株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
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若手の不調のサインは、なぜ見えにくいのか ― 後追い人事に陥らないための組織設計という視点

若手の不調のサインは、なぜ見えにくいのか ― 後追い人事に陥らないための組織設計という視点
若手の不調やつまずきに、「もっと早く気づけていれば」と感じたことはないでしょうか。

面談も実施している。
OJTも整備している。
研修体系も充実しつつある。

それでも、問題は“起きてから”共有される。
その背景には、本人の中で困りごとが抱え込まれ、周囲からは問題が見えないまま負荷が高まってしまう状況があるのかもしれません。

若手の抱え込みは、本人の弱さなのでしょうか。それとも、関わる側の配慮不足なのでしょうか。

私は営業担当として現場に立ち、その後、若手支援にも関わる中で、ある構造に気づきました。
若手の抱え込みの本質は、能力不足ではなく、「認識のズレ」と「情報の分断」にあるのではないか。
そして、そのズレや分断が生まれる背景には、個人の問題ではなく、支援が構造として設計されていない
組織の問題があるのではないかと感じるようになりました。

本コラムでは、若手の不調のサインが見えにくくなる構造をひもときながら、
後追いにならないために組織としてどのようにオンボーディングを設計できるのかを整理していきます。

営業現場で感じていた違和感

営業担当として現場に立っていた頃、一時的に複数の負荷が重なる場面がありました。
新しいテーマでの提案を考えながら、既存案件の準備を進め、関係者の多い案件の調整にも対応する。どれも「できないわけではない」仕事でした。

だからこそ、「もう少し整理してから相談しよう」と思ってしまう。
周囲も忙しく動いている様子が見える中で、「この段階で声をかけていいのだろうか」と、相談を先送りにしていました。

外から見れば、元気に働いているように見えていたと思います。
しかし内側では、一人で判断を抱える時間が増え、「以前より、自分らしく働けていないかもしれない」と感じるようになっていました。

当時は、自分の経験や能力の問題だと思っていました。
しかし今振り返ると、それは個人の力だけの問題ではなく、状況が共有されにくい構造の問題だったのではないかと感じています。

この違和感は自分だけの話ではない、と気づいた瞬間

ある日、周囲の若手社員を見渡す中で、この感覚が自分だけのものではないと気づきました。
繁忙の波の中で踏ん張り、弱音を見せずに仕事を回している人たち。
周囲からは「よくやっている」「忙しい中でも頑張っている」と労いの言葉がかかります。
もちろん、その言葉自体は悪いものではありません。

 ただ、その一方で、
「何に困っているのか」「どこで判断に詰まっているのか」
といったことが言語化されないまま、頑張ることが前提になっていく。

 問題が起きていないように見える。
けれど実際には、困りごとが共有されないまま蓄積し、気づいたときには負荷が高まっている。

そしてこの構造は、本人だけでなく、人事や育成側が状況を把握できず、「後追い対応」になりやすい原因にも
なっているのではないかと感じるようになりました。

個別支援で見えたこと、そして限界

この違和感をきっかけに、自ら手を挙げて若手との1on1にメンターとして関わるようになりました。
目的は、抱え込みや判断できない状況が表面化する前に気づくことです。

話を聞くと、多くの場合、能力が足りないわけではありません。
「何が分からないのかが整理できていない」「誰にどう頼ればよいかが分からない」まま、一人で考え続けているケースが多かったのです。

対話を通じて整理すると、「そこを相談すればよかったのか」と前に進める。個別支援の手応えは確かにありました。

しかし、違和感は残りました。
似た構造の相談が繰り返されること、そして「不調のサインに気づけるかどうか」が、
特定の人のアンテナや稼働に依存していることです。

 ファーストキャリアは東京本社・西日本支社の2拠点に分かれており、私は西日本支社で活動しています。
一方で、支援対象となる若手や育成に関わるメンバーの多くは東京本社にいるため、同じ職場で働く機会が少なく、
様子が見えにくいケースも少なくありません。

その結果、気づいたときにはすでに負荷が高まっている——そんな場面にも何度か直面しました。

一つひとつの問題は解消できる。けれど、構造は変わっていない。

若手の抱え込みは、施策が足りないのではなく、支援の設計が十分ではないのではないか。そう考えるようになりました。

個人の能力ではなく、「要求と資源」のバランスという視点

その気づきを整理するうえで示唆になったのが、組織心理学の
「ジョブ・ディマンドリソース(JD-R)モデル(Demerouti, Bakker, Nachreiner, & Schaufeli, 2001)」です。

このモデルでは、仕事には必ず
・要求(Demands)
・資源(Resources)
2つが存在すると考えます。

要求とは、業務量、責任、不確実性、調整の複雑さなどの負荷。
資源とは、上司や同僚からの支援、裁量の明確さ、情報共有の仕組み、心理的安全性などの支えです。

重要なのは、成果やメンタルの状態は能力そのものよりも、要求と資源のバランスによって左右されるという点です。

能力が高くても、要求が資源を上回れば、人は消耗する。
逆に、資源が適切に設計されていれば、要求は成長機会にもなり得ます。

この枠組みで現場を捉え直すと、違和感の正体が見えてきました。

若手が抱え込んでいたのは「頑張りが足りない」からではありません。
何を誰に共有すればよいのかが曖昧で、相談や対話が資源として十分に機能していなかった。

つまり、資源が存在していないのではなく、資源が機能するように“設計できていなかったのです。

組織を対象とした支援という発想

若手のつまずきに向き合うとき、つい「本人の成長」や「上司の関わり方」に目が向きます。
ただ、抱え込みが構造から生まれているのだとしたら、個別の関わりを増やすだけでは限界があります。

個人に働きかける支援から、関係性そのものを設計する支援へ。
相談や情報共有が自然に回る状態を、組織としてどうつくるか。
ここに目を向けることが、後追いからの脱却につながるのではないかと考えています。

日本労働政策研究・研修機構(JILPT)の『中小企業における人材の採用と定着』の中でも、
職場のメンタルヘルス対策は、個人支援だけでなく組織全体の環境整備や支援構造の改善が長期的効果につながると示唆されています。

問題が起きてからケアを強化するのではなく、問題が起きにくい構造を整えること。
これは、人材開発的なの介入から、組織開発的なの設計への転換とも言えます。

支援する人を増やすのではなく、支援が自然に回る仕組みを整える。
点の支援で終わらせず、若手が日々業務を行っている“環境”そのものを変えていく。

まだ試行錯誤の途中ではありますが、ファーストキャリアでも属人化させず、組織として若手を支える設計を整え続けています。

若手が活躍できるかは、「後追いにならない」組織設計が決めている

若手の抱え込みは、個人の問題ではありません。
それは、要求と資源のバランスの問題であり、設計の問題です。

困りごとが言語化されず、情報が分断されたまま要求だけが積み上がると、問題は見えにくくなります。
その結果、人事はどうしても起きてから対応する——後追い人事になりやすい。

鍵を握るのは、組織がどのように資源を設計しているかです。

こうした資源の設計は、一社ごとに異なります。
だからこそ、現場の実態や関係性を丁寧に見立てながら、支援構造を共に描くことが必要です。

若手のつまずきを、本人の努力や能力だけに委ねない。困りごとが言語化され、共有され、支援が循環する。
そんな状態を偶然ではなく構造としてつくっていくことが、後追いにならない組織につながります。

私たちファーストキャリアは、組織開発・人材開発のプロフェッショナルとして、
現場の実態に根ざした支援設計を考え、運用まで含めて伴走していきます。
貴社にとってのよりよい関わり方を、ともに探索し続けられれば幸いです。

参考文献

※1:Demerouti, E., Bakker, A. B., Nachreiner, F., & Schaufeli, W. B. (2001).『The job demands–resources model of burnout.』 Journal of Applied Psychology, 86(3), 499–512.

※2:労働政策研究報告書No.147『中小企業における人材の採用と定着 人が集まる求人、生きいきとした職場/アイトラッキング、HRMチェックリスト他から―』