を育成の場に持ち込んだり、データを活用したりすることで、いくつものファクトを収集できるようになります。ぜひ今後も人事のみなさまと一緒に、新しい育成の在り方ややり方を考えていけたら嬉しいですね。 最後に、お一人ずつ本日の座談会の感想をいただけますでしょうか。
田井中様:今後の施策や自分が取り組みたい事柄を改めて言語化でき、大変有意義でした。システム、データの活用など、各グループ会社と相談しながら進めていきたいと思います。
吉成様:お二人とも、今の状況をさらに良くしていこうという思いを共有できたことが嬉しかったです。たくさんのヒントをいただきましたので、反映できるものから順次取り組んでいきたいと思います。
青木様:ちょうど次年度の企画を起案するタイミングでしたので、たくさんヒントをいただきましたし、考えが至っていない点に気づくことができました。動機づけやデータ活用の方法などに関しても、ぜひ今後も情報交換をさせていただけたら嬉しいです。
――ご参加いただき誠にありがとうございました。