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CONVERSATION

2024.03.26

森永乳業様との座談会|キャリア自律に向けた支援施策のリアルと対策

森永乳業様との座談会|キャリア自律に向けた支援施策のリアルと対策
株式会社ファーストキャリアは、2023年10月に開催した「若手人材育成フォーラム 2023」にて、森永乳業株式会社様に登壇いただき「キャリア自律にむけた制度整備プロセスと社員と企業のつながりとは」というテーマでお話いただきました。
本フォーラムを受け、2023年11月30日に森永乳業様との座談会を開催いたしました。今回は座談会当日の様子をサマリーにてお届けいたします。

■座談会参加企業(順不同)
森永乳業株式会社 / 三井金属ユアソフト株式会社 / 三井金属鉱業株式会社 / パーソルキャリア株式会社 / 株式会社ファーストキャリア(モデレーター)

■森永乳業様の取り組み
・「挑戦」「貢献」「成長」の3つの観点から、自己決定型のキャリア自律を支援
・社員に対し、キャリアに関する理解を深めるための動画を配信
・新卒10年目社員、および30代前半の中途入社社員を対象に「キャリア開発研修」を実施

現場でのキャリアプラン形成を促す方法について

三井金属ユアソフト:当社内でエンゲージメントサーベイを行った結果、「キャリアプランについて上司と有意義な会話ができている」という項目の数値が低いという特徴がありました。昇進なども含め、各自がどのようにキャリアプランを形成すべきか、アイデアがあれば教えてください。

森永乳業:当社でもエンゲージメントサーベイを行っているのですが、「上司との関係性は良いが、キャリアプランの相談はできない」という特徴が表れています。御社において、“上司との関係性”が起因して有意義な会話ができないということでしたら、対話の機会を増やすなど、ざっくばらんにコミュニケーションを取れる場を用意する必要があるかもしれません。
一方で、関係構築ができているものの、“キャリアプランの話ができない”状態が問題だということでしたら、まずは昨今の若手社員のキャリアプランが多様であることを上司側に理解してもらうことが有効なのではないでしょうか。当社でも、部門別のキャリアプランなど具体的な事例をいくつか提示し、上司と部下がキャリアについて対話をしやすくなるような取り組みを進めたいと考えています。

三井金属ユアソフト:なるほど。そのためには、管理職自身のキャリアをたな卸しする経験が必要かもしれませんね。自ら考えを深めることで、下のメンバーにもキャリアプランニングの重要性を伝えられると思います。

森永乳業:当社の場合は、以前より新たに評価者になった社員向けに「評価者研修」を実施していましたが、昨年内容をリニューアルしました。2日間研修の2日目に、上司自身のキャリアを考えるプログラムを追加したのです。結果、キャリアを考える大切さや難しさを身をもって体感していただくことができ、有意義な時間となったようでした。今後は、より上層となるの2次評価者や組織長にも、ナレッジや好事例の共有を通して「キャリア自律支援」の有効性を理解してもらう必要があると考えています。
また、「キャリア」という言葉の定義が、上司と部下によって異なることも問題だと捉えています。たとえば、若手社員でも「キャリア=昇格、異動」という定義で考える社員もいます。同時に、上司同士でも解釈が異なるケースがあり、そこがかみ合わないままコミュニケーションを取っても、お互い納得できないままでしょう。今後はもっと細かいレベルでのキャリア研修やセミナーを行いつつ、キャリアに対する考え方を浸透させていく必要があると考えています。

三井金属ユアソフト:「キャリア」に関する根本的な課題は、ロールモデルの有無などといった単純な話ではなく、上司と部下がきちんとコミュニケーションを取れていないことが影響している可能性があります。具体的には、上司と部下の間で「あなたの役割はこうだよ」「この仕事の先にこういうキャリアがあるんだよ」といった対話が不足しているのではないでしょうか。

森永乳業:キャリア開発研修のなかで、よく「will」「can」「must」のフレームが用いられますが、今のお話ですと、上司と部下で共通の「must」を描けているかどうかがポイントかもしれないですね。キャリアという言葉とともに、各自の「will」「can」「must」についても日常的に話す機会を作らなければいけないのではないでしょうか。
ただ、そのうえでは、多忙な現場の上司の負担を増やさずに、いかにキャリア支援にも関与してもらうかを考える必要がありますね。

三井金属ユアソフト:そうですね。なおかつ、1人のマネージャーに対する部下の人数が多いことも課題だと思います。

森永乳業:当社の工場は24時間稼働のためシフト制を導入しており、シフトが合わずに物理的に面談ができないような環境が生じることもあります。そこで、半期の評価は管理職(一次評価者)が行いますが、定期的なPDCA面談などは「職場責任者」という1つ下の階層のメンバーに行ってもらうようにしています。
人事評価制度においても、職場責任者の働きぶりが評価される仕組みを取り入れていますし、一次評価者に対しても後進育成を意識するきっかけを作れていると感じます。
また、先ほどお話しした評価者研修も、職場責任者の方にも参加してもらっているため、本来のマネジメント職になる前に組織のマネジメントの体験ができるような工夫をしています。

三井金属鉱業:当社も同じく製造業で工場勤務者が多く、たたき上げの監督職がプロパーの20代から40代の社員全員を見ているような状況です。目の前にある仕事にひたむきに向き合いながら現在の地位まで上がってきたので、自律的なキャリアと言われても、どうすればいいのかがわからないという声が多くありますね。
そのような状況で、いかに部下に技能を受け継いでいくかという観点にシフトチェンジしてもらうようなアプローチを行っています。ただ、ベテランの社員にとって、部下に技能を受け継ぐと、自分の仕事がなくなってしまうのではないかという危機感もあるようです。

ファーストキャリア:みなさんのお話を聞いていると、今の評価者世代の方々は、業務外のコミュニケーションが充実していた時代を過ごしてきたのではないかと思います。ところが昨今の働き方改革により、業務時間内ですべきことが増え、上司と部下の関係性にも変化が生まれました。今のマネージャーやシニアの方々には、ご自身が技術を伝承してもらったときの原体験を振り返ってもらい、不安感とは別のところをくすぐるようなアプローチが有効だと考えます。ご自身の価値観を言語化したうえで、「実は自分もこういうところを大切にしてきたんだよ」といった対話を、部下とできればいいですよね。

三井金属ユアソフト:ご自身にとって“かっこよかった先輩”を思い出してもらって、自分が理想の姿に近付いているのかを考えてもらったりしてもいいですね。あとは別軸で、長年会社に貢献していただいた方に対しては、“感情報酬”など何かしらのメリットを提示しないといけないかと思っています。

森永乳業:当社も役職定年制度があり、ある程度の役職に達すると報酬が上がらない仕組みですが、報酬以外の部分でエンゲージメントを感じてもらう必要があると考えています。だからこそ、感情のところに焦点を当てるのは大切ですよね。これまで培ってきたスキルや「will」の部分を引き出しながら、これからもやりがい感じながら仕事をしていくためにはどうすればよいかを検討してもらうことが有効なのではないでしょうか。

キャリア研修受講後のフォロー施策について

三井金属鉱業:当社ではキャリア研修受講後に、現場での実践の際にうまくいかなかったときの相談機関として、社外のキャリアコンサルタントに自由に相談できる制度を導入していました。ところが、利用する社員が年に1〜2人しかおらず、昨年で打ち切りとなりました。キャリア研修受講後のフォロー施策について、良い事例があれば知りたいと考えています。

 森永乳業:アフターフォローというわけではありませんが、キャリア研修において部下がキャリアの考え方について学び、職場で活用していこうとなった際に、上司も同じ熱量で支援できるマインドセットができていないと意味がないと考えています。そこで、当社ではキャリア研修と同時期に人事メンバーが全国を回り、「部下の育成やキャリア支援」をテーマに、一次評価者と対話をする機会を設けました。さまざまな階層の社員が一斉にキャリアを自律的に考える、支援するというスタートラインに立てたことが良かったと思っています。
今は、その効果測定をどう行うかが課題ですね。当社のキャリア自律支援施策のゴールは「会社への貢献につなげる」ことですが、それをどのような指標で測るか検討している最中です。

パーソルキャリア:当社では特に若手社員向けのフォローアップ施策として、研修終了後の3か月間、その研修のチームで定期的にミーティングを組むように促しています。アクションプランを設定したものの現実感がなかったり、上司の支援がなくて実行できなかったりといったことが頻発していますので、そこを微調整するような時間を必ず確保してもらうような運用を行っていますね。
ちなみに三井金属鉱業さんのお話で、キャリアコンサルタントとの相談を希望する社員が少なかったとのことですが、その理由はどのように捉えていますか?

三井金属鉱業:1つが、自身の業務内容を知らない社外の人に対して、相談することへのハードルが高かったことが挙げられると思います。そしてもう1つ、周りの人たちが仕事をしている中で、業務時間中に面談を受けることへの抵抗もあったのではないかと考えています。

パーソルキャリア:当社も似たような施策を実施していますが、特にキャリアの相談に関しては社内のイントラサイトに相談窓口を設けて、人事部門が受け付けるようにしています。
他にも、「メンター制度」の定着に力を入れています。直接利害関係はないものの、仕事の内容が近い社員をメンターとしてアサインし、半年間1on1を行うなかで、仕事やキャリアの相談を壁打ちしたり、関係者とのハブになってもらったりすることを目的とした制度です。まさにクロスメンターのようなイメージで、メンティ側が希望条件を出し、それに合う人を人事側でマッチングしています。利用率はまだそこまで高くはありませんが、業務内容を分かってもらえる人に相談できるため、制度を利用するハードルは下がるのではないかと思います。

 座談会を通して

森永乳業:当社の場合、入社時から配属や仕事内容の希望を挙げる人も多いのですが、自分の希望の配属先ではなかったとしても、そこで自身の「can」を広げれば、次のステップのまた違うキャリアの道につながる可能性があることを伝える必要があると感じました。「can」が大きくなれば、「will」も大きくなるというような伝え方もいいですね。
また、当社も新卒10年目の社員に対してキャリア自律の施策を行っていますが、上司も含めてみながそれぞれのキャリアをしっかりと描ければ、もっと幸せに働ける会社になると思います。そのような状態を作れるよう、人事として関わっていきたいですね。

三井金属ユアソフト:たとえば、若手社員の配属部署が希望していたところと違った場合、ポジティブに変換して「まずは目の前の仕事を頑張ろう。そうしたらこんなスキルが身に付くし、そのスキルをいずれ希望部署に持っていけば、もっとたくさんの力が発揮できるようになる」――そんな説明をできる上司が少ないことが課題だと思っています。部下のキャリアを想像したうえで、きちんと導ける人をいかに増やしていくかが今後の課題ですね。
また、現在は新入社員フォロー施策の1つとして、今年入った新入社員にブログを書いてもらっています。いま行っている仕事は誰にどんな影響があるかを書いてもらい、それをアウトプットするイメージです。その文章を見ると、とてもしっかりしたことが書いてあって、ちゃんと理解しながら仕事をしているのだということに気づきました。ですので、何かしらアウトプットできる仕組みがあれば、キャリア観の醸成にもつながるのかなと感じています。

パーソルキャリア:研修などで伝えても伝わらなかったり、腹落ちしなかったりしたときに、やはりキャリアに関する「対話」が何よりも大切なのだと感じました。人によってキャリア観が違うのは当たり前ですし、それでよいと思っていますので、今後もいろいろな人のキャリア観に触れる機会を人事として作っていければと思います。

三井金属鉱業:日々若手人材の育成に携わっていますが、自己効力感や自己肯定感が低い社員が多いなという印象を受けます。現場のOJT担当者や指導者には「成功体験を積ませてあげてください」と伝えつづけていますが、そのような成功体験の積み重ねが自己効力感や自己肯定感を高め、ひいては今後のキャリアを考えることにもつながるのではないかと考えます。

ファーストキャリア:みなさんのお話を伺って、キャリアを考えてほしい層をミクロで捉えるのではなく、周りの方々への施策や制度なども含めてマクロに見ていく必要があるのだなと気づきました。特に重要なのが「will、can、must」などのアウトプットで、研修のみならず、日常の対話や面談に取り入れることで、キャリア自律を促す契機になることを実感しました。本日のディスカッション内容を、ぜひ今後の育成体系づくりや研修設計にお役立ていただければ幸いです。

本日はありがとうございました。