株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
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CASES取組事例

インサイトを捉え、大胆に変えていく。自社独自のストーリーで進化を続けるニコンの人材育成|株式会社ニコン

研修(階層別・選択型) 育成体系・制度設計支援
株式会社ニコン
「信頼と創造」の企業理念のもと、100年以上にわたりイノベーティブな製品やソリューションを提供し、人々の暮らしや産業の発展に貢献つづける株式会社ニコン。2030年のありたい姿に「人と機械が共創する社会の中心企業」を掲げ、人材戦略の領域においても経営戦略を踏まえた変革を進めています。
ファーストキャリア社では、2020年より新入社員研修やOJT指導員研修の年間施策を中心に、ご支援をさせていただいております。今回は経営管理本部人材開発部の野尻 孝弘さんに、同社の人材育成において大切にしている考え方や、取り組みと成果についてお話を伺いました。

 

経営管理本部 人材開発部  野尻 孝弘 様  

マーケティング思考で俯瞰し、施策を体系立てる

――まずは野尻さんのこれまでのキャリアを教えてください。

野尻 大学卒業後、ビジネススクールにてオフィスソフトやウェブ制作のインストラクターを経験した後、広告代理店に入社し、ウェブサイトやデジタル活用に関する業務に従事していました。クライアントのニーズを踏まえ、企画提案から設計・デザイン、プログラム開発まで一通り担当していましたが、ベンダーではなく、自社の戦略立案や課題解決を図る発注側の立場で仕事をしたいと思うようになり、2006年に当社の広報部門に転職しました。

当社に入社後は、主に自社ウェブサイトの企画やディレクションを担当。グローバルに展開している当社グループサイト群の統括・調整や、大規模リニューアルにおけるプロジェクトマネジャーも長年にわたり担当していました。そして、もともと人材育成に興味があったこともあり、自ら手を挙げ、2017年に現在所属している人材開発部に異動しました。 

――広報部門から人材育成部門への異動は、いわゆる「異職種へのキャリアチェンジ」に近かったのではないかと思います。

野尻 そうですね。そのように言われることが多いですが、私自身はこれまでの経験も活かすことができると考えていました。
例えば、ウェブ制作では、会社の方針やニーズ、業界動向、利用者ニーズ等を踏まえ、目的やコンセプトを決めることから始まり、それに基づき設計や制作をし、サイトを構築していきます。まさに人材育成においても、自社の状況や教育のインサイトを捉えながら、方針やコンセプトを考え、体系を構築し、教育プログラムを作り上げていきます。
新たに学ぶべきことも多く苦労もありましたが、実際に人材育成の業務は、ウェブサイトの企画やディレクション業務と考え方や業務フローが似ている点が多くあります。 

――共通点も多かった、と。

野尻 はい、そうですね。マーケティング思考やUX(ユーザーエクスペリエンス)やIA(インフォメーション・アーキテクチャ)の知識・経験は、今の業務で活かせているという実感があります。また、現在進めている部内プロジェクトでは、マーケティング思考で「全体を俯瞰して捉え、体系立てる」といった共通認識を醸成できるようにメンバーにも働きかけています。

インサイトを捉え、自社ならではのストーリーを紡ぐ

 ――部内プロジェクトについて教えてください。

野尻 まず、2022年に発表した中期経営計画では、人材の「獲得・育成・活躍」の3本柱で人的資本経営に取り組むと明記し、採用活動を強化しました。採用の次は育成。2023年にスタートした部内プロジェクトでは、我々のミッションは人的資本向上につながる人材の育成に寄与することであり、研修はあくまで目的達成のための手段・ツールにすぎず、既成概念を捨てて教育体系を再整備することを方針として掲げています。
プロジェクトでは、「Insight」、「Modify」、「Originality」の3つをキーワードに、経営方針や教育に関するインサイトを捉えつつ、ニコンとして何が必要なのか、時代に合った教育にどう再構築するのか議論しています。まだまだ課題も多くありますが、毎年新たな施策の展開や見直しを図るなどプロジェクトを継続しています。

――「インサイト」を捉えること。まさにマーケティング視点にもつながるお話ですね。

野尻 そうですね。会社としての目的や世間動向、社員の状況を踏まえて、ストーリー性のある施策になっているかという点は大事にしています。また、提供する教育においては、誰に、何を、どのように提供し、どのような効果を得るのか、顧客体験価値をいかに高めるかといったマーケティングの考え方は評価軸として大切にしています。

――「インサイト」を捉えるために、どのような工夫をしていますか?

野尻 HR系セミナーの参加や他社の人事担当者の方々との情報交換会により、定期的に世の中の動向を把握するように努めています。また、全社としての教育の最適化を図ることを目的に、社内の各ユニット(事業部、本部)と人材育成・教育に関するディスカッションの機会を設け、現場の状況を把握する活動を開始しました。この他にも、研修参加者の事後アンケートの確認だけでなく、研修中の受講者の発言や様子を行動観察し、改善につなげています。

そして、大事なことは、大胆に変える勇気を持つことだと思います。

教育体系や研修は、その時々で苦労し、時間をかけて構築してきたことは事実ですが、これまで築き上げてきたものや過去の成功体験にこだわりすぎず、時には大胆に変える勇気を根底に持つことが、視野狭窄にならずにインサイトを捉えるためのポイントだと考えます。

――この他に、人材育成において大切にしている考え方はありますか?

野尻 個人的な意見にはなりますが、感情面へのアプローチも大切だと考えています。一般的に、同じ内容を学んでも、行動に移せる人とそうでない人がいますよね。行動の原動力となる感情が動くことで、得た知識やスキルを、実際の行動に結びつくと思います。
例えば、研修プログラムの設計時においては、11つの内容自体につながりを持たせつつ、どういう内的変化を起こすかという点も考え検討しています。私は打ち合わせでは「ブリッジをかける」という言葉をよく使っていますが、研修の目的に沿ってストーリーを組み立てること。要素と要素がつながって、最後に目的に沿った全体像が見える仕立てにすることなど、いかに自然と感情を動かし“腹落ち”させるかという点を意識しています。
近年の取り組みでは、キャリア自律プログラムを新設しました。当社の人材戦略では、求める人材の要素に“自律した「個」”をあげているなか、「感情に“気づく”」、「感情を“変える”」、「感情を“活用する”」というテーマで3つの研修で構成しました。公募型の研修ですが、好評で、口コミで広がり多くの社員が受講しています。

主体性を引き出すため、大胆に見直した新入社員研修

――特に、新入社員や若手社員の教育において重要視しているポイントはありますか?

野尻 まず、新入社員に対しては毎年4月に入社から3週間にわたる導入研修を実施していますが、2020年から研修内容の大幅リニューアルに着手しました。長年内製で同じプログラムを実施し、うまくいっていたのですが、昨今はこれまでのような反応や成果が得られなくなってきたからです。そこで、導入研修に関しても一部外部の力を借りることに決め、ファーストキャリアさんにも相談させていただきました。
まず行ったことが目的の見直しです。これまではビジネスマナーや自社理解などの基本的なインプットと同期交流を主な目的としていましたが、「配属後の成長につながる基盤づくり(社会人へのマインド転換)」と再定義し、成長角度を高めることをプログラム方針として設計を行いました。
というのも、まず主体性を引き出すことに課題感がありました。また、他社では即戦力の育成を目的に入社直後の研修を組んでいるケースもありますが、当社の場合は、幅広い領域の事業を展開しており、新入社員はそれぞれ異なる職場に配属となり、職場配属後にOJTや専門分野ごとの教育など職務に応じた育成が本格的に始まります。当社としての状況を踏まえ、このように設定しました。

――職場配属後の育成・成長につながる基盤をつくるために、どのようなプログラムに変更したのでしょうか?

野尻 新人導入研修ではインプットだけでなくアウトプットの機会も多く設け、できることや足りないことを体感できる仕掛けを施しました。特に、自らどのように成長角度を高めていくのか、新入社員自身が考えるプログラムを軸とし、すべてのプログラムが1つのつながりを持つように設計しています。先ほどもお伝えしたように、11つのプログラムにも目的がありますが、実はすべてがつながっているという構成です。そのなかで、「成長角度を高める」とはどういうことか、なぜ目的にしているのかを、3週間を通して体感できる点が特徴的です。

――受講者の反応に変化はありましたか?

野尻 想定以上の反応が得られました。実際に3週間の研修で変化していく様子が目に見えてわかりましたし、受講後アンケートのコメントも変化が見られました。特に、新入社員が研修中に「学生時代の友人に聞いたけど、ニコンの研修は他社とは違って特徴的で素晴らしい」と同期に向かってアピールしていたことがあり、とても印象に残っています。
また、半年後にフォロー研修を実施していますが、以前は導入研修で何をやったか忘れている新人が大半でしたが、導入研修で自ら発表したアクションプランを実践しているという声を多く聞くようになりました。インプットだけでなくアウトプットにも時間をかけ、自らの成長を自身で考えさせたことにより、学びの定着と継続的な行動につながったのではないかと感じます。

現場の理解を得て、さらに施策を進化させていく

――新入社員研修をアップデートするタイミングで、OJT指導員制度もブラッシュアップされました。

野尻 はい、当社は伝統的に新入社員には指導員がつきOJTでの育成が行われてきましたが、2008年頃より「OJT指導員制度」として、指導員への教育なども含めた制度化を推進してきました。書籍にも取りあげられるほど評判が高かったのですが、こちらも先ほど述べた新入導入研修の方針にあわせて見直しを行いました。理由は、新人を対象に実施したOJT指導員に関するアンケートで課題感が見えてきたからです。
それまでは、OJT指導員制度は新人の育成だけでなく、指導員の成長機会という目的も兼ねていたことから、新人と年の近い若手がメンター的な役割も兼ねて指導員として選定されていました。ただ、新入社員に実施したアンケートでは、仕事の指導に関しての不満が一定数見られたことから、当社の人事制度も踏まえOJT指導員の選定基準を変更しました。また、指導員向けの研修も刷新しています。
その結果、1年で新人向けアンケートの結果が大幅に改善しました。

――制度や研修内容を変革するうえでは、大きなエネルギーが必要だったのではないでしょうか。

野尻 たしかに、新入社員研修もOJT指導員制度も、これまでうまくいっていたこともあり、理解を得ること・共通認識を持つことにはそれなりに苦労しました。特に、OJT指導員研修は社外からの評判も高かったため、反対意見は少なからずありました。これまでの制度や研修の内容が悪いわけではなく、時代や現在の状況に即さなくなっただけなのです。アンケート等のデータや生の声を共有するなど、大胆に変える勇気を持って、働きかけを行いました。
また、OJT指導員や上司だけでなく職場として新人をサポートしており、大幅な改善が図れたことは、新人を受け入れる職場の理解と協力があってこその成果と捉えています。

時代にあわせた”ストーリー性のある”人材育成施策を目指して

――今後注力していきたい取り組みについて教えてください。

野尻 具体的なテーマというよりは、社内外の環境変化を踏まえてどう教育施策をアップデートしていくかが永遠の課題だと考えています。例えば、AIDX教育に当社も含めて各企業が力を入れていますが、高校教育で情報が必修科目になるなど、今後は情報分野に関する十分な教育を受けた学生の入社が増えていきます。どのような影響が出るのか頭の片隅に入れておくなど、常に多方面から考えていく必要があると思っています。
教育や研修は、どれも必要で、やること自体に否定的な人はあまりいないでしょう。また、受けて良かったという結果も出やすいものだと思います。それゆえに、あれもこれも必要だとなりがちで、その視点で積み上げていくと、似て非なるものが増え、一貫性も損なわれてしまいます。また、教育の充実と自律的な成長のバランスも考える必要もあります。
教育の提供は企業・事業の持続的な成長のための人的投資であり、限られたリソースのなかで、効果的に取捨選択しなければならず、会社の戦略を踏まえて優先順位をつける必要があります。また、人を相手にしていることからも、感情に働きかけることも大切です。そのためにも、背景、顧客インサイト、会社としての目的を踏まえ、自社ならではのストーリー性のある施策を展開することを念頭に今後も取り組んでいきたいと考えています。

――最後に、ファーストキャリア社への評価と今後の期待をお聞かせください。

野尻 新人研修・OJT指導員研修のリニューアルに尽力いただきましたが、常に当社の視点で考え、いろいろと提案をしていただけたことに感謝しています。時には厳しいフィードバックもさせていただきましたが、それに応えていただいたことで、成果をあげることができました。パッケージ提供型の会社とは異なり、カスタマイズ性が高く、ソリューション提案できることが強みだと思いますので、これからも当社の立場に立って一緒に検討できるパートナーとしてありつづけていただけることを期待しています。

――貴重なお話をありがとうございました。

経営管理本部 人材開発部  野尻 孝弘 様 (右)
株式会社ファーストキャリア 営業企画部 林田 直人(左)