株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
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INTERVIEWインタビュー

TEX in愛知県稲武

地域の人と直接つながる「越境」体験による成長を実感

ビジョナリーリーダー
『リーダーズ・キャリア・サミット-TEX』は、企業人と学生が日本の様々な地域のビジョナリーリーダーたちと共に、地域の社会課題に向き合い切磋琢磨することを通じて、影響を及ぼしあう越境学習プログラムです。

今回は、2022年度リーダーズ・キャリア・サミット-TEX(True EXperience) in稲武で受け入れを担当したトヨタケ工業株式会社代表取締役社長 横田幸史朗さんに、TEXでの体験やその後の変化などについて聞きました。
PROFILE
トヨタケ工業株式会社

代表取締役社長 横田幸史朗

愛知県名古屋市出身。2015年から家業であるトヨタケ工業株式会社の代表取締役社長に就任。加えて、自社ブランドの開発や地域活性化のための「OPEN INABU」の実行委員長として新たな挑戦を続ける。2022年度リーダーズ・キャリア・サミットTEX(True EXperience) in稲武の受け入れを担当。

稲武という地域に関わる人を増やしたい

TEXを受け入れた背景を教えてください。

TEXの話を聞いた時に、地域の人口問題に取り組みたいと考えました。愛知県稲武町は中山間地域で地区全体が過疎高齢化に直面しています。私は、この土地で祖父の代から続く自動車の内装用シートカバーの製造を担うトヨタケ工業株式会社の3代目を継承しました。地域の高齢化同様、私が社長になった2015年頃は社員のほとんどが中高年で、10年後には半分以上の従業員が60歳を超えることが明らかでした。地域から出ていく人はいても、移り住んでくる人はいない。会社の人手不足に手を打っていこうとするならば、一緒に地域の課題に取り組む必要があったのです。

そこで、一つの企業に止まらず、移住を促すために「OPEN INABU」をスタートさせました。関係人口や労働人口を増やせないかと試行錯誤する中で、トヨタケ工業で週3日働き、週2日は稲武の自然の中をマウンテンバイクで疾走できるツアーガイドの仕事をするという新たな働き方を打ち出します。これが注目を集め、別の地域から訪れる人が増えていきました。

私は子どもの頃からマウンテンバイクが好きで、学生時代はキャンプ道具を積んで北海道を一周したり、自転車と共にシベリア鉄道に乗って中国からノルウェーまで行ったりしていました。だから、楽しみながらマウンテンバイクツアーを続けていくことができたんです。

TEXでは、これまでの移住促進や関係人口増加の取り組みを一層後押しする企画を募りたいと思っていました。そのため、参加者の方にはトヨタケ工業だけでなく、稲武という地域をフィールドに、プロジェクトを検討してもらいました。

地域の「人」に着目した「師匠ブック」企画

TEXをどのように進めていきましたか。

最初の段階は、オンラインの研修でどこまで伝わるのだろうと不安なこともありました。しかし、すごく優秀で熱量の高い参加者の方ばかりでスタート時点から地域の調査を丁寧に行ってくださいました。

地域の方へのインタビューを何回か設定し、実際に稲武で活躍する人物をイメージしながら、企画を練っていただけたことも大きかったと思います。

さらに、地域を巻き込んだ企画としてもらうべく、まちづくり推進協議会で成果報告会を設けました。地域のキーマンに直接話をする機会は、町全体にプロジェクトを開いていく重要な機会になりました。

具体的にどのようなビジネスモデルが提案されたのでしょうか。

観光よりも深く、移住まではいかないけれど、人の顔が見える「師匠と弟子」のような関係性を作っていくという提案がなされました。具体的には、稲武の中から「師匠」を見つけてリスト化し、「師匠ブック」を作り、実際にその師匠のところで師弟プログラムを行うというプランでした。

地元の方は意外と自分や身近な人がどういう師匠になりうるか認識できていません。しかし、見渡すと確かに色々なことができる人が多いんです。例えば、ブルーベリー農家のブルーベリーの栽培の師匠。また、稲武は昔から朝廷に献上するくらい蚕の養殖が盛んでした。今でも宮内庁に絹を納めて、一級品の養蚕の技術を伝える師匠もいます。他にもマウンテンバイクや草刈り、自動車の整備など20人以上の多様な師匠がリストアップされていきました。住民がカリスマになっていく企画はとてもいいなと思いました。

これまで地域内で話し合う中では、観光資源をPRするような案はあれど、人に焦点を当てるプランはほぼありませんでした。地域だけで閉じていれば、ほぼ全員が知り合いなので、師匠ブックを作る必要はないため思い浮かびもしないでしょう。地域の中だけでは出てこないプランを提案いただけたことは非常にありがたかったです。

このような企画をどう地域に活かしていこうと考えていますか。

地域の人が持続していけるような仕組みを構築していくことが重要だと考えています。他地域の人との繋がりを作っていく中で、住民の方にも自信を付けていくことができるでしょう。時間はかかるかもしれませんが、確実に広げていきたいと思っています。

「越境」の体験は参加者と地域双方の成長に

横田さんや地域にとって、TEXはどのような機会になりましたか。

トヨタケ工業からも2名の社員を出して今回のTEXの受け入れを行いました。参加者の方と触れ合う中で、これだけの人が真剣に地域に向き合ってくれていると感じられたことは大きな経験になったと思います。

さらに、TEX終了後、参加者の方が実際に稲武を訪れてくださいました。弊社の工場を見学してくださったり山の中でマウンテンバイクに乗って自然を体験してくださったり。さらには、まちづくり協議会の方々と交流会も開催しました。稲武を肌で感じてもらい、リアルな人と人とのつながりになったことはすごく意義深いことだと思います。改めて関係性を結ぶことができ、突っ込んだ形で師匠ブックの企画を練っていけると感じています。

今後、TEXの受け入れを行う地域の方にメッセージをお願いします。

受け入れる側が“やらされ感”を持つようになってはいけないと思います。最初から、全てを想定はできないと思うんです。そもそも理解度が高い参加者の方達ですが、こちらがきちんと情報提供を行なって、アウトプットを一緒に作っていくような働きかけが大事になるのではないでしょうか。そして、こちらがきちんと向き合うと、ポンポンポンと驚くような発想が出てきます。こうしたアイデアは、地域に還元できる有効な企画につながっていくと思います。

また、地域の外から、この場所のことを応援してくれる人が増えることはすごくありがたいことですよね。

今後、TEXに参加しようと検討しているビジネスパーソンや企業へメッセージをお願いします。

社内から出ないでいるのは楽な道だと思います。いつものメンバー、いつもの場所、いつもの通りに仕事をしていれば苦労は少なくて済みます。ただ、価値観の違う人やバックグラウンドが異なる人と話をする機会に飛び込んでいくことは、すごく人間力を鍛えることにつながると思います。最初は「面倒くさいな」と思うかもしれませんが、大きく変容するチャンスなのです。

かくいう私も、稲武に帰ってくる以前、10年間以上大企業内で働いてきました。外に出る必要はないし、社内の仕事で忙しいし、飲み会ではいつも誰がどこに配属になったという人事の話をして……、という日々を過ごしていたんです。その頃と比べて、現在は外との関係性を持ち多様な人とコミュニケーションを取ることができ、圧倒的に人間的な幅が広がったと思っています。

いつもの居心地の良い場所から出る人と出ない人とでは大きな差が付くと感じています。TEXは、異なる環境に越境できる貴重な機会です。企業にとっても、一人のビジネスパーソンにとっても、こうした経験はどんどんした方がよいでしょう。

そして、越境される地域にとってもすごく刺激になる。「越境」という体験は双方にとって非常に重要なキーワードだと感じています。

取材日|2023年4月22日