TEX in 石川県七尾
机上の議論から一歩踏みだし、地域へ具体的なインパクトのある企画を構想
今回は、2022年度リーダーズ・キャリア・サミット-TEX(True EXperience) in七尾で受け入れを担当した七尾自動車学校代表取締役社長で、七尾という地域を軸にさまざまな活動を行う森山明能さんに、TEXでの取り組み内容やTEXを経た後の変化などについて聞きました。
代表取締役社長 森山明能
石川県七尾市出身。大学進学を機に上京し、卒業後は七尾市に戻り、家業の七尾自動車学校、民間まちづくり会社・株式会社御祓川、(一社)地域・人材共創機構理事などで働くポートフォリオワーカーに。2022年度リーダーズ・キャリア・サミットTEX(True EXperience) in七尾の受け入れを担当。
地域の「担い手不足」に向き合うプログラム
TEXを受け入れた背景を教えてください。
石川県七尾市は、能登半島中央部に位置します。僕はこの場所で生まれ育ちました。現在は、家業である七尾自動車学校の代表とまちづくり会社・株式会社御祓川、飲食店経営、ゲストハウス運営など、8個程の仕事を持つポートフォリオワーカーとなっています。さまざまな役割を担っていますが、「七尾や能登のためになる」ということがそれら全ての軸にあります。
僕は、父が青年会議所で街づくりに没頭していた頃に誕生し、名前の「明能」にも「能登を明るくする男」という願いが込められています。小学6年生の文集では、「僕の夢」として「七尾をより良くする」と書いていたほどで(笑)。この地域で、この地域のために、生きることが僕にとって重要なことなのです。
僕が地域の活動に打ち込む中で直面したのが、「担い手不足」の課題でした。TEXの参加者にも、この課題にどう向き合うかを考えてほしいと提示しました。七尾にはすべての住民が夢中になる祭りがあります。僕自身もこの祭りが地域の魅力に直結していると考えています。一方で、担い手不足の課題は地域が誇る祭りにも影を落とします。そこで、今回は「僕」を題材にしながら、七尾の担い手不足に対する解決方法を検討してほしいと課題提起しました。
TEXを受け入れたのは、森山さんにとってどのような時機だったのでしょうか。
僕自身も新たな事業に挑戦するタイミングでした。自動車学校領域の仕事とまちづくり領域の仕事をいよいよミックスしよう動き始めたのです。自動車学校には合宿生が年間700人ほど2週間に渡って滞在します。一時的にそれだけの若者が増えるにも関わらず、地域とはまったく交わらずに帰っていたのです。これは非常にもったいないですよね。
七尾には、個性的な経営者がいたり、地域ならではの資源があったりと、おもしろいことが詰まっています。一方で地域課題も多いです。こうした地域の魅力や課題に触れることで、合宿生自身の成長へとつなげてもらえるのではないかと考えました。地域にとっても、合宿生たちの持つ力を波及することができれば大きな利点になります。こうした考えから、合宿所を「リビングラボ型ホテル」とすることを構想し、新規事業化に向けて動き出したのです。
企業を主語として具体性と主体性があるプランを立案
実際にTEXを開催してどのような印象を受けましたか。
率直にいうと、期待以上の提案をいただけました。TEXのプログラムを進めていく中で、参加者の七尾に対する理解の深まりを実感しました。プログラムの途中で七尾を訪れてくれるメンバーもいて、自身の肌で感じたことを大切に、その後の企画立案につなげくれていたように感じます。現地に脚を運ぶことで、七尾ならではの人間関係の近さやサイズ感を体感してくれたように思いました。
具体的にどのようなビジネスモデルが提案されたのでしょうか。
今回のTEXは、首都圏の企業3社から参加してくださいました。前半は多様な企業のメンバーがミックスした状態でアイデア出しをし、後半は同じ企業のメンバーでチームを組みプロジェクトを検討しました。その結果、企業を主語として具体性と主体性があるプランを立案するまでに至っていきました。
一つ目のチームは、祭りの担い手不足に切り込み、「参加者」と「見物人」の間を埋める存在を設けることで、祭りをより盛り上げ、参加者を増やすことができるのではないかという提案でした。この「中間の存在」として、祭りで汗をかいている人たちにソフトドリンクを支給する部隊について提案してくれました。ビールの売り子のようにサーバーを担いで、配って歩くというイメージです。それが「ワッショイサーバー」というネーミングで企画されており、その秀逸さに驚きました。
二つ目のチームは、各地域のローカル番組を温める役として吉本芸人が47都道府県に「住みます芸人」を配置しているのですが、それにヒントを得て、「住みますコネクト」という仕組みを提案してくれました。地域の課題に、自社の社員がITの知識やベンダーとしての経験をコネクトしていくという発想です。イメージとしては、ワーケーションのもう一歩先。地域課題をリアルに感じながら、コーディネータとして自分のキャリアアップと会社への貢献を同時進行で行うプログラムです。地域と自分と企業にとってプラスになる活動となる発想もさることながら、さっそく自社で実装できないか、人事部に交渉をしていた行動力も印象的でした。
三つ目のチームは、地域の課題となっている獣害対策に着目をしていました。ジビエに関わる担い手はまだまだ少ないという現状があります。こうした背景を受け、「自社の大規模な社員食堂で、イノシシのジビエなど地域のローカルの食材を受け入れられないか」と発想しました。実際に運搬や調理の業社に予算を確認するなど、具体的に動いていました。
どのチームも机上の議論を超えたプログラムにまで進めてくれ、チームとして企業のリソースをどう使っていくかという視点も交えることで具体化していきました。時流も掴んでいるし、ぜひアクションにつなげていきたいと思っています。
「地域のリーダーに会うことはおもしろい」と伝えたい
森山さんにとってTEXでの経験はどのような意味がありましたか。
TEXというプログラムを通じて、「七尾にこうやって関わってもらうことができるのだ」と可能性を感じることができました。日本で最初の株式会社形態の民間まちづくり会社である株式会社御祓川では、10年以上にわたり地域の資源・課題と民間企業を結びつけることを続けてきました。コロナ禍以降は、働き方の自由度が増し、ワーケーションなど「企業を背負って個人が地域を訪れる」ことができるようになりました。この変化はとても大きなものです。TEXは地域と人材育成の新たな可能性をひらく取り組みだと思います。僕が作りたい「リビングラボ型ホテル」の構想とも重なっており、先んじて疑似体験させてもらえたことはとてもありがたかったです。
TEXに参加する企業のメンバーには、どのような効果があると思いますか。
参加者にとっては、新規事業開発の種を掴んでもらったり自己の成長の機会にしてもらえたりしたのではないでしょうか。また、今回は企業を背負って参加していたので、自社の可能性についても考えうる機会になったのではないかと思います。
今後の参加を検討している方には、TEXで「地域のリーダーに会うことはおもしろいよ」と伝えたいです。地域のリーダーは多くの場合、TEX参加者であるビジネスパーソンや学生とは異なった人生観やキャリアを持っています。そのギャップを体験することは、刺激的なことでしょう。
TEXを受け入れることは、地域にとってはどのような効果がありますか。
地域のリーダーは首都圏で働く方々で会うことがおもしろいはずです。僕自身、色々な学びを得ることができました。今後、TEXで練られたプロジェクトが始まっていくのであれば、それは地域の力に直結します。
参加者も地域のリーダーも、お互いのギャップを楽しみ、得られたことを循環していけるとよいのではないかと思っています。
インタビューの様子を動画にまとめました。こちらもご覧ください。
取材日|2023年3月31日