TEX in宇和島
TEXをきっかけに新卒採用をスタート! 新風が吹き込み、より挑戦を続ける組織へと成長する
今回は、2019年度TEX(True EXperience)ーリーダーズ・キャリア・キャンプ in宇和島で受け入れを担当したイヨスイ株式会社の荻原寿夫さんに、TEXへの期待や体験後の変化などについて聞きました。
取締役/営業企画室 荻原 寿夫 さん
高校卒業後、渡米。現地の大学卒業後、アメリカの食品卸会社へ入社。計13年間のアメリカ滞在後に、日本に戻りイヨスイ株式会社へ入社。大阪事業所と東京事務所の立ち上げを経て、故郷である愛媛県宇和島市へ。2019年度TEX(True EXperience)ーリーダーズ・キャリア・キャンプ in宇和島で受け入れを担当。現在は、国内外の営業企画を担いながら、輸出拡大を見越し成田事業所の立ち上げに尽力する。
「水産業に誇りを持てない」という地域の課題解決に向けて
TEXを受け入れたきっかけを教えてください。またその当時、どのような課題意識を抱いていたのでしょう。
イヨスイは、1991年から愛媛県宇和島市で、水産業の中でも生きたまま魚を運ぶ活魚物流や加工業、海外への輸出業などを担ってきました。父が起こしたイヨスイに入社する以前、私はアメリカの大学で学び、日本資本の食品商社で働いていました。そこでは、日本の水産物をアメリカのレストランやスーパーへ卸す仕事を担当していました。その頃は健康志向に後押しされた和食ブームを背景に、日本の水産物が世界で高く評価され始めた時期だったのです。
宇和島の水産物は、東京や大阪などの国内大都市圏にも多く流通していました。それに加え、自分の地元の魚がアメリカでも高く評価され、注目されていることにとても誇らしい思いを抱きました。
でも、宇和島の人たちにはそうしたことが案外知られていません。これはとてももったいないことですよね。宇和島の人たちに、地元の水産物が世界に求められていることを知り、地元の産業に誇りをもってもらいたいと考えていました。TEXでは首都圏や県外の若者が実際に宇和島へ足を運んでくれます。こうした経験により、地域に何らかの化学反応が起こるのではないかと期待しました。
また、私も帰国当初は日本の慣習や水産業の当たり前に対して、疑問を持つことが多かったのですが、しばらくするとそれが薄れていきました。環境に慣れてしまうと、どうしても日々の仕事に対する新鮮な発見は少なくなります。TEXでは若くて意識の高い学生や異業種のビジネスパーソンと関わることで、自身を刺激したいという思いもありました。
地域の方に水産業に対して誇りを持ってもらいたいという思いは、どういったシーンで感じていたのでしょう?
「一度都会に出ても、親が水産業をしているから帰らなければいけない」や、逆に「息子には苦労をかけたくない、養殖業を継がせられない」といった声が聞かれるのは日常茶飯事。「きつい」「汚い」「危険」の3Kの仕事というイメージも根強いようでした。また、「どうせ儲からないよね」と諦めている人も多かったんです。
残念ながら、こうした地域の課題を打破することはできていません。問題も複雑であるため、そう簡単に解決できないことは理解しています。しかし、動き出さなければ現状を変えていくこともできません。我々が自ら動くことで、地域や地元産業に少しでも貢献できればと考えています。
「自分が育てた魚が、どの地域のどんな人たちに届いているか」「世界の食卓で、人々を笑顔にできているか」、生産者の方々はそうした情報を得ることが難しいのが現状です。イヨスイは、生産から加工、流通、販売まで一気通貫型に事業を行い地域に多軸的に関わっているため、販売側の取引先や市場から消費者の情報を地域にフィードバックする橋渡し役になることも可能なはずです。そうした点から、私たちにまだまだできることはあると感じています。
水産業はこれからも伸びていく業界です。世界規模でいえば、5倍から10倍になっていくといわれています。加えて、SDGsが世界的に叫ばれている現在、海洋資源の持続可能性という観点からも養殖業は一層注目されています。当社には「海の可能性を追求する」という創業精神があります。この可能性をきちんと可視化し具現化していくことができれば、「水産」という仕事に大きなポテンシャルを感じてもらえるのではないか。TEXに参加してくださった方々にはそうした私の想いをお伝えし、一緒に検討を進めてもらいました。
実際にTEXではどのような活動をしたのですか。
初日はお互いに自己紹介をして、翌日は水産業や市場を実際に知ってもらえるよう宇和島を巡りました。宇和島市役所にも赴き、市長や産業経済部の方々からも地域産業の現状や若者への期待をお話いただきました。私は正直なところ、「若者に水産業へ興味を持ってもらえるのかな」と不安に思っていたところもありましたが、実際にフィールドに出ると彼らからの質問は途切れることがありませんでした。
その後はグループでワークショップをし、「もしあなたが荻原寿夫であったらどうするか」という問いでプレゼンテーションしてもらいました。例えば、「有名なYouTuberを起用して宇和島の水産業の良さを伝えてみたらどうか」といったアイデアも出され、自由で新鮮な発想に、自身の視野が広がる機会となりました。
TEXをきっかけに新卒社員の採用をスタート
TEXを経て変化はありましたか。
実は、TEXを実施した翌年から新卒社員の採用をスタートしました。今振り返ると、TEX以前は「特に首都圏の若者は宇和島の水産業には興味ないだろう」と勝手なイメージを持っていたのです。しかし、TEXで触れ合った若者たちは、地域に対しても水産業に対しても強い関心を持って接してくれました。壁を作っていたのは私の方で、地域や産業の魅力を知ってもらう機会を設ければ、彼らに興味を持ってもらえるのだとわかったんです。
この経験を活かして採用活動に取り組み、昨年度、はじめて6人の新卒社員を迎えました。2人が県内からで、4人は県外出身者。今年も、3人の採用が決まっています。彼らには水産業に対する固定概念がありません。だからこそ、水産業の可能性を拓く多様なチャレンジができると考えています。もともと当社に根付いている「新しく自由な発想で、挑戦を歓迎する社風」も相まって、宇和島の水産業に新しい価値が生み出せると期待しています。
首都圏の大手企業に入り限られた裁量で仕事をするのも道ですが、自由度高く新たな価値を作る仕事があることはローカルの魅力かもしれませんね。
はい、TEXでも「大きな会社で働くのもよいけれど、小さい会社で自分がしたいチャレンジをするという選択肢もある。どちらがよいかは価値観であって、どちらが正解というわけではない。自分はどういう人生を歩んでいきたいのかを描きながら、仕事を探していくといいと思います」とお話ししました。参加してくださった方に、TEXを自分自身のあり方を考える機会にしていただけたら嬉しいです。
おっしゃる通りですね。一方で、TEXを受け入れるご苦労はありましたか。
自社のことをプレゼンテーションすることが初めてだったので、どこまで説明すべきで、どこまでは不要なのかを考えるのは難しかったです。資料作りも手探りだったので、優秀な若者達が見てどのように思われるのか、正直気を揉みました。結局は、参加者の皆さんがすごく理解力の高い方ばかりだったので、私の心配は杞憂でした。
こうした取り組みは我が社には初めてのことではありましたが、この経験があったからこそ、宇和島や水産業にゆかりのない人たちにどういったことが響くのかポイントを掴むことができました。また、最近の学生たちがどういった問題意識や興味を持っているのかも知る機会になりました。具体的には、SDGsやトレーサビリティはもちろんですが、地域であってもビジネスフィールドはグローバルにひろがっていること、自然や地域と共にありながら生き物を扱う一次産業そのものがキーワードとなることを感じています。この経験を新卒採用のリクルーティングにも生かし、関心に合った切り口で話をするようにしています。
付加価値がつけられるような新たな挑戦を続ける
TEXは荻原さんと参加者にとって、どのような場になりましたか。
TEX終了後に、参加者の数名から「荻原さんみたいな人に会えてよかったです」「自分のキャリアを考えるすごくよい機会になりました」といった感想をいただきました。これはとても嬉しかったですし、今後への励みになりました。TEXは私にとっても参加した方にとっても、自分自身を振り返り、これからの道を歩んでいくパワーを得る機会になったのではないでしょうか。
これからイヨスイでどのようなチャレンジをしていきたいと考えていますか。
若い社員が入ってきたことで、TEXで体験したような化学反応が社内でも生まれています。たくさんの新たなアイデアが出され、私も真剣にそれに向き合っています。若い社員だけでなく、企業全体で挑戦する姿勢をそのままに、新しいことにどんどん実現していきたいと考えています。
私たちは生産者と共存しています。「水産業=儲からない」のイメージを払拭するためには、自分達の経営も維持向上させながら、生産者の方々がきちんと儲かる仕組みを作り、地域の産業に還元していく必要があります。そのために、いかに宇和島の水産業に付加価値を付けていくか。これからも挑戦を続けていきます。
取材日|2022年2月14日