株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
ファーストキャリア
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INTERVIEWインタビュー

TEX in 北海道下川町

予想の斜め上をいく企画を試行し、地域の可能性を拡大

ビジョナリーリーダー
『リーダーズ・キャリア・サミット-TEX』は、企業人と学生が日本の様々な地域のビジョナリーリーダーたちと共に、地域の社会課題に向き合い切磋琢磨することを通じて、影響を及ぼしあう越境学習プログラムです。

今回は、2022年度リーダーズ・キャリア・サミット-TEX(True EXperience) in下川で受け入れを担当したNPO法人森の生活代表 麻生翼さんと下川町産業活性化支援機構の移住コーディネーターを務める立花祐美子さんに、TEXでの取り組み内容やTEXを経た後の変化などについて聞きました。
PROFILE
NPO法人森の生活

代表 麻生翼

愛知県名古屋市出身。北海道大学で学んだ後に、関西の農業系企業に就職。2010年に北海道へ移住し、「森の生活」に参画。2013年に代表理事に就任。2022年度リーダーズ・キャリア・サミットTEX(True EXperience) in下川の受け入れを担当。

下川町産業活性化支援機構

移住コーディネーター 立花祐美子

北海道出身。道内各地でいくつかの仕事を経て、結婚を機に下川町に移住。下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部で移住コーディネーターとして活動。麻生とともに、TEXの受け入れを担当。

「新たな扉」を開けば、「新たな世界」が広がっている

TEXを受け入れた背景を教えてください。

麻生:私は「森の生活」というNPO法人の代表をしています。森林環境教育や市民参加の森の場づくりなどを軸に事業を展開し、最近では自然を生かして地域経済の発展に寄与する事業づくりにも挑戦しています。TEXでは下川という地域を題材にして、自然を活かした新たな事業アイデアに繋げていきたいと考えました。

下川の地域の素材や可能性を活かし、「こういう事業があるのではないか」という企画に繋げていければと思いました。地域を題材にする場合に一緒にタッグを組みたいと思ったのが、下川町産業活性化支援機構で移住コーディネーターをしている立花祐美子さんです。地域とのつなぎ役や行政との橋渡し役をしており、町外プロモーションイベントなどでご一緒してきました。

立花:私は北海道で生まれ育ち、結婚を機に下川町へ移住しました。移住者のお手伝いや町内企業とのマッチング、タウンプロモーションとして街の情報発信を続けています。TEXは、麻生さんと同様に地域に還元できる活動としていきたいと考えて、取り組みました。

麻生:ただ、声をかけていただいた時、オンラインでどこまで理解してもらえるだろうという不安もありました。「来てくれてたらもっと理解してもらえるかも」という歯痒さを感じることもありましたが、今振り返ると、来ていただけたら、それだけで伝え切ったような気になってしまったかもしれません。

新しい扉を開けてみようと腹を括ると、「オンラインでどうやったら地域のことを知ってもらえるのか」という発想に変わっていきました。「取り組んだことのないお題をもらった」という期待と少しの不安がありましたが、終わってみれば、「ここまでできるんだ!」という新たな気づきをいただいた体験になりました。新たな扉を開けば、新しい世界が広がっていると実感できました。

変人を増やす」のキーワードを軸に企画を練る

TEXはどのように進んでいきましたか。

麻生:前半は「下川町のことをみんなで知る」ということに注力し、参加者の方に調べてもらうだけでなく、多様なゲストに話をしてもらいました。これにより、下川の人がすごくユニークでおもしろいということを感じてもらえたようでした。

立花:後半に切り替わる際にはキー・コンセプトを見つけて、3つの企画に絞ることとしました。参加者が話し合って定めたキー・コンセプトは、「変人を増やす」。下川町にはユニークな人が多いので、私たちの中でも「変人」は褒め言葉だったんです。変人とは、「こだわりをもって、自分のやりたいことにガッと突き進んでいく」といった人たちという意味合いです。そういった人たちへ魅力を感じてくださったことはとても嬉しかったです。

麻生:私たちの間でも下川を表現する時に出てくるワードだったので、「よく気づいてくれた!」「そこにフォーカスを当ててくれてありがたい」と印象に残りました。

各チームからどのような企画提案がなされましたか。

麻生:3チームから、それぞれ企画提案が行われました。1つ目は、オンラインイベント企画「好きな事をしながら生きる秘訣in下川町」の実施です。これまでもイベント企画はありましたが、あくまでストレートに下川町の魅力を伝えるテーマでした。しかし、このイベントは下川を前面に出すのではなく、「好きに気づく」や「好きなことを軸に生きていく」ことを主題にしています。下川のことを知らない人が、イベントテーマに惹かれて結果的にこの地域のことを知ってもらうということを狙いました。そして、実際にそういった効果を生むことができました。下川で生きる「変人」の魅力に気づいてくれたからこそ、こうした企画を実現していくことができたと思っています。

立花:私たちがやりたい移住PRを、広がりあるテーマを据えて実現してくれたと思いました。TEXの参加者の方がハブになってくれたことで、可能性を拡大できたと感じています。

麻生:二つ目のチームからは、メタバースの活用提案をいただきました。メタバース空間に「ONE SHIMOKAWA」というバーチャル下川町を作り、そこを色々な人が訪れて交流することを構想してくださいました。これまで下川に縁が合った人や「TEX in下川」の参加者などが集える仕組みを構想したのです。さらに、リアルな祭りが開催される際には、その空間でも開催されるようにしてはどうかといった提案がなされました。また、下川に関心がある方の相談に乗れるような仕組みもメタバース空間に持たせてはどうかという案もあがっていました。

この企画を観光協会で話をしたところ、とても興味をもってもらいました。

立花:私は「木を食べる」というテーマに取り組んだチームがおもしろいと思いました。豊かな自然があるので、「木を使って何かする」という企画は考えたことはあったのですが、「木を食べる」という発想には驚きました。これまで私たちが考えてきたことのない、斜め上をいく提案だと感じたんです。まず、「木は食べられるの?」というところからプロジェクトがスタートしましたよね。

麻生:国内では食用の「杉パウダー」は販売されていますが、下川には杉はないので、この土地に合った「食木」はないかという模索が続きました。最終的には、木を食事に活用する「ウッドプランク」の企画に帰結しました。例えば、サクラのプランクにサーモンをのせてグリルにする、ナラのプランクに鶏肉をのせてオーブンに入れるなど、各々の木の香りが食材に移る実験をして、木材の活用提案をしてくださいました。パウダーの可能性を探ったことも、ウッドプランクについて実験し企画にまとめてくださったことも、地域の可能性を拡大するとても重要な挑戦だったと感謝しています。

関係人口を増やす新たな挑戦につながる

地域とって、TEXはどのような機会になりましたか。

立花:色々な事業の種をもらったと感じています。いつかこの種から芽が出て花が咲いていくだろうという可能性を感じています。

麻生:リソースも時間も足りていないので、「やれたらいいな」「やったらおもしろいだろう」と思っても、試せないことが多いんです。普段は、緊急性が高くて重要な仕事から対応していきますからね。TEXでは、参加者の方々の力を借りて、「1回試してみたら、どういう世界が見えるんだろう」と模索する機会となりました。試してみなければわからないことはたくさんありますから、この挑戦は地域の可能性を広げ得る挑戦であったと感じています。

立花:最終的に提案いただいた3案だけでなく、前半パートで拡散的に話し合った中にも下川の素材を使ったとても彩り豊かなアイデアがありました。個人的には、参加者のみなさんが一生懸命考えたアイデアなので、これらも全部挑戦に繋げていきたいなと思っていたんです。ブラッシュアップしたら、ひとつひとつに実現可能性があるかもしれません。全部メモで残しているので、できることがあったらどんどんやりたいですし、試すときには参加者の方々に声をかけさせてもらいたいと思っています。

麻生:TEXに参加する方々は意識も高く意欲もあります。真剣に取り組んでくださる方々と一緒に、オンラインでどこまでできるのかを試せるのはすごく良い経験になると思います。特に下川のようにアクセスの悪い、首都圏から遠い地域にとって、関係人口を増やしていく有意義なチャレンジになるのではないでしょうか。

お二人にとって、TEXはどのような機会になりましたか。

立花:「下川町」という大きなテーマで、地域内外のメンバーと真剣に考えられたことはとても貴重な時間でした。改めて立ち止まって、参加者が作るプロジェクトと私達が持っているものとをどう掛け合わせていくとよいかを考える機会になりました。定期的にこういう可能性を探るような対話ができたらいいなと思っています。

麻生:協働する際に「どうやったら相手が自分事化してプロジェクトを進めていけるのか」は私にとってずっと頭の片隅にあったテーマでした。自分が前のめりになると関わる人の主体性を奪ってしまい、一方で相手に自分事になってもらおうと託し過ぎると放置したような状態になってしまう。そんな、さじ加減の難しさに苦手意識があったのです。

TEXを通じて、協働する人に楽しんで前のめりに取り組んでもらおうと思ったら、自分も夢中になる必要があるということを学びました。TEXの最終日、メンバーからの「麻生さんと立花さんが一緒に真剣に考えてくれたから、それを超えようと思った」「驚くようなことをしようという気持ちになった」といった言葉を聞き、そうした学びを得ることができました。

TEX参加者にはどのような学びがあったと感じましたか。

立花:職場も違う、学校も違う、立場も違うといった、全く接点のない人たちが集まってこういったプログラムに取り込むことは、企業内での仕事に閉じていては得難い経験ですよね。新しい自分にもなれると思いますし、逆にいうと、見知った仲ではないので甘えも許されない。こうした環境に飛び込むと、大きく成長する機会があると思います。私自身も若いうちにこうした機会を経験したかったと思いました。TEXは、本当にすごく良い機会なので、どんどん活用してほしいと思いました。

麻生:リアルな地域の人を掘り下げて、胸の中に秘めたものから課題解決に向かう企画までを考えていくことはとても本質的なことですよね。TEXは、会社を飛び出して、自分で知りたい人や体験したい人にとってはとても恵まれたプログラムだと感じました。参加しない手はないと思いますよ。

取材日|2023年4月3日