BLOG ブログ
2026.04.06
現場のオンボーディングも大事ですが、そろそろ「人事のオンボーディング」の話をしませんか?
「新入社員の早期離職を防ぐには、どうオンボーディングを設計すべきか」
人事の皆さんとお話ししていると、常に「他者の成長や適応」に真剣に向き合っていらっしゃる姿に、いつも敬意を覚えます。ですが、そんな皆さんに、あえて少し意地悪な質問をさせてください。
「ところで、貴社の人事部のオンボーディングは、どのように設計していますか?」
人事は、経営戦略に沿った、課題を解決する施策を設計するプロフェッショナルです。しかし、いざ自部署に新しい仲間を迎えるとなると、
「人事の仕事に正解はないのだから、OJTで学べばよい」「忙しいから、まずは資料を読んでおいて」と、いわゆる「医者の不養生」状態に陥っているケースが少なくありません。
特に人材開発部門においては、全社・他部署の教育体系を組むことに心血を注ぐ一方で、自組織の育成が最も属人化している……という皮肉な構造も見受けられます。
本記事では、なぜ「人事のオンボーディング」が形骸化しやすいのか。そして、新任人事の立ち上がりを支えることが、いかに人事組織・ひいては全社の価値を高めるのかを、外部パートナーの視点から紐解いていきます。
なぜ人事のオンボーディングは「前任踏襲」で止まってしまうのか
新しく人事を担当される方々は、前任者から多くの資料を受け取ります。その際、「これが昨年のマニュアルと企画書。まずはこれを見てください」と言われることが多いでしょう。
人事担当者は非常に真面目な方が多く、前任者が行ってきた施策の運用・オペレーションを熱心に引き継ごうとします。
しかし、数カ月が経ち、いざ自分が新しい企画を立てようとすると、途端に手が止まってしまうという話をよく聞きます。
その原因は、「なぜこの施策を実行しているのか」という目的(Why)が継承されず、表面的な手順(How)のみを追ってしまったことにあると考えています。
このようなケースに、皆様も心当たりがあるのではないでしょうか。
過去の資料は「正解」ではなく「参考」に過ぎない
人事には、膨大な過去の知見が蓄積されています。これは強みである一方で、
新任者にとっては「変えてはいけない聖典」のように見えてしまうことがあります。
- 「なぜ、このアンケート項目なのか?」
- 「なぜ、この時期に研修を行うのか?」
こうした問いに答えられないまま業務を進めると、新任者は次第に「自分の頭で考えること」を放棄し始めます。
これが、多くの人事現場で見られる「前任踏襲のループ」の正体です。
パートナーとして感じる、オンボーディングが「企画の質」に与える影響
私たちのような外部パートナーが、人事の方々と共に施策を創り上げる中で、オンボーディングの重要性を痛感する瞬間があります。
それは、施策の「目的(Why)」が共通言語になっていないことで、お互いに「迷子」になってしまいそうな時です。
例えば、研修後のアンケートで、数人の従業員から厳しい声が上がったとしましょう。
新任担当者としては、「せっかくの施策が失敗だったのでは?」と不安になるのは当然のことです。
しかし、もしその施策の本来の目的が「数年後を見据えたマインドセットの変革」であったなら、
その批判はむしろ「受講者の行動変容のため、心理的に痛いところを突けている(狙い通り)」という解釈もできるはずです。
オンボーディングの過程で「企画の背景」や「施策の目的・ゴール」が共有されていないと、
目の前のネガティブな反応を打ち消すこと自体が目的化してしまい、本来解決すべき組織課題から論点がズレてしまう。
これは、担当者にとっても、私たちパートナーにとっても、非常にもったいない状況であるように考えます。
なぜ人事の教育投資は「後回し」になるのか
ここで、少し視座を上げてみましょう。なぜ、全社のオンボーディングには熱心な人事組織が、自部署の教育には手を回せないのでしょうか。
そこには、日本企業が抱える構造的な課題があります。
日本企業の伝統として、間接部門への投資が進まない構造にある
厚生労働省の調査によれば、正社員に対して「計画的なOJT」を実施している事業所は6割を超えています。
しかし一方で、OFF-JT(職場外訓練)への支出額は、先進諸国と比較しても極めて低い水準に留まっているのが現状です [1]。
日本企業は伝統的に「現場のOJT」を重視してきましたが、そのしわ寄せが最も及びやすいのが、人事を含む間接部門です。
「現場(営業や製造)」には具体的なスキル研修が用意される一方で、間接部門は「他人の手本になるべき部署だから、自分で学んで当然」
という暗黙の了解のもと、計画的な育成が後回しにされる傾向があります。
実際、2000年代以降の諸外国との比較(無形資産投資の変化率)を見ても、日本の人的資本への投資の伸びは著しく低く、
この「投資の空白」が、人事業務の属人化を加速させています [2]。
「やって当たり前」のストレスが引き起こす停滞
また、人事パーソン特有の心理的負担も、オンボーディングを阻害する要因となっています。
最新の実態調査によれば、人事職のストレス要因として「周囲の理解不足」や、成果が目に見えにくい「エンドレスな仕事」が挙げられています。
人事は常に「新しい課題(人的資本経営、DX、ウェルビーイングなど)」への対処を求められますが、
それらは「できて当たり前」と見なされがちです。この周囲からの高い期待と理解の欠如が、新任担当者の心理的安全性を下げ、
「不慣れな中で、正解がわからないまま独力で進めるしかない」という孤独な状況を作り出しています [3]。
人材開発部門のベテランも実は「教え方」に悩んでいる
人材開発部門のベテランの方も、決して「教えたくない」わけではありません。
しかし、昨今の人事の仕事内容は以前に比べて格段に高度化・複雑化しています。かつての方たちが「背中を見て学んだ」時代とは、
求められる企画のレベルも、扱うデータの質も全く異なるのが実情です。
多くの人事は、過去の経験則を基に我流で企画力を磨いてきたことが多く、それらを体系的に言語化するのには時間と労力を要します。
「自分がやってきたことを教えても、今の時代には通用しないかもしれない」
「多忙な中で、一から企画のイロハを教える余裕がない」
こうした迷いと多忙が重なった結果、良かれと思って「ベンダーへの丸投げ」を許容してしまい、結果的に部下の企画力が育たない……
という「人事育成の負の連鎖」が起きてしまっている企業が多いように感じています。
「人事のオンボーディング」を設計するための3つのポイント
では、どうすれば「人事のオンボーディング」を機能させることができるのでしょうか。
① 人事内のチームビルディングを、「自己理解・相互理解」から始める
人事は「人のプロ」として、従業員の適材適所を考えたり、キャリア面談を行う立場にあります。
しかし、自分たちのチーム内での「個人の理解」は後回しにされがちなのではないでしょうか。
新任者がどのような価値観を持ち、どのような時に最もモチベーションが上がり、逆にどのような状況で不安を感じやすいのか。
これらを単なる「性格」で片付けるのではなく、組織開発の一環として言語化し、上司やチームメンバーと共有するプロセスを、
オンボーディングの最優先事項に据えるべきです。
こうした相互理解がベースにあれば、日々のコミュニケーションの摩擦が減り、フィードバックの解像度が劇的に上がります。
新任者にとっては、「このチームは、自分という人間を正しく見てくれている」という安心感が、早期の主体性を引き出す鍵となります。
② チーム内の「施策の連動性」を紐解く場を用意する
特に、人材開発の仕事は、一見すると「新人研修」「管理職研修」といった具合に、階層ごとの「点」の施策に分かれているように見えます。
しかし、本来これらは「一貫した人材育成のストーリー」として繋がっているべきものです。
大手企業ほど、担当領域が細分化され、縦割りの壁が厚くなりがちです。新任者が着任した際、自チームの業務フローを覚えるだけでなく、
隣のチームが「どのような想いで、どのような教育を行っているのか」を深く知る場を持つことが、施策の質を左右します。
「新人研修で身につけてもらったマインドセットが、数年後のリーダー研修でどう花開くのか」
「管理職の意識が変わらなければ、若手向け研修の成果が現場で潰されてしまうのではないか」
こうした施策同士の連動性をオンボーディングの段階で全体像として掴むことは、部分最適の罠に陥らず、後の企画に深みを与えることにつながるでしょう。
③ 普遍的な「人事の知見」を学ぶ機会を担保する
「前任者の資料をなぞるだけ」の状態から脱却するためには、業務の背後にある「普遍的な知識・理論」という武器が必要です。
日々のオペレーションに追われていると、どうしても「前年もこうだったから」という理由で判断しがちですが、これでは企画力は育ません。
- 学習設計(インストラクショナルデザイン)の基礎: なぜ、この研修手法が選ばれているのか?
- 採用しているアセスメントの理解: どのようなメカニズムのものを採用しているのか?
- 組織行動論の基礎: 今、従業員のエンゲージメントを左右している要因は何なのか?
こうした普遍的な知見は、パソコンで言えば「OS」のようなものです。OSが古いままでは、
どれだけ新しい「アプリケーション(最新のトレンド施策)」を入れようとしても、うまく動きません。
外部の専門研修や他社との勉強会を活用し、「人事としての普遍的な知見」を学ぶこと。人事としての専門性を体系的に学ぶ時間を
あらかじめオンボーディング期間に組み込むことが、結果として自律した人事パーソンへの最短ルートとなるでしょう。
明日から取り組める、新任人事が「スタートダッシュ」するためにできること
では、具体的にどのようなアクションから始めればよいのでしょうか。受け入れ側と新任担当者、それぞれの視点で整理します。
受け入れ側:オンボーディングを「最高のプロトタイプ」にする
自部署に新任者が来ることは、自社のオンボーディング施策をテストする絶好のチャンスです。
「もし、この新任人事が3ヶ月でオンボーディングできたら、その実践知を踏まえて全社施策に活かせるかもしれない」
そんな実験的なマインドで、新任人事のオンボーディングに向き合ってみてください。
また、ベンダーを単なる「作業の依頼先」ではなく、部下の「企画のコーチ」として位置づけ、あえてベンダーとの打ち合わせの主導権を新任者に持たせてみるのも一案です。
その際には、こんな問いを新任人事の方に投げてみることも一つでしょう。
- 「この施策、前任者はこうやっていたけれど、今のあなたから見て『違和感』があるところはどこ?」
- 「この研修を受けた社員が、半年後に現場でどんなことを言っていたら、この企画は『成功』だと言えそう?」
前任踏襲ではなく、「この施策のオーナーである」という自覚を促しながら、自分の言葉で企画を語り始めるきっかけを作ることが重要です。
新任担当者:さまざまなベンダーを「家庭教師」として使い倒す
前任者から引き継いだ資料に記載されていることは全て正しいと思いがちですが、実のところ
「過去の特定のタイミングにおける最適解」という限定的なデータに過ぎません。
市場環境も、現場の悩みも、一年あれば大きく変化します。昨年のトレースが今年も正解である保証はどこにもないのです。
だからこそ、着任したばかりのあなたが持つ「フラットな視点での違和感」を、どうか大切にしてください。
もし、その疑問の正体が自分一人では分からなかった時は、外部パートナーであるベンダーを「家庭教師」として徹底的に使い倒してみてください。
- 「なぜ昨年、このような施策の設計にされたのですか?」
- 「他社で似たような課題を抱えている企業は、どんな風に施策を講じられていますか?」
- 「いまのトレンドと、自社の現状にはどんなギャップがありますか?」
こうした問いを積極的にぶつけ、返ってきた外部の専門知見を「自社の今の文脈」に合わせて翻訳し、
自分の言葉で上司や現場に語り直す。このプロセスが、単なる調整役ではない「企画のできる人事パーソン」への第一歩につながると思います。
まとめ
「人事に異動した○○さん、楽しそうに活躍されているな」
そんな空気感こそが、社内の人事組織の評判を高め、事業現場の信頼を獲得することにつながると信じています。
現場のオンボーディングを支援するのと同じ熱量で、新しい仲間のオンボーディングを考えるきっかけになれば幸いです。
【人事部内のオンボーディング、見直してみませんか?】
「そうは言っても、具体的にどう進めればいいか分からない」
「人事メンバーの企画力を底上げする型が欲しい」
そんなお悩みをお持ちの人事の皆さまへ。
ファーストキャリアでは、人事パーソン自身の立ち上がりを支援する
「人事スタートダッシュ・ワークショップ」を提供しています。
- 人事業務の全体像と「貢献の形」を再定義する
- 研修企画・設計の「普遍的な型」を学ぶ
- 自己・相互理解を通じて、チームの心理的安全性を高める
これまでの支援事例や、具体的なカリキュラムをまとめた紹介資料を、以下のリンクよりダウンロードいただけます。貴社の「人事部改革」の第一歩として、ぜひご活用ください。
参考文献
[1] 厚生労働省「令和5年度能力開発基本調査」結果(2024年6月25日発表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212475_00007.html
[2] 内閣府 税制調査会 納税環境整備に関する専門家会合(第10回、2021年11月11日)資料1「日本の人的資本投資について」
[3] シン・人事の大研究:人事パーソンの学びとキャリアを科学する
田中 聡、中原 淳、『日本の人事部』編集部(著)、ダイヤモンド社(2024)



