株式会社ファーストキャリア (FIRSTCAREER)
ファーストキャリア
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INTERVIEWインタビュー

TEX in大垣

地域外の多様な視点を得ることで大垣市での存在意義を実感

ビジョナリーリーダー
『TEX(True EXperience)ーリーダーズ・キャリア・キャンプ』は、企業人と学生が日本の様々な地域のビジョナリーリーダーたちと共に、地域の社会課題に向き合い切磋琢磨することを通じて、影響を及ぼしあう越境学習プログラムです。

今回は、2021年度TEX(True EXperience)ーリーダーズ・キャリア・キャンプ in大垣で受け入れを担当した有限会社大橋量器の大橋博行さんに、TEXを経た後の変化やTEXをきっかけに誕生した事業などについて聞きました。
PROFILE
有限会社大橋量器 

代表取締役社長 大橋 博行 さん

岐阜県大垣市生まれ。大学進学を機に上京し、卒業後は日本IBMに就職。その後、Uターンし、家業である日本の伝統産業である「枡」の製造・販売を行う大橋量器へ入社。2021年度TEX(True EXperience)ーリーダーズ・キャリア・キャンプ in大垣の受け入れを担当。

TEXで気づいた地域における自社の存在意義

TEXを受け入れたきっかけを教えてください。

私の生まれ育った大垣市は「枡の街」なんです。大垣市で日本の枡のシェア8割を占めています。1950年に創業した弊社大橋量器も地場産業を支え続けてきました。しかし、全国的に枡でお酒を飲んだり節分の時に枡を持って豆を撒いたりする機会が減ったことにより、11社あった枡専門メーカーは3社にまで減少。

こうした課題から、私たちは枡を次世代につないでいくにはどうしたらよいかを考え続けてきました。例えば、枡に気軽に触れ合えるmasu cafeを大垣駅前に作ったり、飲食店で枡で乾杯してもらえるよう提案したり。ただ、枡を身近に感じてもらえるようになるには程遠い状況。さらに、コロナ禍となり枡を使うようなお祝い事のイベントも減少してしまいました。TEXでは、参加者の皆さんと枡を広く使っていただける方法を考えたいと思っていました。

地域の課題解決として期待していたことはありますか。

TEX以前まで、私は大垣市にはこれといった地域課題はないと思っていたんです。長い目で見たらなだらかに人口減少は起きているものの、大垣市は学校や病院、文化施設などもあり非常に住みやすい土地なんです。生活する上で不自由がないので、地域課題に意識が向きにくかったのかもしれません。

しかし、TEXに参加してくださった方から「『地域課題がない』イコール『特徴がない』ということではないですか」と指摘され、地域への眼差しがガラリと変わりました。たしかに、大垣市では「ここを地域外の方に誇れる!」といたシビックプライドがあまり意識されていません。TEXを経て、その特徴のなさが課題だ、と私自身が気付かされました。そして、私たちが作る枡こそ、大垣市を特徴づけるものになるのではないかと思い至ります。TEX参加者の皆さんには、我々の地域での存在意義に気付かせていただきました。

「人と人とをつなぐ枡」という価値

TEXを実施して印象深い出来事はありましたか。

あるチームが提案の中で、「枡の機能は『量る』もの。何かを量る時には、必ず人と人がいます。つまり、『人と人とをつなぐのが枡』ですよね」と言ってくださったんです。この言葉で、本質的な枡の価値に気づかせてもらいました。「人と人をつなぐ」は、弊社のテーマとしてこれからもずっと社内外で大切に伝え続けていきたいと思います。先日行った展示会でも、パネルに「人と人とをつなぐ枡」と書かせてもらいました。

参加者からは具体的にどのような事業提案がなされましたか。

提案は2回に渡って行われたのですが、1回目からおもしろく聞かせてもらいました。まず、枡を学校給食の食器に使ってはどうかという提案。飲食店と協働することはこれまでも視野に入れていましたが、給食の視点はありませんでした。子どもたちに地域を知ってもらうチャンスとなりますよね。また、移住してくる方へのプレゼントとして枡を使う案や、グランピングのアイテムとして枡を活用するプランなどが出されました。

初回の提案からブラッシュアップして、最終プレゼンテーションとなりました。最後は各チームからどのようなプランが提案されましたか。

最終プレゼンテーションでは、工数やコストを鑑みて事業化に向けたより確度の高い提案をいただきました。例えば、「もったいないを量る」をコンセプトにしたダストボックス。枡をダストボックスに改造し、お子さんが食べ残しを量りSDGsを意識できる仕掛けとしています。他にも、枡を使った「アドベントカレンダー」を作り、大垣市民へプレゼントをするプランも出ました。これらは弊社で試作品を作る段階にまできています。

また、スパイスやコーヒーの量り売りとして枡を活用するプランも出されました。他店と協働しやすいように提案書までつくっていただき、現在大垣のコーヒーショップとやりとりをし、どんなものであれば活用できるかを話し合っているところです。

TEX参加者の皆さんには、「もっと枡でできることがあるのではないか」と漠然と思っていたことを形にしてもらい、また、考えつかなかったような視点もいただくことができました。

全国に仲間がいる心強さを得た

参加者の方にはどのような力がついたと感じましたか。

もともと皆さんとても優秀な方ですが、普段ご自身のいる地域とは異なる環境の問題に向き合って、課題解決力を高めるプログラムになったのではないかと思います。また、大企業の方は我々中小企業の課題や悩みに触れて、多様なものの見方ができるようになったかもしれませんね。いずれにしても、ご自身の経験値がグンと上がった体験だったのではないでしょうか。TEXは、これまでとは異なる角度から社会や世界を見るきっかけになると思います。

TEXを実施した感想をお願いします。

TEXで「枡は大垣市を特徴付けるものだ」という発想をいただき、大垣市民を元気にするために枡を使っていきたいと思うようになりました。TEXは大橋量器の地域での存在価値を考える貴重な機会となりました。

また、TEX参加以前は大垣市や大橋量器に触れたことがなかった方々が、真剣にこの地域と枡に向き合ってくれた姿勢に純粋に感動しました。皆さんと事業を練っていく中で、全国に同士ができていくような心強さを感じることができました。

今、TEXで出会った皆さんの期待に応えたいという思いを強く持っています。TEXで新しくできた自社の価値や製品は私にとって宝物となっています。いただいた着想を一つ一つ形にしていきたいと思っています。

取材日|2022年3月29日