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COLUMN

2024.09.30

中途オンボーディングを科学する~「会社と人の“想定外”」をどう防ぐか~

中途オンボーディングを科学する~「会社と人の“想定外”」をどう防ぐか~
昨今、多くの企業が中途採用の比率の高い採用計画を組む傾向にあります。2024年度の採用計画に占める中途採用比率は過去最高の43%
(日経新聞調べ)との調査もあるようです。新卒採用メインから中途採用にシフトする企業が増えてきたことや、
これまで中途採用を欠員補充の位置づけで実施してきた企業も、慢性的な人手不足を背景に年間採用計画として戦略的に実施することへ
舵を切ったことがその背景と考えられます。

これまで新卒採用中心だった企業が受け入れ実績の少ない中途入社者に対し、とまどいを感じてしまうのはよくある話です。
また一方で、中途入社者自身においても転職先企業や配属先の職場に対し「イメージと異なる」「聞いていた話と違う」といったギャップを感じるケースも多いのです。
オンボーディングシーンで、企業側、中途入社者側、そのどちらか一方でもこのギャップを抱えている場合、
スムーズな定着への足かせとなる場合があり、ともすると早期離職につながる可能性も出てきてしまいます。

今回のコラムでは、中途採用をした社員は職場に対して、職場は中途入社者本人に対して、採用後に双方ギャップを感じてしまう要因と
その解消法について考察していきます。

※本コラムはヒューマンストラテジーズジャパン社(https://www.caliper.co.jp/)執筆の記事をベースに
 株式会社ファーストキャリアにて再編成しております

中途採用時に起こるギャップの種類とは

前述のとおり、ギャップが発生するケースは大きく2種類あります。ひとつは入社した社員側が感じる場合、もうひとつは受け入れる企業側が感じる場合です。まず、入社した社員側が感じてしまうギャップについて見てみましょう。新規中途入社者が感じるギャップの主な要因として、選考プロセスで形成された仕事のイメージと、配属後の実態が異なることがあげられます。特に入社の意思決定に大きくかかわる仕事イメージは、求人票などの募集要項や、採用エージェントを利用している場合はそのコーディネーターからの説明、採用面接を通じて得た情報などから徐々に構築されます。しかし、そのイメージと、入社後実際にかかわる仕事内容との間にギャップが発生する場合があります。

中途入社者がギャップを感じる例としては以下のようなものがあります。

  • 聞いていた情報と異なる仕事内容だった
  • リーダーポジションのはずが、部下がいなかった
  • 託された事業やプロジェクトに予算がまったくない
  • 孤立しがちな役割、支援が得られないポジションだった

これはリアリティショックとも同義で、人事の皆様には耳馴染みのあるワードかもしれませんが、
改めて先行研究においても以下のように言及されています。

—リアリティショックとは高い期待と実際の職務での失望させるような経験との衝突(Hall1976

上記のように「環境・条件の違い」などもこの高い期待と実際の職務での失望要因に該当するでしょう。これらが発生する理由はいくつか考えられますが、代表的なものだと「求人票の内容と、実際の仕事内容にずれがある」ことがあげられます。当社が採用エージェントから聞き取り調査をしたところ、このようなエピソードは多く聞かれました。各部署から吸い上げた人材要件や業務内容を採用部門がそのまま求人票として登録され、説明や補完が十分になされず求職者に伝えられたり、情報そのものが古かったりすることで入社後のギャップとなってしまうようなケースは一般的に起きていることのようです。

また、面接時においても求職者に伝える情報に齟齬が起こる場合があります。例えば人事や役員クラスの面接官がクロージングをかける場面がこれに該当します。求職者に仕事内容やキャリアを魅力的にアピールしたいが故、知らず知らずのうちに実務実態から乖離した情報(いわば少し話を盛ってしまう)を伝えてしまうことも少なくありません。

一方、企業側がギャップを感じてしまう場面として、採用プロセスで形成された「中途入社者の想定かつ期待されるパフォーマンス」が、実際が異なることがあります。職務経歴書に記載された実績や、面談を通じて得た印象からパフォーマンスイメージは作り上げられるものです。しかし、配属後に聞き取り調査を行うと、「採用時の見立てや評価と違う」という期待していた水準に達しないケースです。これは採用に携わったことがある方であれば経験があるのではないでしょうか。このように、中途入社者が組織に参入するタイミングで起こるギャップやリアリティショックは求職者側だけのものではなく、組織側においても同様のことが起きているといえそうです。

採用時におけるギャップパターンを整理する

ここで整理しておきたいのは、採用に起因する発生ギャップにはいくつかのパターンがあるということです。以下の図を見てみましょう。

企業側が「中途入社者が思ったよりもパフォーマンスが出せていない」と感じている場合の多くは、のケースです。この場合、入社した社員側も「想定よりも仕事が厳しい」「自分の能力と仕事内容が合っていないのではないか」と不満や不安を抱える可能性があります。

反対に、入社した中途社員側の期待が大き過ぎるのようなケースも散見されます。例えば新規事業開発のポジションで入社した中途社員が、入社後の現場では定型業務をアサインされてしまうケースがあったとしましょう。この背景に「自社になじんでもらうため、定型業務を経験してから新規事業開発に携わってもらおう」といったマネジメントサイドの意向があったとしても、当人においては「採用時に聞いていたポジションと異なる仕事をアサインされた」という認識になることは想像に難くありません。結果、不満を抱えて突然離職してしまっても、企業側はその原因を究明できないまま、また次の採用で同じ失敗を繰り返してしまうことになります。

これらギャップが起きてしまう背景を整理すると、そこには3つの壁が存在しているといえます。

配属部署側に存在する組織慣行、暗黙知といったアンコンシャスバイアスの壁

アンコンシャスバイアスとは「無意識の偏ったモノの見方」のことで、「無意識の思い込み」 「無意識の偏見」ともいわれます。各組織には、過去からの経験が収斂された常識があるものです。上記では「自社になじんでもらうため、定型業務を経験してから」という部分がこれにあたります。内部にいると当たり前であり、疑うことが難しいという特徴があります。

配属部署から採用部門への情報伝達の壁

募集要項の作成時、採用部門は採用予定部署やポジションの業務をヒアリングし作成することが多いものの、実務経験がない場合、1から10まで詳細に把握することは簡単ではありません。ここに情報の漏れや解像度の低さがあると、中途入社者にとって重要な情報が採用の前段階で抜け落ちてしまっていることになります。

中途入社者側のパーソナリティ、内的動機の壁

中途入社者が物事に対する解釈に柔軟性が高い場合や、組織への適応を重視していたケースがこれにあたります。中途入社者が入社前後のギャップをあらかじめ想定し、柔軟に物事を受け入れる構えがあれば問題とはなりません。しかし全員がそのようなパーソナリティを持つわけではありませんし、その度合いを測ることに難しさがあります。

採用~入社、配属時にできるギャップ発生リスクへの対処

採用に携わる人事部門は採用人数の確保が至上命題であるため、中途採用者が配属された後についてはその責任範囲から外れることが多いのが実情です。しかし短中期で中途採用者が早期離職をしてしまった場合や、思ったようなパフォーマンスを発揮できず配置換えになってしまった場合、同じポジションの採用を再度迫られる可能性があります。ギャップ解消に向けた対処をあらかじめ講じておくことは、結果として人事部門の限られたリソースを守ることにつながります。ギャップへの対処として必要な観点を見ていきましょう。

——採用から中途オンボーディング設計におけるポイント

募集前段階におけるギャップへの対処

まず押さえておくべきことは「配属部署側に存在する組織慣行、暗黙知といったアンコンシャスバイアスの壁」ならびに「配属部署から採用部門への情報伝達の壁」への対処です。この2つに向けた取り組みは、平易にいえば、「配属部署との目線合わせ」となりますが、実態はもう少し複雑です。特に組織に存在する暗黙知を適切に把握することは存外に難易度が高く、求人票を構築する際の一般的な部門ヒアリングだけでは抽出ができない可能性があります。「組織の常識は世間の非常識」に陥っていないか、独自性や特殊性のある決まりはないか、組織の力学がどこにどう働くかなど、詳しく確認しておく必要があります。

中途採用選考時におけるギャップへの対処

次に、中途入社者のパーソナリティ、内的動機の壁への対処です。「社風に合うか」「うまく業務に適応できそうか」という判断は選考フローの中で確認すべき項目です。しかし実際には採用要件や評価項目にわざわざ含めていないケースも多いでしょう。その場合、該当の項目は考慮されないか、一部の気の利く面接官のみが申し送りと事項として定性的に記録するにとどまります。本来は採用フローやその中身である評価項目を関係各所と調整し、アップデートさせることがより手法かもしれませんが、非定期で実施される中途採用において、その構造にテコ入れを図ることは現実的ではありません。

このパーソナリティや内的動機に起因するギャップについては、入社直前期に本項目を確認できる適性テストに刷新し実施することも一案です。例えば我々のソリューションでもあるキャリパープロファイルは、「パーソナリティの見える化、内的動機の見える化」が特徴のアセスメントで、能力ジャッジだけではない、配属後のオンボーディングを見据えたパーソナリティ把握をすることができます。

配属後におけるギャップへの対処

特定のポストや役割を期待しての採用であれば、本人と部署責任者、プロジェクトメンバーなど主要関係者でのキックオフを設けることも有効です。中途入社者側からはどのような意向でそのポジションに応募したのか、どのようなスキルセットがマッチしたと思ったかなどを話してもらうとともに、受け入れ側からはどのようなスケジュールでなにをどう任せようと思っているのかを理由と共にお伝えいただくような場がデザインできるとよいでしょう。

ただし注意すべき点もあります。中途入社者はいわば配属直後のオンボーディング初期段階であるため、受け入れ側と釣り合わないケースがあります。本人のパーソナリティに応じてキックオフのセッティングとミーティングのファシリテーションは第三者である人事担当、採用担当の皆様や、利害関係が高くない事業部人事のような方に入っていただくような配慮も必要となります。

まとめ

中途採用が活発になる中で、株式会社ファーストキャリアも多くの企業様から中途入社者向けオンボーディングのご相談を受けることが増えています。特に中途入社者に向けたワークショップの実施や、受け入れ側の備えとして受け入れ方研修に関するご相談が増加傾向にあります。本ブログでは、それ以前に、そもそも入社後のギャップがなぜ、どのように起こるのかをお伝えするとともに、そこへの対処法として採用の前段階~入社後の取り組みをお伝えしました。これらは中途オンボーディングをスムーズに進めるための事前準備のような位置づけとなります。これをきっかけに採用活動をさらによりよいものとなり、中途入社されるご本人、そして受け入れ側である職場の皆様の双方にとって、よりよいスタートを切っていただくための中途オンボーディングデザインの一助になれば幸いです。

参考:日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC3041Y0Q4A330C2000000/