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2026.09.03
研修を"情報収集の場"に変える。育成・配置に活かすための5つの視点

「あれ、この子ってこんなに場を仕切れるんだ」
「普段はおとなしいって聞いてたのに、休み時間はすごく楽しそうに話しているな」
この“ちょっとした違和感”は、実は人事にとってかなり価値のある情報になります。
今回は、「研修を人材理解の場として活用する」という視点を、若手研修を例にご紹介します。
研修は、職場では見えにくい「素の姿」が自然と表れる場所
研修というと、「受講者が新しい知識やスキルを学ぶ場」というイメージが強いかもしれません。ただ、研修にはもう一つ大事な価値があります。それは、普段の職場では見えにくい一面が自然と表れる場でもあるということです。
一例をあげると、グループワークの様子を観察するだけで、個人の様々な特性が見えてきます。
・初対面の相手ともすぐに打ち解けられる
・自然とグループをまとめてしまう
・周りをよく見て、さりげなくサポートしている
・人とは違う視点でアイデアを出してくれる
・その場の空気を明るくしてくれる
こうした姿は、日常業務から離れた環境だからこそ見えてくることもあります。
現場から人事のもとに寄せられる情報は、「気になる点」や「課題感」といったネガティブな情報が多く、どうしても「できていないこと」に目が向きやすくなります。そのため、研修においても、つい受講者を評価の目で見てしまいがちですが、研修は評価するだけの場ではなく、人事にとっての人材理解・人材発掘の機会でもあります。
特に若手研修では、この価値がぐっと高まります。配属されたばかりの若手は、まだ職場で見せている姿が限定的であることが多いです。上司や先輩との関係性次第で行動が変わりやすく、任される業務もまだ限られているため、本来の強みを発揮しきれていない場合も多々あります。
だからこそ、研修で見えた「職場ではまだ表れていない強み」や「意外な一面」は、その後の育成や配置を考えるうえでとても貴重な情報になります。
見えた言動から仮説を立て、育成のヒントに変えていく
研修中に見えた言動は、「面白いな」で終わらせず、人事として活用できる情報として捉え直してみると、また違った価値が生まれます。
例えば、職場では控えめだと聞いていた受講者が、研修では自然とリーダー役を担っていたとします。ここで「研修では積極的だったな」で終わらせず、こんなふうに考えてみます。
『職場ではまだ遠慮しているだけで、関係構築さえできれば力を発揮できるのかもしれない』
つまり、研修での姿から「どんな環境なら、この人は力を発揮できるのか?」という育成のヒントを見つけられるのです。
他にも、研修で見えた行動から、このように育成のヒントを広げていくことができます。
| 研修で見えた行動 | 育成のヒント |
|---|---|
| 場を主導して物事を進めていた | プロジェクト参画で力を発揮するかもしれない |
| 相手の話に、丁寧に耳を傾けていた | 将来メンターとして活躍できるかもしれない |
| 困っている人に、さりげなく手を貸していた | OJTや後輩指導に向いているかもしれない |
| 発言・アウトプットが論理的であった | 業務改善や企画で力を発揮するかもしれない |
| 周囲を明るくしようと働きかけていた | 内定者イベントなどで良い影響を与えられるかもしれない |
研修での言動を「その場限りの出来事」で終わらせず、「どんな環境なら力を発揮できるのか」という仮説を立て、育成のヒントに変えていく。これが、研修情報を人材育成に活かす第一歩になります。
集めた情報は、こんな場面で活きてくる
研修で得た情報は、実際にさまざまな場面で活用できます。
① 配属後の育成方針に反映する
研修で見えた新たな一面を上司やOJT担当者に共有することで、日常業務の中で強みを発揮する機会をつくりやすくなります。進行役が得意だった受講者に、チームミーティングの進行を任せてみる、といった具合です。
② 上司との面談材料にする
研修で良い意味で目立っていた点を上司に伝え、1on1などで本人に伝えてもらうのも効果的です。第三者を介した言葉は信ぴょう性が高く感じられるウィンザー効果もあり、研修で拾った「褒めるネタ」を共有すること自体が価値ある情報提供になります。
③ 異動や配置の判断材料にする
もちろん研修中の様子だけで判断することはできませんが、本人の特性を知る補助情報として、大きなミスマッチを防ぐヒントになることがあります。
④ 人事施策の協力者を見つける
人前で話すのが得意な方や、物事を前向きに捉えられる方には、内定者イベントや若手向け研修で先輩社員として登壇していただく、といった活用も考えられます。
⑤ 気になる人材として、早めに目星をつけておく
少し先の話にはなりますが、研修中に見えたリーダーシップなどの強みを記録として残しておくと、たとえば新規プロジェクトのメンバーを募る場面などで、「誰か若手でいい人材いない?」と聞かれた際に、「あの子が適任かもしれない」と思い出す材料になります。
事前情報があると、観察の解像度が上がる
価値ある情報は、なんとなく研修を眺めているだけでは拾いにくいですが、少しだけ工夫を加えることで、観察の質がぐっと上がります。
そのひとつが、事前情報を持って研修に臨むことです。心理学の「スキーマ理論」でも言われるように、人はあらかじめ持っている情報(スキーマ)をもとに、目の前の出来事を無意識に捉えています。受講者の普段の様子を事前に知っておくことで、実際の言動とのギャップに気づきやすくなり、新しいヒントを見つけやすくなります。
例えば、「指示待ちで自分からはあまり動かない」と聞いていた受講者が、資料配布を自分から手伝いに来てくれたとします。「あれ、全然指示待ちじゃないぞ」という気づきから、こんな仮説が生まれます。
『現場で指示待ちに見えるのは、失敗が怖くて一歩を踏み出せないだけなのかもしれない』
『やるべきことが明確になれば、自分から積極的に動けるようになるのでは?』
さらに、こうしたギャップからは、現場環境に対するこんな仮説に広げることもできます。
| 現場で起きていそうなこと | 指示待ちに見える背景 |
|---|---|
| 優先順位が分からない | 業務の全体像や優先順位が掴みきれておらず、「何を優先して動けばいいのか分からない」状態なのかもしれない |
| 周囲に遠慮している | 忙しそうな先輩・上司への遠慮から自ら話しかけることができず、結果として指示待ちに見えているだけなのかもしれない |
| 裁量の範囲が分からない | 自分の裁量の範囲がはっきりせず、「勝手に動いてルールを乱したら」という不安が行動にブレーキをかけているのかもしれない |
このように、本人の特性だけでなく、現場の環境や関わり方にも目を向けることで、また違ったヒントが見えてくることがあります。
とはいえ、研修の準備だけでも負担が大きい中、事前情報を集めるのは、時間がかかって大変そうだな、と感じるかと思います。しかし、これは決して大がかりなものでなくても大丈夫です。
例えば、研修前に、直属上司やOJT担当者へ簡単なアンケートをとってみるのも一つの方法です。あらかじめ研修設計の中に“上司アンケート”を組み込んでおけば、協力依頼もしやすくなります。
また、現場が多忙で依頼が難しい場合には、既に人事が保有している情報(提出されている育成シートや行動評価シート、アセスメント結果など)に事前にさっと目を通しておくことでも情報収集になります。
受講者人数が多く、個人単位での収集が難しい場合は、「今年の若手はこんな傾向がある」といった年次全体の印象を頭に入れておくだけでも違います。
そして最後に、研修で得た価値ある情報を現場にフィードバックしていくことも、大切なポイントです。人事から、現場にとって有益な情報を届けることで、現場も研修に協力的になり、情報共有のサイクルが自然と回り始めます。それが、組織全体の育成風土の醸成につながっていきます。
研修という機会を、もう一歩先まで活かすために
研修の実施・運営には、時間も費用もかかります。人事にとっても、決して楽な業務ではありません。
だからこそ、せっかく設けた研修の場を精いっぱい有効活用してほしいと考えます。
私たちが研修に伴走させていただく際には、学びや理解度の確認はもちろん、こうした視点も持ちながら受講者の様子を見るようにしています。普段の職場を知らない立場だからこそ気づけることもあり、それが職場での姿との違いを発見するきっかけになることもあります。
研修を「教育の場」だけで終わらせず、「人材を知る場」としても活用する。そして、そこで得た情報を現場へ還元し、次の育成につなげていく。
こうした好循環をつくっていくことも、研修を実施する大きな意義のひとつだと感じています。






